ペロブスカイト太陽電池は高い光吸収係数と優れたキャリア輸送特性を備えているだけでなく、溶液を塗って乾燥させる低温プロセスで作製できるため、従来の結晶シリコン系太陽電池に比べて製造エネルギーとコストを大幅に抑えられる技術として注目されています。
この記事では、ラボスケールと産業スケールの比較して、ペロブスカイト太陽電池の製造方法と成膜技術を詳しく説明します。特にペロブスカイト層の成膜技術は太陽電池の変換効率に大きく影響する重要ポイント。アンチソルベント法、2ステップ法、蒸気アシスト法、エアナイフ法など様々な工夫が編み出されてきました。この成膜技術の工夫についても説明します。
ペロブスカイト太陽電池の概要
ペロブスカイト太陽電池は、ABX₃型のペロブスカイト結晶構造を持つ化合物を光吸収層(光電変換層)として用いる次世代型の太陽電池です。実用化の中心となっているのは、ヨウ化鉛()とハロゲン化メチルアンモニウム(MAI)やハロゲン化ホルムアミジニウム(FAI)を調合した有機・無機ハイブリッド型ペロブスカイトです。
ペロブスカイト太陽電池のデバイス構造
基板上に複数の機能性薄膜を積み重ねたマルチレイヤー構造(サンドイッチ構造)を形成します。光が入射する方向によって、n-i-p型(正順)とp-i-n型(逆型)の2種類に分類されます。
| 層 | 主な役割 | 典型的な材料 |
| ① 基板 | デバイスを乗せて固定する基板 | ガラスまたはPETフィルム |
| ② 透明電極 | 光を取り込み、電子を外部へ伝送する | ITO(酸化インジウムスズ)またはFTO(フッ素ドープ酸化スズ) |
| ③ 電荷輸送層(ETL) | 電子だけを通す | SnO2、TiO2、など |
| ④ ペロブスカイト層 | 光を吸収して発電する(電子と正孔を発生する) | MAPbI3、FAPbI3 などの鉛ヨウ化物 |
| ⑤ 電荷輸送層(HTL) | 正孔(ホール)だけを通す | Spiro-OMeTAD、PEDOT:PSS、PTAAなど |
| ⑥ 対向金属電極 | 正孔を取り出す | 金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、カーボンなど |
| ⑦ 封止 | 劣化要因となる水分・酸素を遮断する | UV硬化樹脂、ガラスラミネート、バリアフィルム |
ペロブスカイト太陽電池の製造方法
ラボスケールの小さなセルを製造する場合と、産業スケールの長大なシートを製造する場合にわけて説明します。
ペロブスカイト太陽電池の製造方法(ラボスケール)
- 基板と透明電極の用意
ガラス基板上に、ITO(インジウムスズ酸化物)などの透明導電膜をスパッタリングで成膜します。 - 電子輸送層(ETL)の成膜
SnO₂ナノ粒子を分散した溶液を塗布・焼成して成膜します。 - ペロブスカイト層の成膜
PbI₂とMAI(またはFAI)を、DMFやDMSOなどの極性溶媒に溶かして前駆体溶液を準備します。
スピンコーターで基板を高速回転させ、ここに前駆体溶液滴下して遠心力で薄く広げて成膜します。均一性は高いですが、大面積化が難しく、材料の大半が飛び散ってロスになります。
成膜直後は結晶が未熟なので、100〜150℃程度で加熱してペロブスカイト結晶を成長させます。加熱温度・時間が性能と耐久性を大きく左右します。 - 正孔輸送層(HTL)の成膜
spiro-OMeTADなどのHTL溶液をスピンコートで塗ります。 - 対電極の形成
金(Au)や銀(Ag)を真空蒸着で数十nmに成膜します。 - 封止(ラミネーション)
ガラス基板上の積層デバイスを封止材でコーティングして耐久性を改善します。
このYouTubeの4分17秒くらいから、工程③の操作を動画で確認できます。
ペロブスカイト太陽電池の製造方法(産業スケール)
- 基板と透明電極の用意
PETフィルム上に、ITO(インジウムスズ酸化物)などの透明導電膜をスパッタリングで成膜します。 - 電子輸送層(ETL)の成膜
SnO₂ナノ粒子を分散した溶液を塗布・焼成して成膜します。 - ペロブスカイト層の成膜
PbI₂とMAI(またはFAI)を、DMFやDMSOなどの極性溶媒に溶かして前駆体溶液を準備します。
スロットから溶液を押し出して基板上に一定厚みで塗る、スロットダイコーティングで成膜します。ロール・ツー・ロール(R2R)装置に組み込み、フィルムを連続的に流しながら塗工します。材料利用率は99%以上で経済的。 - 正孔輸送層(HTL)の成膜
spiro-OMeTADなどのHTL溶液をスロットダイコーティングで塗ります。 - 対電極の形成
金(Au)や銀(Ag)を真空蒸着で数十nmに成膜します。 - 封止(ラミネーション)
フィルム基板上の積層デバイスを封止材でコーティングして耐久性を改善します。
このYouTubeの2分18秒くらいから、ロール・ツー・ロール(R2R)装置の動作を動画で確認できます。
ラボスケールと産業スケールの比較
研究開発(ラボ)と商業生産(産業)では、製造手法に明確なアプローチの違いが存在します。
| 項目 | ラボスケール(研究段階) | 産業スケール(量産段階) |
| 基板 | 硬質な小型基板(ガラス等、数mm~数cm角) | 柔軟な長尺フィルム基板(PET等、100m超) |
| プロセス | バッチ処理(1枚ずつ作製) | 連続処理(R2Rによる連続生産) |
| 成膜方法 | スピンコート法 | スロットダイコーティング、インクジェット等、連続生産可能な方法 |
| 材料利用率 | 数%程度 | 99%以上 |
| 成膜技術 (結晶化方法) | アンチソルベント法、2ステップ法、蒸気アシスト法など | エアナイフ法(ガスクエンチ法、ガスフロー法) |
| 乾燥 | ホットプレートによる個別静置加熱乾燥 | トンネル型乾燥炉を通過しながら連続加熱乾燥 |
| コスト | 高い | 低く抑えられる |
ペロブスカイト太陽電池の成膜技術
ラボスケールでも産業スケールでも、ペロブスカイト太陽電池の効率を上げるためには均一で結晶性が高く欠陥や結晶粒界のない層構造にする必要があります。
ペロブスカイト薄膜の結晶化は、溶液中からの核生成と結晶成長の速度を調整することで制御できます。しかし、溶液プロセスでは、ペロブスカイト膜の結晶化が数秒以内に完了するため、膜の結晶化度や配向を制御することは困難でした。

