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わかりやすい化審法の概要と、化学メーカーによる化審法への対応

化学物質管理 その他の仕事内容

化学メーカーで仕事をするうえでは化審法をよく理解しなければなりません。化学物質を上市する際に必ず化審法への対応をするためです。しかし、初めての方にとって化審法はわかりにくいと感じる人も多いと思います。この記事では、わかりやすい化審法の概要と、化学メーカーによる化審法への対応を説明します。

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化審法とは? 安衛法との違い

「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」を略して化審法と呼びます。化審法は、人の健康を損なうおそれまたは動植物の生息・生育に支障を及ぼすおそれがある、難分解性高蓄積性長期毒性のある化学物質による環境の汚染を防止することを目的とする法律です。化審法は大きく分けて次の三つの部分から構成されています。

1新規化学物質の事前審査・新たに製造・輸入される化学物質に対する事前審査制度
2上市後の化学物質の継続的な管理措置・製造・輸入数量の把握(事後届出)、有害性情報の報告等に基づくリスク評価
3化学物質の性状等(分解性、蓄積性、毒性、環境中での残留状況)に応じた規制及び措置・性状に応じて「第一種特定化学物質」等に指定 ・製造・輸入数量の把握、有害性調査指示、製造・輸入許可、使用制限等
(出典:経済産業省 化審法とは

化学物質を規制する点で類似の法律として安衛法があります。化審法は人や動植物に悪影響のある化学物質による環境の汚染を防止することが目的で、安衛法は労働者の安全を確保することが目的です。

化審法と安衛法の比較

化審法のこれまでの改正

1973年制定ポリ塩化ビフェニル(PCB)による環境汚染問題を契機にPCB及びそれに類似する化学物質による環境汚染の未然防止のため制定。 新規化学物質の事前審査制度を設けるとともに、難分解性、高蓄積性、人への長期毒性を有する化学物質を「特定化学物質」として、その製造と輸入を規制。
1986年の改正特定化学物質の他に難分解性ではあるが、高蓄積性を有さないかつ相当広範な地域に残留している化学物質(トリクロロエチレン等)を「第二種特定化学物質」として規制。
2003年の改正人への健康影響に加えて動植物への影響の観点も含めた審査・規制制度、それらの影響のおそれがありえるとされた物質(監視化学物質)の全国数量の把握制度、環境への放出可能性が小さい化学物質に対する審査の効率化(中間物等の特例制度)等の導入。
2009年の改正既存化学物質を含むすべての化学物質について、 一定数量以上製造・輸入した事業者に対して、その数量等の届出を新たに義務付け。国は、上記届出を受けて、詳細な安全性評価の対象となる化学物質を、優先度を付けて絞り込む。(既存化学物質のリスク評価スキームの導入)
2017年の改正新規化学物質の審査特例制度における国内総量規制を製造・輸入数量から環境排出数量に変更。 一般(新規)化学物質のうち、毒性が強いものを「特定一般(新規)化学物質」として指定。
(出典:製品評価技術基盤機構ホームページをもとに著者作成)

化審法の体系

上市前の事前審査及び上市後の継続的な管理により、化学物質による環境汚染を防止します。

化審法の体系
(出典:経済産業省 化審法の体系

化審法の対象物質の分類

化審法の対象物質は、化学物質の難分解性、高濃縮性、長期毒性、利用実態といった、環境や動植物への影響度によって、第1種特定化学物質第2種特定化学物質監視化学物質優先評価化学物質一般化学物質に分類されます。最新の対象物質や具体的な規制・義務は経済産業省のサイト(化審法対象物質等一覧)から確認できます。

新しく化学物質が追加されることがあり、最近では2023年11月28日にPFHxSが第一種特定化学物質へ指定されました。

分類難分解性 かつ高濃縮性長期毒性利用実態規制・義務
第1種特定化学物質ありありPCB、PFOA、PFHxS試験研究用途や必要不可欠用途以外の製造・輸入は原則禁止
第2種特定化学物質なしあり広く利用トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素、トリブチルスズクロリド事前の製造・輸入予定数量、事後の製造・輸入数量等の届出
監視化学物質あり不明酸化水銀(II)、シクロドデカン ペルフルオロドデカン酸製造・輸入数量等の届出
優先評価化学物質不明広く利用ヘキサン クロロホルム ホルムアルデヒド アセトニトリル トルエン製造・輸入数量等の届出
一般化学物質製造・輸入数量等の届出
(出典:経済産業省 化審法対象物質等一覧 をもとに著者作成)
けむさん
けむさん

普段自分が使用している化学物質がどの分類に該当するのか調べてみるといいと思います。

化審法届出要否判定フロー

化学物質を上市するにあたり、化審法の届出や手続きが必要かどうか、必要な場合はどのようなど届出や手続きが必要か、以下のフローをもとに判断することができます。

化審法届出要否判定フロー
(出典:経済産業省 簡易化審法判定フロー をもとに著者作成)

