EUV露光によるリソグラフィーは最先端の半導体微細加工技術で、今後の半導体性能の向上に欠かせない技術です。このEUVリソグラフィーに必須の材料が、EUVフォトレジストです。
最先端のEUV技術には、その他の光源にはない特徴があります。その特徴に対応したEUVフォトレジストとして、以下の4種のEUVフォトレジスト材料の化学構造の特徴を紹介します。
- KrF、ArFベースのフォトレジスト
- ポリマー結合PAG型フォトレジスト
- 分子レジスト
- メタルレジスト
また、EUVフォトレジストを製造するメーカーと、そのシェアも紹介します。
EUVフォトレジストとは?
EUV露光によるリソグラフィー工程で使用されるフォトレジスト材料です。リソグラフィー工程におけるフォトレジスト材料の働きについては、別記事でわかりやすく説明しています。
EUVリソグラフィーとは?
半導体は「チップ上のトランジスタ集積率は18カ月で2倍になる」というムーアの法則に従って性能が向上し続けており、この性能の向上は主に半導体回路の微細化によって達成されてきました。半導体回路は半導体製造プロセス中のフォトリソグラフィー工程で形成されます。半導体回路の微細化は、リソグラフィー工程で使用する露光装置においては光源を短波長にした装置を開発し、短波長化した露光光源に対応したフォトレジストを開発することで達成されてきました。
露光装置の光源は、1980年台前半のg線(436 nm)から始まり、i線(365nm)、KrF線(248nm)、ArF線(193nm)、そして最新のEUV(13.5nm)へと短波長化してきました。
EUV露光によるリソグラフィーは最先端の半導体微細加工技術です。2019年に台湾のTSMCによって初めて量産投入されました。
EUV技術の課題
最先端のEUV技術には、その他の光源にはない課題があります[1]。
高出力の光源
一般に、波長が短くなると光は物質に吸収されやすくなります。波長が13.5nmと極端に短いEUV光を従来のレンズ方式の露光装置で転写しようとすると、レンズや空気中の分子に吸収されてしまい、ウエハー上のフォトレジストまで届きません。このため、光が通る経路を真空にして、なおかつ照明光学系にミラーを導入し、レンズはパターン縮小に用いる投影光学系に限定して、吸収を最小化しています。しかも、EUV光の反射率には上限が68%である理論限界があり、EUV露光装置の照明光学系では十枚以上のミラーで反射させて露光するため、ウエハーに到達する光は光源出力の約1%に過ぎません。リソグラフィー工程で必要な露光量を得るために、EUV露光装置は高出力にする必要があり、その定格消費電力は1MWと非常に大きくなっています。
少ないフォトン
EUV光は1世代前のArF光と比較してフォトンが1/14に減少します。EUV光源のさらなる高出力化は困難なため、少ないフォトンで反応する超高感度なフォトレジストが必要です。
EUVフォトレジスト材料に求められる性能
EUVレジストは、高い解像度(Resolution)、小さいラフネス(LER)、高い感度(Sensitivity)、などが求められます。これらのパラメータはトレードオフの関係にあります。
EUVフォトレジスト材料の化学構造の特徴
EUVフォトレジストは、はじめは従来のKrF、ArFベースのフォトレジストでしたが、徐々にEUV露光の特徴に最適化した、新しいタイプのフォトレジストに代わっています。
KrF、ArFベースのフォトレジスト
KrFおよびArFパターン形成で一般的に使用されるポリマーベースの化学増幅型レジストは、一般に、マトリックスポリマー、光酸発生剤(PAG)、溶解抑制剤、および溶媒で構成されています。PAGは露光中に酸を生成し、マトリックスポリマーに拡散して、PEB工程でポリマー内のペンダントグループの脱保護を触媒し、現像液中のフォトレジストの溶解度を変えます。
マトリックスポリマーとしては、KrFレジストではポリ(4-ヒドロキシスチレン)誘導体、ArFレジストではポリメタクリル酸誘導体一般的に使用され、これらのマトリックスポリマーがEUVレジストにも適用可能です。
マトリックスポリマーにフッ素などのEUV吸収断面積が大きい非金属元素を組み込むことで、EUV光の吸収係数を高めることができます。
KrF、ArFベースのフォトレジストの化学構造の特徴を示します。詳細は別記事「化学増幅型レジスト」をご覧ください。
ポリマー結合PAG型フォトレジスト
従来はマトリックスポリマーと光酸発生剤(PAG)は別の分子で混合して使用されてきました。このタイプのフォトレジストでは、酸が拡散することで解像度が低下することが知られていました。マトリックスポリマーとPAGを結合させたポリマー結合PAG型フォトレジストは酸の拡散を抑制できるため、従来の非結合型と比較して、解像度が高くなる事例が報告されています[3]。
