リチウムイオン電池の鉱物資源から部材、電池製品までのサプライチェーンにおいて、国や企業のシェアをまとめました。サプライチェーン全体を通して中国の影響力が強いことがわかります。
リチウムイオン電池を最初に製品化したのは日本のソニーで、リチウムイオン電池メーカーも日本企業のシェアが高い時期はありましたが、今では中国企業が高いシェアを持っています。
![けむさん](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2023/11/けむさん.jpg)
リチウムイオン電池についてはほかにも記事を書いています。ぜひご覧ください。
鉱物資源
リチウム
リチウムは世界埋蔵量2,600万トンで、埋蔵・産出国が偏在しているレアメタルです。
塩湖かん水からのリチウム生産は、アンデス山脈の中央東部のリチウム三角地帯と呼ばれる地域のチリやアルゼンチンで行われています。隣接するボリビアにも多くの埋蔵量があると推測されますが、資源開発が進んでおらず不明確です。
リチウム鉱石からのリチウム生産は、主にオーストラリアで行われています。オーストラリアではペグマタイトからタンタルを生成する際の副生物として回収されており、世界2位の埋蔵量です。
また、海水中にはリチウムが2300億トン(濃度約0.2ppm)含まれており、実質的に無限の埋蔵量があるといえます。コスト面で実用的な回収方法が開発されれば、日本でリチウムを算出することが可能になります。
塩湖かん水からリチウム製品を製造する場合、天日で蒸発濃縮させ、晶析させて塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)を除去して塩化リチウム(LiCl)純度を高め、酸化カルシウム(CaO)等を用いて残留Mg成分を除去してさらに高純度化させ、ソーダ灰(Na2CO3)を加えて炭酸リチウム(Li2CO3)を製造します。水酸化リチウム(LiOH)は炭酸リチウムに消石灰(Ca(OH)2)を加えて製造します。
リチウム鉱石からリチウム製品を製造する場合、鉱石をロータリーキルンに投入して約1,100℃で加熱し、硫酸と反応させて硫酸リチウム(Li2SO4)にし、炭酸カルシウム(CaCO3)を加えて鉄やアルミの不純物を除去して硫酸リチウム(Li2SO4)水溶液にします。この硫酸リチウムにソーダ灰(Na2CO3)を加えて炭酸リチウム(Li2CO3)を製造します。硫酸リチウムに苛性ソーダ(NaOH)を加えると水酸化リチウム(LiOH)を製造できます。
塩湖かん水から生産する方法はコストが安いですが、天日乾燥工程を含むため生産期間は1.5年程度で長期になります。リチウム鉱石から生産する方法はコストが高いですが生産期間は短いです。
リチウムイオン電池の正極材には炭酸リチウムや水酸化リチウムが利用されます。
![リチウム化合物の製品チャート](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/リチウム化合物の製品チャート.jpg)
リチウムの生産企業は限られていて、アルベマール(アメリカ)、ガンフェンリチウム(中国)、SQM(チリ)、天斉リチウム(中国)、リベント(アメリカ)の5社でシェア70%以上となっています。
![リチウム生産企業](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/リチウム生産企業.jpg)
リチウムの用途は70%以上がリチウムイオン電池です。
![リチウム用途](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/リチウム用途2.jpg)
コバルト
コバルトの埋蔵量は約830万トンでおよそ半分がコンゴに集中しています。コンゴは産出量でも世界一です。
コンゴでのコバルトの採掘については、労働安全や児童労働について問題があると指摘されています(出典:アムネスティ)。
南鳥島南方の日本の排他的経済水域内には、コバルトリッチクラストがあり、JGOMECが採掘の検討をしています。コバルトリッチクラストには、コバルト、ニッケル、銅、白金、マンガンなどの金属が含まれています。(出典:JOGMEC)
コバルトの生産企業はグレンコア(スイス)のシェアが最も高く、チャイナモリブデン(中国)、ノリリスク・ニッケル(ロシア)、金川集団(中国)、ヴァーレ(ブラジル)と続いています。
![コバルト生産企業](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/コバルト生産企業.jpg)
コバルトの用途は約70%がリチウムイオン電池です。
![コバルト用途](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/コバルト用途.jpg)
ニッケル
ニッケルの埋蔵量は1億トン超で、オーストラリア、インドネシア、ブラジル、ロシア、ニューカレドニア、フィリピンに多く偏在しています。産出量が多いのは、インドネシア、フィリピン、ロシアです。
インドネシアは産業構造の高度化のため、2020年にニッケル鉱石の輸出を禁止しました。その影響で2014年に2カ所しかなかったニッケル製錬所が2021年末に16カ所へ増加しました(出典:日本総研)。
ニッケルの生産企業としては、ノリリスク・ニッケル(ロシア)、ヴァーレ(ブラジル)、金川集団(中国)のシェアが高く、グレンコア(スイス)、BHP(オーストラリア)などがそれに続いています。
![ニッケル生産企業](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/ニッケル生産企業.jpg)
ニッケルの用途で最も多いのはステンレス鋼産業で約70%を使用し、電池産業は約12%を使用しています。
マンガン
マンガンの埋蔵量は約17億トンで、南アフリカ、中国、オーストラリア、ブラジル、ウクライナ、ガボンに偏在しています。生産量が多いのは、南アフリカ、ガボン、オーストラリアです。
マンガンはリチウムイオン電池以外の用途がほとんどです。製鉄産業において脱酸、脱硫、合金化する目的で、マンガンの約90%が使用されています。
グラファイト