化審法における用語の定義を示します。特に「化学物質」は化審法に独特の定義のため注意が必要です。

製品①固有の商品形状を有するものであって、その使用中に組成や形状が変化しないもの(樹脂製のボトル、什器等) ②必要な小分けがされた状態であり、表示等の最小限の変更により、店頭等で販売されうる形態になっている混合物(家庭用洗剤、シャンプー、顔料入り合成樹脂塗料等)
化学物質「化学物質」とは、元素又は化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物 元素、合金、生物、生体反応によって生成する化学物質は範囲対象外(化学反応を人為的に起こさせる行為に該当しないため)
試験研究用試薬研究所、大学、学校などにおける試験、検査、研究、実験、研究開発等の用にその全量を供するための化学物質
(出典:経済産業省 化審法における化学物質の定義・解釈について

化学物質が化審法に該当するのかどうか、該当する場合は届出が免除されるのかどうか、これについては別記事で詳しく説明しています。

官報整理番号が付与されているか?つまり化学物質が化審法における新規物質か既存物質かを調査・検索する場合、製品評価技術基盤機構のNITE-CHRIPを利用すると便利です。

NITE-CHRIP画面
(出典:製品評価技術基盤機構 NITE-CHRIP

新規化学物質として届け出られた化学物質は5年後に官報告示の類別整理番号が付与されて公示され、その後は既存化学物質として扱われます。化審法の公示は企業秘密が考慮されませんので、自社や他社が製造している化学物質が公開されることになります。特許では化学物質が一般式として公開されますが、化審法は化学物質が特定される形で公開されます。そのため特許情報と新規公示化学物質を注意深く確認していると、他社が製造する化学物質を特定できます

化審法の届出の種類

化審法の届出には通常新規や、特例制度である低生産量新規少量新規低懸念高分子中間物等があります。特例制度は日本の化学産業が少量多品種の形態に移行をする中、化学物質による環境汚染の防止を前提に、少量多品種産業にも配慮した合理的な制度設計となっています。つまり、通常の届出では化学物質の各種データが必要で費用がかかりますが、製造・輸入数量が少量で環境排出量も少ない場合はデータ取得を免除する特例制度が設けられています。

  • 通常新規:新規化学物質の届出を行い、通常の事前審査を受けて、製造・輸入する
  • 低生産量新規、少量新規、低懸念高分子、中間物等:通常の届出によらず、事前の申出・確認により製造・輸入する
手続きの種類手続き製造・輸入数量上限環境排出数量上限提出資料受付頻度
通常新規届出→判定なし 分解性
蓄積性
人健康
生態影響
用途、予定数量等
10回/年
低生産量新規届出→判定
申出→確認
 全国10トン(複数社の場合数量調整)分解性
蓄積性
(人健康・生態影響もあれば届出)
用途、予定数量等
届出:10回/年
申出:12回/年
少量新規申出→確認 全国1トン(複数社の場合数量調整)用途、予定数量等9回/年
低懸念高分子申出→確認なし 分子量
物理化学的安定性試験データ
随時
中間物等 (中間物・閉鎖系等用途・輸出専用品)申出→確認なし 取扱方法、施設設備状況を示す図面等随時
少量中間物等 1トン未満申出→確認1社1トン (簡素化)随時
(出典:製品評価技術基盤機構ホームページをもとに著者作成)

特例制度の判定基準は以下のとおり定められています。

低生産量新規環境排出数量が全国10トンまで(複数社の場合数量調整)
少量新規環境排出数量が全国1トンまで(複数社の場合数量調整)
低懸念高分子(1)1種類以上の単量体単位の連鎖により生成する分子の集合から構成され、3連鎖以上の分子の合計重量が全体の50%以上を占め、かつ、同一分子量の分子の合計重量が全体の50%未満
(2)数平均分子量が1,000以上
中間物(1)当該化学物質が全量、中間物として利用されること
(2)反応後物質中における当該物質の含有割合が1重量%未満であること
(3)予測環境放出量(製造・輸入・使用)が製造・輸入量の1重量%未満又は10トンを超える場合は100kg未満であること
閉鎖系用途(1)当該化学物質が全量、閉鎖系用途で利用されること
(2)予測環境放出量が製造・輸入量の1重量%未満又は10トンを超える場合は100kg未満であること
輸出専用品(1)当該化学物質が全量、省令で定める地域に輸出されること アイルランド、アメリカ、イタリア、イギリス、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、ギリシャ、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、韓国、チェコ、中国、デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポーランド、ポルトガル及びルクセンブルク
(2)予測環境放出量が製造・輸入量の1重量%未満又は10トンを超える場合は100kg未満であること
(出典:製品評価技術基盤機構ホームページをもとに著者作成)

