持続可能な社会の実現、化石燃料の使用量削減、二酸化炭素排出量削減など、様々な目的からプラスチックのリサイクルが求められています。
この記事では、プラスチックのリサイクル、中でもケミカルリサイクル(解重合、熱分解、ガス化、コークス炉化学原料化、高炉還元の5種類)について化学式を使って説明します。
プラスチックのリサイクルの種類
プラスチックのリサイクルには、マテリアルリサイクル(青色の矢印)、ケミカルリサイクル(緑色の矢印)、サーマルリサイクル(赤色の矢印)の3種類があります。
マテリアルリサイクルは、使用後のプラスチック製品を破砕、分別、洗浄し、同じ製品や異なる製品の原料として再利用する方法です。リサイクル工程が短いため、製造コストや環境負荷を低く抑えることができる点がメリットです。一方で、異なるプラスチックを混ぜると再生品の品質が劣化するため、原料の分別をしっかりする必要があります。また、一般的にマテリアルリサイクルでは微量の不純物やポリマーの分解の影響により、再生品の品質は低下する傾向があります。
ケミカルリサイクルは、回収したプラスチック製品を化学的な手法でプラスチック(ポリマー)の原料(モノマー)に戻し、再び重合してプラスチックを製造する方法です。一度原料に戻して製造するため、石油由来原料と同じ品質の製品を製造できる点がメリットです。一方で、ケミカルリサイクルはリサイクル工程が長いため、リサイクルの中では比較的コストやエネルギーを必要とします。
サーマルリサイクルは、廃棄されたプラスチック製品を燃やすときに発生する熱エネルギーを発電や給湯、暖房に利用するリサイクル方法です。分別できない複合材や落としにくい汚れがあるプラスチック製品は、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルできず、サーマルリサイクルされます。サーマルリサイクルは、廃プラスチックを使用することで、本来使用するはずだった化石燃料の使用量を減らすため、間接的なリサイクルと言えます。
長所 | 短所 | |
マテリアルリサイクル | ・比較的低コスト | ・石油由来原料と比較して再生品の品質が劣化 ・原料の分別が必要 |
ケミカルリサイクル | ・石油由来原料と同じ品質の製品を製造できる | ・高コスト |
サーマルリサイクル | ・汚れているプラスチックでもエネルギーとしてリサイクルできる | ・焼却でプラスチックは失われるため繰り返しのリサイクルはできない |
プラスチックのケミカルリサイクルの種類
プラスチックのケミカルリサイクルには、解重合、熱分解、ガス化、コークス炉化学原料化、高炉還元の5種類があります。
リサイクル方法 | 原料 廃プラスチック | 前処理 | 回収製品 | メリット | デメリット |
解重合 Depolymerization | PET | PETのみに分別 | PETのモノマー | ケミカルリサイクルの中ではリサイクル工程が短い | 原料の純度を高めるため厳重に分別する必要がある |
PS | PSのみに分別 | スチレン | |||
PMMA | PMMAのみに分別 | メタクリル酸メチル | |||
熱分解 Pyrolysis | 炭化水素系プラスチック | 酸素や塩素を含むプラスチックは除去 | 熱分解油(ナフサなど) | PE、PP、PS等の混合プラスチックを処理できる | 回収率が低く、リサイクル工程が長い |
ガス化 Gasification | プラスチックの分別が不要 | 合成ガス(CO+H2) | |||
コークス炉化学原料化 | 塩素を含むプラスチックは除去 | 熱分解油、合成ガス | 処理可能量が多い | ||
高炉還元 | – |
プラスチックの解重合
解重合は、廃プラスチックをモノマーに分解する方法です。解重合で得られたモノマーは、ふたたび重合して、石油由来のプラスチックと同じ品質の製品を製造することができます。解重合できる代表的なプラスチックはPET、PS、PMMAです。