ポリマー結合PAG型フォトレジストの化学構造の特徴は、上記のKrF、ArFベースのフォトレジストの「ベース樹脂」と「PAG」を化学結合で直接結合させた構造をしています。
分子レジスト
分子レジストは低分子化合物をマトリックスとするフォトレジスト材料です。従来は高分子化合物をマトリックスとしていましたが、微細化に対応するため分子サイズを小さくしているところが特徴です。
一般的な分子レジストの化学構造は、以下のようなフェノール化合物の水酸基に、酸で分解する保護基を付けた「分子ガラス」と、上記のKrF、ArFベースのフォトレジストの「PAG」を混合したものです。
メタルレジスト
メタルレジストは無機コアの表面を有機化合物で修飾したフォトレジスト材料です。
様々な種類が知られていますが、無機化合物のナノパーティクルを有機酸で表面就職した材料が一般的です。
EUVフォトレジストメーカーとシェア
QYResearchの「EUVフォトレジストの世界市場調査レポート 2024年」によると、EUVフォトレジストの世界市場規模は2023年に2億2636万米ドル、2030年には11億0218万米ドルで、CAGRは25%と予測されています。
EUVフォトレジストの主な世界メーカーは以下のとおりですが、詳細なシェアは一部を除いて不明です。
- 東京応化:シェア30%(東京応化ホームページ)
- JSR(子会社にInpria)
- 信越化学
- 富士フイルム
- 住友化学:シェア10%(ニュースイッチ)
- Dongjin Semichem(東金セミケム)
- DuPont(デュポン)
EUVフォトレジストメーカーは、従来のi線からArFフォトレジストを製造してきた既存メーカーです。その中で、大学発のベンチャー企業であるInpriaは、EUVに特化したメタルレジストの研究開発を長年続けていました。2021年にJSRはImpriaを子会社化し、メタルレジストで最も進んでいる企業となりました。
フォトレジストシェアトップの東京応化も、「現在主力となっている化学増幅型レジストの改良を続けていくことが基本線だが、社内でも顧客ニーズに間に合うようにメタルレジストの開発も並行して進めている。」(電子デバイス産業新聞)とコメントしているように、メタルレジストを手掛けています。
まとめ
EUV露光技術は最先端で、EUVフォトレジストの技術も発展途上です。この記事では、4種のEUVフォトレジスト材料の化学構造の特徴を紹介しました。
- 従来のKrF、ArFベースのフォトレジスト
- ポリマー結合PAG型フォトレジスト
- 分子レジスト
- メタルレジスト
また、EUVフォトレジストを製造するメーカーと、そのシェアも紹介しました。
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関連書籍
「レジスト材料(高分子先端材料One Point 10)」は、半導体の発展を支え続けているレジストのイメージングの機構、評価法、分析法などを説明しています。またフォトレジスト開発の歴史を、反応機構など図を多用して平易に解説しています。レジスト関係の仕事をすることになった人は、一度目を通しておくと理解が深まります。
「レジスト材料・プロセスの使い方ノウハウとトラブル解決」は、フォトレジスト技術に関する幅広い分野をカバーした実用書です。具体的には、フォトレジスト材料、プロセス、評価・解析、処理装置、までを幅広く網羅し、パターン欠陥などの歩留まり改善やトラブル対策に必須な技術も含まれており、フォトレジスト材料を扱う技術者の一助となるように構成されています。
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フォトレジスト材料の評価方法は各社各様であるため標準的な方法というものがないため、それほど多くの著書はありません。大手のフォトレジストメーカーでは実際にシリコンウェハー上でリソグラフィー工程を実施する直接評価をしていますが、直接評価法では高額な露光装置や走査電子顕微鏡が必要です。これに対し、リソテックジャパン社では、長年にわたりシミュレーションを用いた感光性樹脂の評価方法を提案しています。この方法を間接評価法と呼びます。「フォトレジスト材料の評価」では、間接評価法の解説を中心に、リソグラフィーの基礎や、最新のフォトレジスト材料の評価方法が説明されています。レジスト開発の研究者におすすめです。
関連文献
- [1] Materialstoday, 2023, 67, 299-319 (https://doi.org/10.1016/j.mattod.2023.05.027)
- [2] J. Vac. Sci. Technol. B, 2001, 19, 2890 (https://doi.org/10.1116/1.1418413)
- [3] SPIE: Bellingham, WA, USA, 2011; Volume 7972, p. 79720A. (https://doi.org/10.1117/12.879394)