エタンクラッカーとナフサクラッカーは、天然原料(エタンやナフサ)を各種化学製品へと導く最初の工程で、エチレンなどの基礎化学品を生成します。
この記事では、エタンクラッカーとナフサクラッカーの違い(原料・生産物・コスト構造・立地)を中心に、エチレンを製造する方法、ナフサクラッカーで製造される製品と収率日本国内のナフサクラッカーの所在地と再編の動向まで、網羅的に説明します。
エタンクラッカーとナフサクラッカーとは?
炭化水素を分解して炭素数を少なくすることをクラッキングと呼びます。クラッキング反応をさせる装置がクラッカーです。
エタンを原料とするクラッカーをエタンクラッカー、ナフサを原料とするクラッカーをナフサクラッカーと呼びます。

エタンクラッカーとナフサクラッカーの違い
エタンクラッカーとナフサクラッカーは原料が違うだけではなく、主な生成物、コスト、主な立地地域、課題に違いがあります。エタンクラッカーとナフサクラッカーを比較する一覧表をまとめました。
| 比較項目 | エタンクラッカー | ナフサクラッカー |
| 原料 | シェールガス・天然ガス中のエタン(炭素数2) | ナフサ(原油由来、炭素数およそ5~10) |
| 主な生成物 | エチレン(約80%)とプロピレン | エチレン(約30%)だけでなく、プロピレン・ブタジエン・ベンゼン・トルエン・キシレン(BTX)など多様な生成物 |
| コスト構造 | 原料(エタン)が安価でコスト競争力が高い | 原料(ナフサ)はエタンと比較して高価でコスト競争力が低い |
| 地域と立地 | 北米・中東が中心(安価なエタンが手に入る地域) | 日本・欧州・中国・韓国などで主力 |
| 代表的な課題 | ブタジエンなどC4以上の供給不足を引き起こす | 競争力低下による再編圧力 |
ナフサクラッカーで製造される製品と収率
ナフサクラッカーの主要な生成物と収率(重量%)は、原料ナフサに対して次の通りです(出典:日本大百科全書)。なお、この収率はナフサの種類、製造方法、運転条件によって変化します。
| 生成物 | 収率(重量%) |
| エチレン | 約25~31% |
| プロピレン | 約12~16% |
| ブチレン | 約3~8% |
| ブタジエン | 約4~5% |
| ベンゼン・トルエン・キシレン(BTX) | 合計約10~13% |

ナフサクラッカーはエチレンの収率だけを見ると約30%と低いですが、残りの約70%はプロピレン、ブタジエン、BTX、分解ガソリンなど他の製品となります。これらがABS樹脂、合成ゴム、ポリエステル原料など様々な化学品の原料になるため、ナフサクラッカーは石油化学の出発点と言えます。

エタンクラッカーとナフサクラッカーの反応式
クラッカーでは、炭化水素を分解して炭素数を少なくすると同時に、飽和炭化水素の結合を一重結合から二重結合へと変化させ不飽和炭化水素に変換する反応も起こります。
クラッキングの反応機構は無触媒ラジカル反応で、反応温度は800-900℃、反応時間は0.1-1秒程度です。反応生成物は熱交換器によって急冷され、次の分離精製工程に進みます。
分離精製工程では蒸留によって反応生成物を分離します。エチレンの蒸留精製においては水素、メタン、エチレン、エタンなどの混合物を液体にするために高圧かつ低温の運転条件となります。
エタンクラッカーでは、エタンを原料として主にエチレンが生産されます。

ナフサクラッカーでは、ナフサを原料としてエチレンをはじめ、様々な化学品が生産されます。下の反応式はナフサ中のヘキサンが分解してエチレンとブテンが生成する例や、オクタンが分解してエチレンとベンゼンが生成する例です。

