ペロブスカイト太陽電池は製造方法によって変換効率が大きく変化します。そのため、材料の開発とともに製造方法(成膜方法)の工夫が重要です。成膜方法の工夫としては、ソルベントエンジニアリング(アンチソルベント法、2ステップ法、のようにペロブスカイト層を緻密で結晶粒界の少ない膜質にする工夫が行われてきました。
この記事では、ペロブスカイト太陽電池の製造方法と効率向上のための工夫について説明します。ペロブスカイト太陽電池の化学構造は別記事で紹介します。
ペロブスカイト太陽電池の製膜方法の改良
ペロブスカイト太陽電池の性能は、ペロブスカイト層の結晶化度や膜質に影響されるため、製膜方法は性能を決める重要な因子です。ペロブスカイト太陽電池の効率を上げるためには、均一で結晶性が高く欠陥や結晶粒界のない層構造にする必要があります。
ペロブスカイト太陽電池は一般的に溶液プロセスで製造されます。ペロブスカイト薄膜の結晶化は、溶液中からの核生成と結晶成長の速度を調整することで制御できます。しかし、溶液プロセスでは、ペロブスカイト膜の結晶化は数秒以内に完了するため、膜の結晶化度や配向を制御することは困難でした。
ソルベントエンジニアリング
ソルベントエンジニアリングは溶液からペロブスカイト層を形成する際に、ペロブスカイト太陽電池の性能を向上させるために緻密で結晶粒界が少なく結晶の大きなペロブスカイト層を形成するための工夫です。アンチソルベント法、ガスフロー法、減圧法、加熱法などがあります。
これらは単独で実施されることもありますし、複数組み合わせて実施されることもあります。
製膜溶媒にはペロブスカイト材料の溶解性が高いDMFなどの高沸点溶媒がよく使用されていました。しかし高沸点溶媒は溶媒の蒸発速度が遅いため、核生成が遅く結晶が大きく成長し、その結果不規則な針状の結晶構造ができてしまいます。DMFなどの高沸点溶媒では、ペロブスカイト層として理想的な均一な結晶構造にするのが困難でした。そこで、溶液中からペロブスカイト結晶を析出させる速度を上げるための製膜方法の改良がされました。
アンチソルベント法(貧溶媒法)
ひとつはアンチソルベント法で、これはスピンコートでペロブスカイト層を製膜している最中に貧溶媒を滴下する方法です。貧溶媒としては、クロロベンゼン[1]、トルエン[2]、ヘキサン、酢酸エチル、ジエチルエーテル[3]が用いられます。
ガスフロー法
もうひとつはガスフロー法で、これはスピンコートでペロブスカイト層を製膜している最中に不活性ガスを吹き付けて溶媒の蒸発を早める方法です。どちらも溶液中からペロブスカイト結晶を早く析出させ、その後すぐに基板を加熱処理することで、緻密で平坦な膜を得ることができます。
減圧法
減圧環境で製膜する減圧法も開発されています。減圧法は、アンチソルベント法、ガスフロー法と同じ、溶媒を早く蒸発させる目的です。
加熱法
加熱しながら製膜する加熱法も開発されています。加熱法は、アンチソルベント法、ガスフロー法と同じ、溶媒を早く蒸発させる目的です。
2ステップ法
ペロブスカイト層の製膜方法は、1ステップ法と2ステップ法に分類できます。2ステップ法はペロブスカイト太陽電池の効率を向上させたブレイクスルーのひとつでした[4]。
1ステップ法では、ペロブスカイト化合物を構成するすべての前駆体を含む溶液を塗布し、溶媒を蒸発させることでペロブスカイト層を形成します。前駆体は例えば、PbI2、MAI(ヨウ化メチルアンモニウム)、DMF、DMSO、GBLなどの非プロトン極性溶媒です。前駆体溶液をスピンコートすると、溶媒が蒸発するとともに溶解していた前駆体の濃度が過飽和状態に達し、ペロブスカイトの核生成が起きます。1ステップ法では、核生成や核成長をうまく制御できず不規則な結晶成長となり、効率が低い原因となっていました。
2ステップ法では、PbI2溶液を塗布製膜後、MAI溶液を塗布製膜します。2ステップ法によって、PbI2と有機塩との反応を適度に制御しペロブスカイト結晶を大きくすることができます。また、PbI2とMAIからペロブスカイトへと変換する時の体積膨張により、欠陥を埋めることができ、均一で欠陥のない膜質を実現できます。
蒸気アシスト法
2ステップ法には残留PbI2界面でキャリアの輸送を妨げられて性能が劣化する課題もありました。この改良のために開発されたのが蒸気アシスト法です[5]。蒸気アシスト法は、堆積したPbI2層にMAI蒸気を接触させて製膜します。蒸気アシスト法は、核生成と膜成長が遅く、結晶粒径が大きくなり、高い再現性が得られるため、簡便な低温法です。
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- 第8章 広がる産業応用
- 第9章 地産地消の自給自足電力としての普及
「大発見の舞台裏で! ―ペロブスカイト太陽電池誕生秘話」は、ペロブスカイト太陽電池開発のドラマチックな展開と熾烈な研究開発の舞台裏が書かれた本です。
文献
- [1] Nat. Energy 2016, 1, 16142 (https://doi.org/10.1038/nenergy.2016.142)
- [2] Nat. Mater. 2014, 13, 897–903 (https://doi.org/10.1038/nmat4014)
- [3] Sustainable Energy Fuels 2017, 1, 1041-1048 (https://doi.org/10.1039/C7SE00125H)
- [4] Nature 2013, 499, 316–319 (https://doi.org/10.1038/nature12340)
- [5] J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 2, 622–625(https://doi.org/10.1021/ja411509g)