ペロブスカイト層の結晶化は、前駆体溶液の作り方と結晶化のさせ方の組み合わせがポイントです。これはソルベントエンジニアリングと呼ばれます。
ソルベントエンジニアリングには、アンチソルベント法(貧溶媒法)、エアナイフ法(ガスクエンチ法、ガスフロー法)、減圧法、加熱法などがあります。これらは単独で実施されることもありますし、複数組み合わせて実施されることもあります。
製膜溶媒にはペロブスカイト材料の溶解性が高いDMFなどの高沸点溶媒がよく使用されていました。しかし高沸点溶媒は溶媒の蒸発速度が遅いため、核生成が遅く結晶が大きく成長し、その結果不規則な針状の結晶構造ができてしまいます。DMFなどの高沸点溶媒では、ペロブスカイト層として理想的な均一な結晶構造にするのが困難でした。そこで、溶液中からペロブスカイト結晶を析出させる速度を上げるための製膜方法の改良がされました。
アンチソルベント法(貧溶媒法)
ひとつはアンチソルベント法で、これはスピンコートでペロブスカイト層を製膜している最中に貧溶媒を滴下する方法です。貧溶媒としては、クロロベンゼン[1]、トルエン[2]、ヘキサン、酢酸エチル、ジエチルエーテル[3]が用いられます。
アンチソルベント法はスピンコートを使用するラボスケールでよく利用されます。
エアナイフ法(ガスクエンチ法、ガスフロー法)
もうひとつはガスフロー法で、これはペロブスカイト層を製膜している最中に不活性ガスを吹き付けて溶媒の蒸発を早める方法です。
基板に塗布された溶液に高圧空気を吹き付け、溶媒を均一かつ瞬時に揮発させます。過飽和状態を強制的に作り出すことで、膜全体に均一な結晶の核を同時に発生させます。溶液中からペロブスカイト結晶を早く析出させ、その後すぐに基板を加熱処理することで、緻密で平坦な膜を得ることができます。
R2Rプロセスの産業スケールで主に利用される成膜技術が、このエアナイフ法です。
スピンコートを使用するラボスケールでも利用されます。
減圧法
減圧環境で製膜する減圧法も開発されています。減圧法は、アンチソルベント法、ガスフロー法と同じ、溶媒を早く蒸発させる目的です。
加熱法
加熱しながら製膜する加熱法も開発されています。加熱法は、アンチソルベント法、ガスフロー法と同じ、溶媒を早く蒸発させる目的です。