グラファイトの埋蔵量は約3.3億トンで、トルコ、ブラジル、中国、マダガスカル、モザンビークに多く偏在しています。生産量が多いのは、中国、モザンビーク、マダガスカルです。
グラファイトには天然グラファイトと合成グラファイトがあり、およそ2/3は合成グラファイトが利用されています。合成グラファイトは電極、鉄鋼、電池用途に使用され、天然グラファイトは耐火物、電池用途に使用されます。(出典:カナダ政府)
部材
リチウムイオン電池の主要4部材は中国企業が高いシェアを取っています。ここ数年で日本と韓国のシェアが下がり中国のシェアが上がる傾向となっています。
LFP系正極材
EV用正極材ではNMC系が多い時期がありましたが、2020年にBYDがLFP系を使用してエネルギー密度が高くコストを抑えたブレードバッテリーという電池を開発してからLFP系が増加し、2022年頃にNMC系を追い越し、2023年では中国で販売されるEVの2/3がLFP系になりました。企業別のシェアはあまり情報がありませんでしたが、ニュースからはBYDやCATLが性能の高いLFP系正極材を製造して両社で高いシェアを取っているようです(参考:JETRO-1、JETRO-2)。
NMC系正極材
NMC系正極材は日亜化学、ユミコア、LGケミカルのシェアが高いです。
![NMC系正極材](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/NMC系正極材.jpg)
負極(グラファイト)
負極材は上位4社がすべて中国企業で、BTR(中国)、江西紫農(中国)、上海杉杉(中国)、広東凱金(中国)です。その次にレゾナックが続きます。
![負極材](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/負極材.jpg)
電解液
電解液も上位3社がすべて中国企業で、広州天賜(中国)、新宙邦(中国)、張家港国泰華栄(中国)です。その次にMUIS(日本)が続きます。
![電解液](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/電解液.jpg)
セパレータ
セパレータは上海エナジー(中国)がトップ企業で、旭化成(日本)、SK(韓国)、東レ(日本)の順となります。
![セパレータ](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/セパレータ.jpg)
電池製品
EV用リチウムイオン電池
EV用リチウムイオン電池は上位2社がすべて中国企業で、CATL(中国)、BYD(中国)です。BYDはEC完成車メーカーでもあります。3位以下は、LGES(韓国)、パナソニック(日本)、SK On(韓国)、サムスン(韓国)、CALB(中国)となっています。
中国、韓国、日本のメーカーしかありません。中でも中国メーカーのシェアが高いです。
![EV用リチウムイオン電池](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/EV用リチウムイオン電池.jpg)
EV完成車
2023年1-6月期のEC販売台数をまとめました。これまではテスラが販売台数世界一でしたが、BYDが逆転しました。そのほかにも中国メーカーが多くランクインしています。
![EV販売台数](http://chem-3.com/wp-content/uploads/2024/01/EV販売台数.jpg)
まとめ
リチウムイオン電池の鉱物資源から部材、電池製品までのサプライチェーンにおいて、国や企業のシェアをまとめました。サプライチェーン全体を通して中国の影響力が強いことがわかります。
サプライチェーン全体を通して中国の影響力が強く、特に鉱物資源のグラファイト、リチウムイオン電池、EV完成車において高いシェアを持っていました。
関連書籍
この本は、電池に関する基本的な解説から始まり、リチウムイオン電池などの二次電池の特徴や次世代電池の概要をわかりやすく説明しています。専門的な知識がない人でも理解しやすく書かれています。また幅広い範囲の内容を取り上げています。専門用語も易しく解説されており、電子やイオンの移動など、電池の基礎的な原理について詳しく説明されています。安全性や課題に関する内容も包括的に扱われており、リチウムイオン電池だけでなく、レドックスフロー電池やナトリウムイオン電池、全固体電池などの多様な電池技術についても解説があります。化学式などの難解な部分も分かりやすく説明されており、読者が容易に理解できるよう配慮されています。
この本は電池に関する幅広いトピックを丁寧に記載しており、電池の歴史、種類、構造、データに基づく反応、製造方法などが詳しく説明されています。電池についての基本知識を持たない素人でも理解できる内容です。また、一般にはあまり知られていないリチウムイオン電池の安全試験などの情報も含まれており、非常に有用な本と言えます。さらに、電池材料開発の基礎的な考え方も包括的に説明されています。本書はリチウムイオン電池の基本から充放電技術、安全性まで具体的に解説されており、学術的な難解さではなく実務的な内容に焦点が当てられています。ただし、本書は一般的な内容に焦点を当てており、最新の開発的技術については別の情報源を探す必要があるかもしれません。しかし、他の一般的な本とは異なる視点で、読者にとって有益な情報源になります。
この本は、リチウムイオン電池・全固体電池における活物質粒子や電極の作製方法、粒子や電極の構造分析や解析方法、電池の出力特性の評価方法などについて詳しく説明しています。その内容は、電池分野に経験がある人にとっては理解しやすく、特に企業の若手研究者にとっては有益な情報源となるでしょう。また、化学系の学生には問題ない内容ですが、電気系や機械系の学生には材料分析や電気化学の知識が必要です。特に、固体電池に関心がある場合はこの本を購入することをお勧めします。具体的なリチウムイオン電池の構成材料やプロセス技術、評価方法について網羅されており、特に電極活物質に関する詳細な情報が提供されています。ただし、バインダーやセパレーターに関する情報は限られているため、関連書籍が必要です。電極活物質の研究に従事している人には非常に役立つ内容です。