代表的なSAFの原料や製造方法(HEFA、FT、ATJ、CHJ、HC-HEFA、PTL)を化学式で説明します。SAFの現状と今後、SAFの生産国、SAFの品質、SAFのメリット・デメリットについても説明します。
SAFとナフサは同じ炭化水素化合物ですが、分子量や沸点が違う化合物です。SAFを製造する際に分子量分布のある炭化水素化合物が製造されますが、これをSAF成分とナフサ成分に分離させます。バイオ由来の製造方法で得られたナフサは、バイオナフサと呼ばれます。
SAFとバイオナフサとは
SAF(Sustainable Aviation Fuel、持続可能な航空燃料)とは、バイオマスを原料として製造した航空燃料のことです。SAFは石油由来のジェット燃料と同様に燃焼すると二酸化炭素を発生しますが、SAFの原料となる植物は大気中の二酸化炭素をもとに光合成によって生まれるため、全体を通して二酸化炭素は増えていないとみなすことができます。このように炭素が循環して二酸化炭素が増えないことをカーボンニュートラルと言います。
バイオマスからSAFを製造する際に、多数の炭化水素の混合物ができます。このうち航空燃料と同等の沸点の成分をSAF、石油ナフサと同等の沸点の成分をバイオナフサとして蒸留で分別します。つまりSAFとバイオナフサは同時に製造される連産品です。
この記事ではSAFを主語にして説明しますが、SAFとバイオナフサは連産品のため、バイオナフサを主語に置き換えることもできます。
SAFの現状と今後
地球温暖化、気候変動問題への対応のため、世界中でSAFの導入が進められています。アメリカは2050年にSAF100%、EUは2050年にSAF70%、日本は2030年にSAF10%にする目標が発表されています。しかし目標に対して生産量が不足しているため、各国で技術開発や生産量増大が行われています。
現在、SAFのほとんどはHEFA法で製造されています。HEFA法は植物油や廃油を水素化する方法ですが、食料との競合を避けたり原料の廃油を入手できる量に限界のあるといった課題のため将来的には製造量が一定量にとどまり、かわりにFT法、ATJ法、PTL法が拡大すると見込まれています。(出典:SkyNRG)
FT法の原料はゴミや木質チップ、ATJ法の原料はバイオエタノール、PTL法の原料は二酸化炭素です。詳しくは下の項目「SAFの製造方法」で説明します。
SAFの原料と製造方法
国際規格のASTM D7566で、SAFの製造方法や従来のジェット燃料との混合比率が決められています。主なSAFの製造方法について紹介します。FT法、HEFA法、ATJ法はASTM D7566規格のAnnex1、2、6にそれぞれ分類されます。
SAFの製造方法とほかのバイオ燃料との相関図を示します。SAFには、植物油や廃油を原料とするHEFA法、ゴミや木質チップを原料とするFT法、バイオエタノールを原料とするATJ法、二酸化炭素を原料とするPTL方などがあります。ほとんどの方法ではSAFは選択的に製造できず、ナフサ相当の沸点成分のバイオナフサが連産品として製造されます。
HEFA
HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)は廃食用油、植物油、動物油などの脂肪酸エステルの水素化して飽和炭化水素にし、蒸留してSAFやバイオナフサに分別します。
世界最大手のNESTE社のプロセスを紹介します。NESTE社のバイオナフサは2012年に実用化されました。
- 前処理 不純物を取り除いたり、原料として使用困難な油を選別除去したりします。
- 水素化脱酸素化(Hydrodeoxygenation) 触媒を利用してトリグリセリドを分解して水素化して脱酸素化し、純粋な炭化水素を製造します。
- 炭化水素の異性化 異性化させます。
- 蒸留分別 沸点差を利用して、最終製品のSAF、ガソリン、ナフサ、ディーゼルに分別します。
HEFA法でSAFを製造している企業
- Neste(フィンランド)
- UPM(フィンランド)
- Eni(イタリア)
- TotalEnergies(フランス)
- SkyNRG(オランダ)
- Repsol(スペイン)
- BP(イギリス)
- World Energy(アメリカ)
- Phillips 66(アメリカ)
- Aemetis(アメリカ)
- Diamond Green Diesel(アメリカ)
- REG(アメリカ)
- SG Preston(アメリカ)
- SGP BioEnergy(パナマ)
- ENEOS(日本)
- 出光(日本)
- コスモ(日本)
FT
