化学メーカーでは製品を製造するための原料を変更する場合がありますが、簡単には変更できません。
例えばA社の「化合物X」をB社の「化合物X」に変える場合、同じ「化合物X」でも純度や含まれる不純物に違いがあると、これを原料とした製品品質が変わる可能性があるためです。
この記事では化学メーカーの原料変更における品質管理方法を説明します。同じ化合物でも同じ品質とは限らない理由、実際に経験した原料変更の理由、原料変更の手順、原料変更の難しさを紹介します。
化学メーカーの原料変更とは?
原料変更を4タイプにわけた英語の頭文字をとって4M変更と呼ぶことがあります。原料メーカーが変わるManはもちろん、原料メーカーが変わらないMachine、Method、Materialに相当する変更も、原料変更になります。
Man | 人:原料メーカー |
Machine | 機械:製造装置、製造設備 |
Method | 方法:製造方法、保管方法、運送方法、分析方法 |
Material | 材料:設備材質、容器材質、原料の原料(2次原料) |
同じ化合物でも同じ品質とは限らない理由
例えばA社の「化合物X」とB社の「化合物X」は同じ化合物ですが、同じ品質とは限りません。例えば次のような場合、原料として使用すると製品品質が変わる可能性があります。
- 化合物Xの純度が違う
- 化合物X中の不純物の種類や量が違う
- 化合物Xの製造方法が違う(不純物の違いに影響します)
- 化合物Xの原料メーカーが違う(不純物の違いに影響します)
そのため、同じ化合物であっても品質に影響するかどうか慎重に確認する必要があります。
原料変更の理由
では一体どのような理由で原料変更するのでしょうか?
原料メーカー変更の理由
- 現在の原料が製造終了になるため
- 安価原料へ変更するため
- 2社購買化するBCPのため
原料メーカー側の都合の理由として、現在購入している原料メーカーが製造を終了する場合があります。原料メーカーの設備が老朽化したが更新するための設備投資をすると採算が合わなくなる場合や、不採算の事業から撤退する場合に製造終了することが多いです。
自社側の都合の理由として、低価格の原料メーカーに変更する場合や、BCPのための2社購買化があります。ここでBCP(Business Continuity Planning、事業継続計画)とは、ひとつの原料メーカーから原料が購入できなくなった場合に、もうひとつの原料メーカーから原料を購入して自社で製品を製造し続けられるようにすることです。
原料メーカーから原料が購入できなくなる場合とは
- 原料メーカーの工場近くで災害が発生した場合
- 原料メーカーの工場で設備故障トラブルが発生した場合
- 原料メーカーの生産能力以上の量を購入したい場合
どれも実際に経験したことがあります
原料メーカー変更以外の原料変更の理由
- 原料メーカーの生産能力向上のため(設備変更、設備増設、スケールアップする製法変更など)
- 原料メーカーの設備更新のため(製造設備更新、分析装置更新など)
- 原料メーカーが原料(自社からすると2次原料)を入手できなくなったため
いろいろな種類の理由や変更内容があります。製品品質への影響が大きい変更の場合は、変更しても問題ないか慎重に確認してから変更します。
原料変更の手順
原料変更は基本的に以下の手順で製品品質に影響するかどうか確認します。
- 原料メーカーから変更原料のサンプルを入手
- 実験室レベルの小スケールで製品を製造
- 小スケール製品の分析や評価 (合格なら次のステップに進む)
- 工場設備で製品を製造
- 小スケール製品の分析や評価 (合格なら変更問題なしと判断)
注意点:微量不純物分析
分析して変更前後の原料の純度が同等だったとしてもまだ安心できません。製品用途によっては0.1%レベルの微量不純物が製品品質に悪影響をする場合があるためです。変更原料中に今までになかった新しい微量不純物があるかどうか、製品にした後にも微量不純物があるかどうか、慎重に確認します。
注意点:製造スケール
変更のあった原料はいきなり工場設備で製造しません。製品品質が異常になる可能性があるためです。工場設備で大量に製造した製品が品質異常だった場合は大きな損害が発生してしまうため、まずは実験室レベルの小スケールで製品を製造し、分析や評価して品質を確認します。
原料変更の難しさ
化学メーカーでは同じ製品を何度も製造し、その品質が一定であることが顧客から求められます。原料変更すると従来品と品質が変わってしまい、社内で製造・分析・評価にコストや時間をかけて検討しても無駄になる可能性があります。
また、原料メーカーを変更する場合、自社から顧客に原料変更を申請または通知し、自社だけでなく顧客でも変更品の品質評価をする場合があります。しかし、顧客はすんなりと評価して変更を承認してくれるとは限りません。非協力的な顧客は以下のような対応をする場合があります。
- そもそも変更を承認せず、今まで通りで続けることを要求する
- 変更品の評価をなかなかしない
- 品質規格内にもかかわらず、少しの品質差を理由に変更承認しない
- 品質規格項目にはない、顧客で独自に評価している項目に差があることを理由に変更承認しない
- 変更してもよいが価格を安くするよう要求する
原料変更に関係する部署
化学メーカーの中で原料変更に関係する部署は、主に購買部と品質保証部です。
まとめ
この記事では化学メーカーの原料変更における品質管理方法を説明しました。同じ化合物でも同じ品質とは限らない理由、実際に経験した原料変更の理由、原料変更の手順、原料変更の難しさを紹介しました。
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