エチレン製造方法(石油・天然ガス・石炭の3ルート)
エチレンは、エタンクラッカーやナフサクラッカーで製造されるほかにも、石炭から製造することもできます。石炭を原料とするエチレンは主に中国で製造されています。
石炭から合成ガス(一酸化炭素(CO)と水素(H2)の混合物)を製造し、合成ガスからメタノールを経由してエチレンとプロピレンを製造します。これはMTO(Methanol to Olefin)法と呼ばれ、中国では石炭化学によるエチレン・プロピレン生産が約2割を占めるまでに拡大しています(出典:JOGMEC JOURNAL)。
エチレン製造方法と国・地域の比較
アメリカではシェールガスが採掘できるようになったため、安価なシェールガス中のエタンを原料にするエタンクラッカーが増設されました。中東でもアメリカと同様に、安価なエタンガスからエチレンが製造されています。日本をはじめその他の国では安価な天然ガスを手に入れることが難しいため、もっぱらナフサを原料としています。中国ではナフサとともに石炭を原料とする方法もあります。
| 国・地域 | アメリカ | 中東 | 中国 | 日本 | 欧州 |
| ナフサ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| エタン | 〇 | 〇 | |||
| 石炭 | 〇 |
エチレンの製造方法の強みと弱み
エチレンの製造方法の強みと弱みを一覧表にまとめました。
| 強み | 弱み | |
| ナフサ | ・C2~5オレフィン、C6~8 BTXをバランス良く得られる ・プラスチック原料からゴム原料まで幅広く製造可能 | ・エチレンのコスト競争力が低い |
| エタン | ・原料のエタンが安価 ・エチレン、プロピレンを選択的に製造できる | ・C4以上のオレフィンを得ることが困難 |
| 石炭 | ・安価で豊富な石炭を原料として使用可能 ・石油危機が起きてもエチレンを生産できる | ・CO2排出係数が大きい ・合成メタノールが高価 |
ナフサクラッカーの強みは、C2~5オレフィンやC6~8 BTXといった多様な化学品が得られることです。これらは、川下の化学産業で利用され、さらに多様な製品を生み出します。
一方でエタンクラッカーからはC4以上のオレフィンを得ることが困難です。コスト競争力のあるエタンクラッカーが拡大すると、副作用としてブタジエンなどC4~C8の化学品、およびこれらを原料とする化学製品が供給不足になる問題が起きます。ブタジエンはABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂や合成ゴム(タイヤ原料)として利用されています。

エタンクラッカーの強みは何と言ってもコスト競争力があることです。エタンクラッカーで得られるエチレンは、ナフサクラッカーで得られるエチレンの約1/3の価格です。

石炭を原料とするエチレンは主に中国で製造されています。石炭を原料として、合成ガス(一酸化炭素(CO)と水素(H2)の混合物)、メタノールを経由してエチレンとプロピレンが製造できます。

日本国内のナフサクラッカー(所在地・シェア)
日本国内のナフサクラッカーは、隣接する製油所からパイプラインでナフサを入手しています。不足する分は輸入しています。そのため日本国内のナフサクラッカーは石油精製所または海岸線沿いに位置しています。
国内のエチレン生産設備は12基あり、年間エチレン生産能力は名目で約615万トン(定修年)、実質では約650万トン規模とされています(出典:plabase.com)。
日本国内のナフサクラッカーは、原料のナフサを隣接する製油所からパイプラインで入手しています。不足する分は輸入しています。そのため日本国内のナフサクラッカーは石油精製所または海岸線沿いに位置しています。

| 運営企業 | 地域 | 国内生産能力比率 |
| 三菱ケミカルG | 茨城 | 8% |
| 三井化学 | 大阪、千葉 | 16% |
| 三菱ケミカルG・旭化成 | 岡山 | 8% |
| 出光興産 | 千葉、山口 | 16% |
| ENEOS | 川崎に2基 | 15% |
| 丸善石油化学 | 千葉 | 8% |
| 丸善石化・住友化学 | 千葉 | 11% |
| 東ソー | 三重 | 8% |
| クラサスケミカル | 大分 | 10% |
今後、ナフサクラッカーは再編が続くとみられます。
再編が進む理由
- 国内エチレン生産量の減少
- プラントの老朽化
- 海外と比較したプラント規模の小ささ
- 中国の過剰生産による競争激化
- カーボンニュートラルに向けた原料のナフサからの変更
まとめ
エタンクラッカーはエチレン単品の量産に特化しています。原料コストが安く世界でシェアが拡大しているものの、ブタジエンなどC4以上の副生品を生み出せない弱みがあります。
ナフサクラッカーは多品種同時生産が可能で、石油化学コンビナートの心臓部として日本・欧州・中国・韓国で主力です。
エチレンの製造方法は石油(ナフサ)・天然ガス(エタン)・石炭(CTO/MTO)の3ルートがあり、地域ごとに異なる原料で製造されています。
参考資料