解重合させるための廃プラスチックは、ほかの種類のプラスチックが混ざらないように厳重に分別する必要があります。
PETの解重合
PETの解重合は別の記事でくわしく説明しましたのでご覧ください。
PSの解重合
PSは加熱することで解重合できます。
PSを加熱するとポリマー鎖が切断されてラジカルが発生します。PSのラジカルは隣接するベンゼン環で共鳴安定化されており、付加反応による再結合よりも分解反応が起こりやすい状態になっています。
ラジカルを安定化できる化学構造のポリマーだけ、熱分解でモノマーに解重合させることができます。
PSを400℃で熱分解すると、スチレンモノマーを収率60%で回収できます。PSでは一定の確率で水素引き抜きによるラジカルの移動が起こり、その影響でスチレン二量体や三量体ができることが知られています(出典:東京化学同人 第二版 高分子の分解とリサイクル)。
PMMAの解重合
PMMAも加熱することで解重合できます。
PMMAを加熱するとポリマー鎖が切断されてラジカルが発生します。PMMAのラジカルは三級ラジカルで安定なうえに、隣接するカルボニル基によって共鳴安定化されており、付加反応による再結合よりも分解反応が起こりやすい状態になっています。
PMMAはPSのような三級水素を持たないため、水素引き抜きによるラジカルの移動がなく、定量的にメタクリル酸メチルモノマーに解重合します。
プラスチックの熱分解
熱分解は、廃プラスチックを無酸素条件下で加熱分解してナフサなどの熱分解油を製造する方法です。熱分解油はナフサクラッカーに投入してエチレンなどの基礎化学品に変換されます。
熱分解では、炭化水素系プラスチックであれば、PE、PP、PS等の混合プラスチックでも処理することができます。ただし、酸素原子を含むPETや塩素原子を含むPVCは設備の腐食の原因になるため処理前に除去します。熱分解では熱分解油のほかにガスや高沸点残渣も生成し、熱分解油の収率が低いことが課題です。
PEの熱分解
一部の特別なプラスチック(PS、PMMA)を除く一般的なプラスチック(PE、PP、など)は、加熱するとランダムに分解して分子量に分布のある分解物が生成します。これは、加熱によって生成するラジカルが不安定なため、ラジカルがポリマー鎖上を移動してランダムな位置で結合を切断するためです。
熱分解の際にゼオライト触媒(HZSM-5など)を使用すると、分子量の高い成分を分解しやすくなり、分子量分布を狭くすることもできます。
PETの熱分解
PETは熱分解するとカルボン酸とビニル末端に分解します。この分解反応によってテレフタル酸(HOOC-C6H4-COOH)が生成します。また、脱炭酸反応も起こるため安息香酸(C6H5-COOH)も生成します。また、PETは熱分解しても高沸点残渣が多く発生することが知られています。
テレフタル酸や安息香酸は、結晶化して配管を詰まらせる原因や、酸による設備の腐食の原因になるため、PETは熱分解装置に投入しないよう、事前に分別除去することが好ましいです。
PVCの熱分解
PVCはPS、PE、PPと比較して低い温度(~250℃)で分解して塩化水素を発生して不飽和度の高いポリマーになります。さらに400℃以上になると、ベンゼンやさらに複雑な芳香族化合物に変換され、元の重量に対して15%程度の高沸点残渣が発生します。
発生する塩化水素は設備の腐食の原因になるため、PVCは熱分解装置に投入しないよう、事前に分別除去することが好ましいです。事前に分別除去しない場合は、混合廃プラスチックを350℃くらいで予備分解させて塩化水素を除去するプロセスを入れる対策もあります。
プラスチックのガス化
ガス化は、廃プラスチックを酸素条件下で加熱分解して合成ガス(一酸化炭素COと水素H2)を製造する方法です。合成ガスは、フィッシャー・トロプシュ合成、アンモニア合成、メタノール合成などの原料となります。