FT(Fischer-Tropsch)は都市ごみや廃木材などをガス化して得られる合成ガス(一酸化炭素(CO)と水素(H2)の混合ガス)を、フィッシャー・トロプシュ合成で飽和炭化水素にし、蒸留してSAFやバイオナフサに分別します。(注:オリゴマーの化学式は化合物の一例を示しています。実際は多種類の炭化水素の混合物です。)
FT法でSAFを製造している企業
- Atmosfair(ドイツ)
- Fulcrum(アメリカ)
- Velocys(アメリカ)
- Red Rock(アメリカ)
- NEDO、三菱パワー、東洋エンジニアリング、JAXA(日本)
ATJ
ATJ(Alcohol to Jet)はバイオマス由来のイソブタノールやエタノールを脱水してエチレンとし、エチレンをオリゴマー化、水素化して飽和炭化水素にし、蒸留してSAFやバイオナフサに分別します。(注:オリゴマーの化学式は化合物の一例を示しています。実際は多種類の炭化水素の混合物です。)
ATJ法でSAFを製造している企業
- LanzaJet(アメリカ)
- Gevo(アメリカ)
CHJ
CHJ(Catalytic Hydrothermolysis Jet)は廃食用油、植物油、動物油などの脂肪酸エステルの超臨界水による熱分解反応でSAF を製造する技術です。CHJは芳香族と飽和炭化水素を含み、従来のジェット燃料とほぼ同じ組成です。
CHJ法でSAFを製造している企業
- ARA(アメリカ)
- Chevron(アメリカ)
- ユーグレナ(日本)
HC-HEFA
HC-HEFA(Hydroprocessed Hydrocarbons, Esters and Fatty Acids)は、HEFAの水素化プロセスの原料を、動植物油などの脂肪酸エステルから炭化水素も含めた形に拡張したものです。実質的にはボツリオコッカス・ブラウニーからの藻油であるボトリオコッセンを水素化して製造します。
HC-HEFA法でSAFを製造している企業
- IHI(日本)
PTL
PTL(Power to Liquid)は、まず二酸化炭素と水素から一酸化炭素と水を得る逆シフト反応で一酸化炭素を製造します。この一酸化炭素と水素からなる合成ガスをフィッシャー・トロプシュ反応で飽和炭化水素にし、蒸留してSAFやバイオナフサに分別します。この合成ガス法のうち、再生可能エネルギーで製造した水素を使用する場合は特にe-fuelと呼ばれます。(注:オリゴマーの化学式は化合物の一例を示しています。実際は多種類の炭化水素の混合物です。)
SAFの生産国
現在は主にヨーロッパとアメリカでSAFが生産されています。
SAFの品質
SAFは多数の炭化水素の混合物で、製造方法によって炭化水素の成分に差があります。
従来の石油由来のジェット燃料中には、直鎖、分岐、環状アルカンと芳香族化合物が含まれています。アルカンとは飽和炭化水素化合物のことです。
有力なSAFのプロセスであるFT法、HEFA法、ATJ法、PTL法では芳香族化合物ができないため芳香族化合物が含まれません。
ジェット燃料は高所の低温でも流動性を保つ必要があります。芳香族化合物はアルカンと比較して流動性を上げる効果がありますが、主なSAFには芳香族化合物が含まれていません。 このようにSAFと従来のジェット燃料は炭化水素という点では同じですが、詳しく見ると組成が異なるため、SAFは従来のジェット燃料と混合して使用する必要があります。
実用化されているNESTE社のSAFやバイオナフサは完全な飽和炭化水素で、芳香族化合物や、硫黄、窒素、酸素原子の入った化合物は含まれないことが発表されています。(出典:NESTE)
SAFのメリット・デメリット
メリット
- カーボンニュートラルのため地球温暖化防止になる。
- 石油由来のジェット燃料と同じ品質のため、エンジンを改良せずそのまま使用できる。(ドロップイン燃料)
- 廃棄物を原材料にできる
デメリット
- コストが高い。
- 供給量が限られる。
- 食用農作物を原料とする場合は食料とバイオ燃料が競合する。
- 国産の原料で製造できる(日本)。
まとめ
代表的なSAF(とバイオナフサ)の原料や製造方法(HEFA、FT、ATJ、CHJ、HC-HEFA、PTL)を化学式で説明しました。SAF(とバイオナフサ)の現状と今後、SAFの生産国、SAFの品質、SAFのメリット・デメリットについても説明しました。
今後SAF(とバイオナフサ)の生産量は確実に増加します。SAFは石油資源のない日本でも製造できる特徴があるため、ぜひ日本での生産量が増えていってほしいです。
関連書籍
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