化学メーカーの「知的財産部(知財部)」の仕事内容は、知的財産の権利化、知財戦略策定・特許ポートフォリオ管理、侵害訴訟です。あるといい資格は、弁理士、知的財産管理技能士です。必要なスキルは、コミュニケーションスキル、自社製品および周辺技術の理解です。仕事の魅力は、企業価値を向上させること、在宅ワークをしやすいことです。仕事の大変なところは、研究のサポートと思われたり、評価されにくかったり、評価するのが難しいことです。社内キャリア、就職・転職情報についても紹介します。
化学メーカーで研究、生産技術、工場管理の業務をし、多くの部署と仕事をしてきました。その経験から各部署の仕事内容を紹介します。リクルーターの仕事もしています。
仕事内容概要
知的財産の権利化
知的財産部では、研究や特許事務所と協力し新しい製品や製法を権利化します。特許の権利化はおおむね以下のフローで進めます。この記事では特許査定までの一連のフローをまとめて「権利化」と表現します。
1 | 発明 | 研究から発明内容を聞き取ります |
2 | 先行技術調査 | 発明の特徴から先行技術の有無を調査します |
3 | 特許性判断 | 先行技術と比較して権利化できる可能性の有無を判断します |
4 | 出願方針決定 | 特許の重要性と出願コストを考慮して出願の要否を決めます |
5 | 明細書作成 | 出願する請求項と明細書を作成します |
6 | 特許出願 | |
7 | 審査請求 | 出願の日から3年以内に審査請求の要否を判断して審査請求します |
8 | 指令応答 | 特許庁から拒絶理由通知が届いたら反論または明細書を修正して対応します |
9 | 特許査定 | 特許料を納付すると特許権が発生します |
5,6,8の業務は、特許事務所に依頼する場合もあります。
知財戦略策定・特許ポートフォリオ管理
事業戦略をもとに知財戦略を策定し、自社に有利な知的財産状況をつくり出します。そのために、他社を牽制する攻撃的な特許や、自社技術を保護する守備的な特許を組み合わせて出願します。例えば、他社特許の抜けている部分の権利化を狙った出願、他社が今後開発しそうな技術の先回り出願、自社技術をもれなく守る出願をします。
自社の特許をまとめて整理したものを特許ポートフォリオと呼びます。特許査定後の特許は毎年維持費用がかかるため、定期的に維持要否の検討もします。
侵害訴訟
他社が自社特許の権利を侵害している場合は、法的手段をとって争います。
逆に他社から権利侵害を疑われた場合は、自社の実施技術が他社特許の権利範囲外であることを証明したり、他社の特許が無効であることを主張したりします。クロスライセンスできる特許を提供して和解することもできます。
会社の知的財産部と特許事務所の違い
知的財産部の仕事
- 経営戦略をもとに知財戦略を策定する。
- 研究の実験結果から発明を発掘し、発明の先行技術調査をし、出願方針をつくる。
- 特許事務所に出願する明細書の作成から権利化までを依頼する。(これは知的財産部で実施することもあります)
特許事務所の仕事
- 知的財産部からの依頼を受けて、出願する請求項と明細書を作成する。
- 特許庁からの拒絶理由通知に対して応答し、特許査定を得る。
必要な資格
弁理士
必須ではありませんが、仕事をしながら取得を目指すといいでしょう。知財業務に必要な知識と弁理士試験の内容は一致します。弁理士資格があると社内外からの信用が高くなります。
知的財産管理技能士
必須ではありませんが、知的財産部の仕事をするうえで必要な知識が身についていることをアピールできます。知的財産管理技能士は知的財産を管理する技能を評価する資格です。弁理士と比較して取得しやすいです。
必要なスキル
コミュニケーションスキル
社内では研究、社外では特許庁や特許事務所など関係者と協力して仕事をするために必要です。
自社製品および周辺技術の理解
知的財産部の担当者は発明の内容を研究から聞き出します。自社製品および周辺技術を理解していると、コミュニケーションがスムーズにいきます。
仕事の魅力
企業価値向上
知的財産部は適切な知財戦略を策定することで企業価値を向上させることができる、やりがいのある仕事です。研究がいい製品を開発したとしても、他社の特許権利範囲内の技術であれば製造販売できません。逆に、効果的に広い技術範囲の特許を成立させることができれば、他社は自社より機能が劣った製品しか製造できなくなり、自社の企業価値が向上します。
在宅ワークをしやすい
知的財産部はデスクワークが多いため在宅ワークをしやすいです。
仕事の大変なところ
研究のサポートと思われる
知的財産部は自社に有利な知的財産状況をつくり上げるのが仕事です。しかし、研究の発明をもとに特許を権利化しているため、知的財産部は研究のサポートととらえられることがあります。効果的な特許ポートフォリオをつくっても、知的財産部の貢献に気がついてもらえない場合もあります。
評価されにくい、評価するのが難しい
特許はそれぞれ効果に差があり、重要な特許とそれほど重要でない特許があります。重要な特許とは、自社がその特許を持っていることを他社が嫌がる特許ですが、これは他社に聞かないと本当のところはわからないため、自社では正確な評価が難しいです。
特許の重要度には差があるため、特許の数を増やせばいいわけでもない点でも知的財産部の仕事の評価は難しいです。
社内キャリア
知的財産部に異動してくる元は、研究が多いです。女性の研究職の中には、出産を機に研究から知的財産部に異動する人もいます。化学メーカーの研究では化学薬品を扱うためです。
知的財産部のまま、専門を極める人や管理職として部長などマネジメントの道を進む人もいます。
知的財産部から異動する先は、経営企画など文系の職種があります。
就職・転職
入社
大学新卒で知的財産部に配属される人は、有機化学、無機化学、高分子化学、化学工学専攻といった化学系の人が多いです。文系出身の人もいます。
他社から転職してくる人もいます。実務経験があれば、選考時に有利に働きます。
転出
知的財産部のスキルは自社に限ったものではなく普遍的なため、転職はしやすいです。他社の知的財産部や特許事務所、特許庁に転職する人もいます。弁理士など資格保有者は特に転職しやすいでしょう。
まとめ
この記事では化学メーカーの知的財産部の仕事内容を紹介しました。
ほかの職種の仕事内容は、別の記事「化学メーカーの仕事内容とは?」に一覧でまとめています。
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