化審法の届出に必要な有害性試験と費用目安

通常新規の場合は全項目の試験が必要で、総額数千万円の費用がかかり、期間は2年以上かかります。低生産量新規の場合は分解性と蓄積性試験で、約1000万円の費用がかかります。その他特例制度の少量新規、低懸念高分子、中間物等は試験が免除されています。

試験項目試験方法費用目安
分解性微生物等による化学物質の分解性試験250万円
蓄積性魚介類の体内における化学物質の濃縮度試験 または1-オクタノールと水との間の分配係数測定試験800万円
人健康影響Ames試験50万円
哺乳類培養細胞を用いる染色体異常試験300万円
哺乳類を用いる28日間の反復投与毒性試験1000万円
生態影響藻類生長阻害試験50万円
ミジンコ急性遊泳阻害試験50万円
魚類急性毒性試験50万円
(出典:製品評価技術基盤機構および分析会社のサイトをもとに著者作成)

化学メーカーでの事業立ち上げと化審法への対応

本来は化学物質のデータをできるだけ多く取得して上市するべきですが、事業を始めた初期で利益が少ない段階では高額なデータ取得を実施するのは困難です。そのため、事業開始初期で生産量が少量の時期は特例制度を利用し、事業が拡大成長するにしたがってデータ取得を進めていくことが多いです。

  1. 事業開始初期 「少量新規」で対応
  2. 事業成長中 「低生産量新規」「低懸念高分子」「中間物等(中間物・閉鎖系等用途・輸出専用品)」で対応
  3. 事業拡大後 「通常新規」で対応

化審法の違反事例

法律違反は知らなかったでは済まされませんので、慎重に対応しなければなりません。

  • 取り扱っている化学物質を一般化学物質と思い込んでいたが、実際は新規化学物であった。
  • 少量新規化学物質として確認を受けていた新規化学物質について、年度末に当該年度の製造・輸入数量について社内で精査したところ、確認を受けた数量を超過して製造・輸入していた。
  • 製造・輸入した一般化学物質について、一定の有害性を示す藻類生長阻害試験の結果を新たに取得していたが、国への報告が必要であることを認識しておらず、国からの有害性情報の求めを受けた際に報告していなかったことがわかった。
  • 製造・輸入した一般化学物質について、従来は含有割合が1重量%未満の不純物であったが、今回製造・輸入したロットには1重量%以上の不純物が含まれていた。(不純物であっても新規化学物質に該当する場合は新規化学物質の製造等の届出対象となります)
  • 製造プロセスを改良した結果、中間物として申請していた化学物質の環境放出量が増加した。
  • 製造プロセスを改良した結果、生成物中の1重量%未満の不純物が1重量%以上に増加した。(不純物であっても新規化学物質に該当する場合は新規化学物質の製造等の届出対象となります)

化審法の罰則

罰則違反内容
三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科・無許可で第1種特定化学物質を製造・輸入する ・政令で認められている用途以外に第1種特定化学物質を使用する ・許可製造者に対する事業停止命令に違反する
一年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科・事前届出をせず新規化学物質を製造・輸入する ・事前審査の結果の通知を受けないうちに新規化学物質を製造・輸入する ・監視化学物質に係る有害性調査指示に違反する ・予定数量等の届出をせずに第二種特定化学物質を製造・輸入する
六月以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科・第一種特定化学物質の許可製造業者が許可を受けないで製造設備の構造又は能力を変更する ・第一種特定化学物質を業として使用する場合に事前届出をせず、又は虚偽の届出をする ・許可製造業者の製造設備及び届出使用者の使用の状況が技術基準に適合していない場合に発せられる改善命令の規定に違反する
三十万円以下の罰金・許可製造業者、届出使用者が帳簿を備えず、帳簿に記載せず、若しくは虚偽の記載をし、又は一定の定められた期間帳簿を保存しない ・第二種特定化学物質及び監視化学物質の製造量又は輸入量の届出をしない ・報告徴収の規定に違反して報告せず、又は虚偽の報告をする ・立入検査、化学物質の収去を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は関係者の質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をする
二十万円以下の過料以下の場合に遅滞なく届出をしない、又は虚偽の届出をする ・許可製造者が (イ)氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名 、を変更したとき (ロ)事業所の所在地を変更したとき (ハ)製造設備の構造及び能力に関する軽微な変更をしたとき
・届出使用者が事業所の所在地、第一種特定化学物質の用途等を変更したとき
・許可製造業者、許可輸入者又は届出使用者に承継があったとき
・許可製造業者又は届出使用者が事業を廃止したとき
・第二種特定化学物質を製造若しくは輸入する者又は第二種特定化学物質使用製品を輸入する者が製造予定数量又は輸入予定数量を変更したとき
・有害性情報の報告義務が生じたとき
(出典:環境省 化審法罰則 をもとに著者作成)

化審法への対応に関係する部署

化学メーカーの中で化審法対応に関係する部署は、主に研究生産技術工場管理営業部です。



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関連サイト

経済産業省

製品評価技術基盤機構

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