2ステップ法
ペロブスカイト層の製膜方法は、1ステップ法と2ステップ法に分類できます。2ステップ法はペロブスカイト太陽電池の効率を向上させたブレイクスルーのひとつでした[4]。
1ステップ法では、ペロブスカイト化合物を構成するすべての前駆体を含む溶液を塗布し、溶媒を蒸発させることでペロブスカイト層を形成します。前駆体は例えば、PbI2、MAI(ヨウ化メチルアンモニウム)、DMF、DMSO、GBLなどの非プロトン極性溶媒です。前駆体溶液をスピンコートすると、溶媒が蒸発するとともに溶解していた前駆体の濃度が過飽和状態に達し、ペロブスカイトの核生成が起きます。1ステップ法では、核生成や核成長をうまく制御できず不規則な結晶成長となり、効率が低い原因となっていました。
2ステップ法では、PbI2溶液を塗布製膜後、MAI溶液を塗布製膜します。2ステップ法によって、PbI2と有機塩との反応を適度に制御しペロブスカイト結晶を大きくすることができます。また、PbI2とMAIからペロブスカイトへと変換する時の体積膨張により、欠陥を埋めることができ、均一で欠陥のない膜質を実現できます。
蒸気アシスト法
2ステップ法には残留PbI2界面でキャリアの輸送を妨げられて性能が劣化する課題もありました。この改良のために開発されたのが蒸気アシスト法です[5]。蒸気アシスト法は、堆積したPbI2層にMAI蒸気を接触させて製膜します。蒸気アシスト法は、核生成と膜成長が遅く、結晶粒径が大きくなり、高い再現性が得られるため、簡便な低温法です。
ペロブスカイト太陽電池の製造装置メーカー
国内の代表的な製造装置メーカーを紹介します。
株式会社ヒラノテクシード
株式会社ヒラノテクシードは、ペロブスカイト太陽電池の量産化に対応するロール・ツー・ロール(R2R)方式の専用塗工装置を開発・製造する国内大手メーカーです。
基材巻出しから表面処理、塗工、乾燥、そして巻取りまでを連続的に実行できるペロブスカイト太陽電池の製造装置を開発しました。東京ビッグサイトで開催されたCONVERTECH 2026で公開されました。独自の乾燥技術を適用したこの装置で製造したペロブスカイト太陽電池の発電効率は15%で、R2R方式としては国内最高レベル。

三星ダイヤモンド工業
三星ダイヤモンド工業は、フラットパネルディスプレイや精密ガラスの切断・加工で培った加工技術を応用し、ペロブスカイト太陽電池の製造工程におけるパターニング加工装置(レーザーパターニング装置)を中心に展開・生産しています。
三星ダイヤモンド工業はペロブスカイト太陽電池の塗工・成膜工程の後に必要となるセル・モジュールの流路形成(パターニング)と分断という重要工程を担っています。日本国内の量産サプライチェーン構築(経済産業省のGX支援事業採択など)においても、装置サプライヤーとして中核を担っています。
- ロール・ツー・ロールレーザーパターニングマシン(MPV-LMM+R2R):フレキシブル基板ロールのパターニングが可能。R2Rプロセスに対応したノンストップ加工も可能です。

株式会社エヌ・ピー・シー
株式会社エヌ・ピー・シーは、長年培った薄膜系太陽電池製造装置の経験を活かし、成膜から最終製品化までを網羅するペロブスカイト太陽電池向けの製造・塗布装置を展開しています。高機能なインクジェット技術を有する韓国のGosan Tech Co., Ltd.社と提携し、その技術を搭載したペロブスカイト太陽電池向け装置の販売も行っています。
- 電極形成装置
- シート積層装置
- ラミネーション(貼り合わせ)装置
- インクジェット塗布装置(Beatシリーズ):塗布圧力コントロール技術により均一性が高く、また高速での塗布を実現。

長州産業株式会社
長州産業株式会社は、ペロブスカイト太陽電池の製造に不可欠な真空蒸着装置やスパッタ装置などの製造装置を手がけています。また、経済産業省やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援のもと、2030年までのペロブスカイト/シリコンタンデム型太陽電池の量産化・商品化(変換効率30%超)に向けた技術実証事業を進めています(長州産業プレスリリース)。
- 真空蒸着装置
- スパッタ装置
関連書籍
「ペロブスカイト太陽電池の開発最前線」は、ペロブスカイト太陽電池の材料の改良、製造方法の改良、性能評価方法について、各分野の国内の専門家が解説した本です。
「ペロブスカイト太陽電池: 光発電の特徴と産業応用」は、太陽電池としてトップクラスのエネルギー変換効率に進化したペロブスカイト太陽電池の、研究の背景、歴史、しくみ、応用技術を解説した本です。
- 第1章 太陽エネルギーとサステイナビリティ
- 第2章 ペロブスカイト太陽電池の発見と先導研究
- 第3章 ハロゲン化ペロブスカイト結晶の光物性
- 第4章 ペロブスカイト薄膜の作製
- 第5章 ペロブスカイト太陽電池の性能
- 第6章 ペロブスカイト太陽電池の高効率化
- 第7章 鉛を用いないペロブスカイト太陽電池
- 第8章 広がる産業応用
- 第9章 地産地消の自給自足電力としての普及
「大発見の舞台裏で! ―ペロブスカイト太陽電池誕生秘話」は、ペロブスカイト太陽電池開発のドラマチックな展開と熾烈な研究開発の舞台裏が書かれた本です。
文献
- [1] Nat. Energy 2016, 1, 16142 (https://doi.org/10.1038/nenergy.2016.142)
- [2] Nat. Mater. 2014, 13, 897–903 (https://doi.org/10.1038/nmat4014)
- [3] Sustainable Energy Fuels 2017, 1, 1041-1048 (https://doi.org/10.1039/C7SE00125H)
- [4] Nature 2013, 499, 316–319 (https://doi.org/10.1038/nature12340)
- [5] J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 2, 622–625(https://doi.org/10.1021/ja411509g)

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