ガス化法は廃プラスチック中にPVCやPETが混ざっていても問題なく処理できます。ガス化では、熱分解装置に酸素を吹き込んで廃プラスチックを燃焼させ、H2とCOとCO2がおよそ1:1:1で得られます。つまり、廃プラスチック中の炭素の半分はCO2になります。(出典:旭リサーチセンターレポート プラスチックのケミカルリサイクルとその技術開発(上))
合成ガスは様々な化学品に変換される基礎的な原料です。合成ガスの一部はフィッシャー・トロプシュ合成によってナフサに変換され、ナフサクラッカーに投入されます。
合成ガスは、ナフサ以外にも、メタノール、メタン、アンモニアなど様々な化学品に変換されます。
プラスチックのコークス炉化学原料化
コークス炉化学原料化は、コークス炉に投入する石炭の一部に廃プラスチックを使用する方法です。各種廃プラスチックの混合物が利用できますが、塩素を含むPVCは利用できないため使用前に分別する必要があります。石炭と、石炭に対して1〜2%の廃プラスチックをコークス炉に投入して1200℃で加熱処理すると、コークス20%、炭化水素油40%、ガス40%が得られます。コークスは製鉄の高炉還元剤に使用され、炭化水素油はナフサクラッカーの原料とされ、ガスは燃料として使用されます。
炭化水素油をナフサクラッカーに投入する点が、熱分解によるケミカルリサイクルと似ています。
コークス炉化学原料化は日本製鉄が開発したもので、日本製鉄のコークス炉で実用化されています(参考:日本製鉄ホームページ)。 日本の廃プラスチックの処理量として最も多いのが、このコークス炉化学原料化です。
プラスチックの高炉還元
製鉄所では、鉄鉱石とコークスそして副原料を高炉に入れ鉄鉱石を融かして銑鉄を生産します。このときコークスは燃料として炉内を高温にするとともに、鉄鉱石の主成分である酸化鉄から酸素を奪う還元剤として働きます。
プラスチックの高炉還元は、高炉に投入するコークスの一部に廃プラスチックを使用する方法です。廃プラスチックは還元剤として働き、CO2とH2Oに変換されます。
- コークスによる高炉還元:3C + 2Fe2O3 → 4Fe + 3CO2
- 廃プラスチックによる高炉還元:(CH2)n + n Fe2O3 → 2n Fe + n CO2 + n H2O
高炉にはPVCを除いた廃プラスチックを投入します。PVCを含む廃プラスチックの場合は、無酸素状態で約350℃の高温にして塩化水素を分離したうえで同じように高炉に投入します。
高炉還元はJFEスチールが開発したもので、JFEスチールの高炉で実用化されています(参考:JFEスチールホームページ)。
まとめ
この記事では、プラスチックのリサイクル、中でもケミカルリサイクル(解重合、熱分解、ガス化、コークス炉化学原料化、高炉還元の5種類)について化学式を使って説明しました。
解重合は廃プラスチックを直接的に原料モノマーに変換する素晴らしい手法ですが、適用できる廃プラスチックの種類が、主にPET、PS、PMMAであり限られています。
熱分解はPE、PP、PSという3大プラスチックすべてを対象としたケミカルリサイクル手法で汎用的な手法と言えます。得られた熱分解油はナフサクラッカーに投入されて基礎化学品から出発するので、リサイクル工程が長いことが特徴です。
ガス化もPE、PP、PSという3大プラスチックすべてを対象としたケミカルリサイクル手法で汎用的な手法です。ガス化からは合成ガスが得られるとともに二酸化炭素が発生します。 コークス炉化学原料化と高炉還元は、ともに製鉄産業に使用される石炭の一部を廃プラスチックで代替する手法です。一部はナフサクラッカーに投入できてリサイクルできる成分もありますが、基本的には使い切りです。サーマルリサイクルと同様に、本来使用するはずであった石炭の使用量を減らす、間接的なリサイクルと言えます。
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