PETボトルのリサイクル方法のうちのひとつである、ケミカルリサイクルについて紹介します。ケミカルリサイクルはリサイクルの中ではコストやエネルギーがかかりますが、石油由来の原料と同じ品質の製品を製造できます。また、石油から製造するよりもエネルギー消費量を減少させることができます。
この記事では、PETのケミカルリサイクルの方法を化学式で説明します。
PETのケミカルリサイクルとは?
PETのケミカルリサイクルとは、回収したPETボトルなどのPETポリマーを化学的な手法で重合原料の分子(モノマー)に戻し、再び重合してPETポリマーを製造する方法です。一度モノマーに戻して製造するため、石油由来原料と同じ品質の製品を製造できる点がメリットです。ケミカルリサイクルは大型設備が必要なため、リサイクルの中では比較的コストやエネルギーを必要とするデメリットがあります。
PETはエステル結合で重合するポリマーのため、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンよりも化学的にモノマーに戻しやすくケミカルリサイクルしやすい素材です。
ケミカルリサイクルの種類について説明する前に、PETポリマーを製造する方法について見てみましょう。
PETの製造方法
石油や天然ガスをクラッキングして様々な基礎化学品が製造されます。
PETの原料は、パラキシレンを酸化したテレフタル酸(TPA)と、エチレンを酸化したエチレングリコール(EG)です。
PETは工業的には段階的重縮合反応によって製造されます。第1段階では、テレフタル酸(TPA)またはテレフタル酸ジメチル(DMT)と過剰のエチレングリコール(EG)を反応させて、ビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)と少量のオリゴマーを含む、いわゆるプレポリマーを形成します。
第2段階では、BHETと少量のオリゴマーを重縮合させてPETポリマーを製造します。この工程は溶融相で行われ、副生成物であるEGは減圧留去されます。
PETのケミカルリサイクルの種類
加水分解
PETのエステル基は、酸性またはアルカリ性の媒体中で高温高圧下で反応させると加水分解させることができます。PETを加水分解するとTPAおよびEGが得られます。
アルコール分解
PETのアルコール分解は、カルボニル基へのアルコールの攻撃によってエステル結合を切断し、アルキルテレフタレートとエチレングリコールを生成します。通常アルコールとしてメタノールが使用されます。
エチレングリコール分解
エチレングリコール分解の反応機構は基本的にアルコール分解と同じです。PETのエチレングリコール分解は、商業用PETリサイクルプロセスで世界的に使用されている方法です。エチレングリコール分解では、170〜300℃の温度で、過剰量のエチレングリコールを用いてPETをエステル交換します。
エチレングリコール分解ではPETの2段階目のモノマーであるBHETが得られることが特徴でありメリットです。
PETのBHETへの解重合の反応条件は、触媒として亜鉛、チタン、鉄、マンガン、コバルトの酸化物や酢酸塩などが使用され、通常反応温度は180℃以上です。(出典:Chemical recycling of PET to value-added products https://doi.org/10.1039/D3SU00311F)(出典:Chemical Recycling Processes of Waste Polyethylene Terephthalate Using Solid Catalysts https://doi.org/10.1002/cssc.202300142)
その他の加水分解
他にも、酵素や超臨界流体による加水分解方法も検討されていますが、研究の初期段階です。
実用化されているPETのケミカルリサイクル
帝人
帝人グループが2003年に実用化した方法は、塩基触媒存在でPETをBHETに分解します。その後、BHETをメタノールによるエステル交換反応によってDMTへと変換します。DMTは結晶性が良く、比較的沸点が低いため洗浄や蒸留により精製しやすく、DMTで高純度化し、モノマーとして再利用します。(出典:特許4163842号)
アイエス
アイエスも2004年にPETのケミカルリサイクルを実用化しました。アイエス法でも、塩基触媒存在でPETをBHETに分解するところは同じですが、得られたBHETを蒸留精製し、BHETを原料モノマーとして再利用します。本技術は、現在はJEPLANおよびPETリファインテクノロジーに継承されています。(出典:特許3715812号)
ペットリファインテクノロジー
- エチレングリコール分解
- 脱色
- 金属イオン除去
- BHET晶析
- 固液分離
- 蒸留
関連書籍
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