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クロスカップリング反応の歴史とクロスカップリング反応一覧

反応
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思い通りにふたつの化合物を結合させる反応は、新しい化合物を合成する際に非常に重要です。クロスカップリング反応が開発されるまでは、芳香族化合物に新しい結合をつくる反応は限られていて、合成できる化合物の種類に制限がありました。クロスカップリング反応が開発されたおかげで、化学者は思い通りの化合物を合成できるようになりました。この記事では、クロスカップリング反応の歴史とクロスカップリング反応一覧、そして反応機構を紹介します。

クロスカップリングとは?

同じ化合物をふたつ結合させる反応をホモカップリング、異なるふたつの化合物を結合させる反応をクロスカップリングと言います。

この記事では、遷移金属触媒を利用した、4タイプのクロスカップリング反応を紹介します。

  • 有機ハロゲン化合物(赤)と有機金属化合物(青)を結合させる反応(式1)
  • 有機ハロゲン化合物(赤)とアルケン(青)を結合させる反応(式2)
  • 有機ハロゲン化合物(赤)とアルキン(青)を結合させる反応(式3)
  • 有機ハロゲン化合物(赤)とアミン(青)を結合させる反応(式4)
クロスカップリング反応

ノーベル賞

2010年のノーベル化学賞鈴木章根岸英一Richard F. Heckの3氏が選ばれました。それぞれ、鈴木-宮浦カップリング(式1)、根岸カップリング(式2)、ヘックカップリング(式3)を開発したことが授賞理由です。クロスカップリング反応は学術的にも素晴らしく、さらに化学メーカーでもよく使用される実用的な反応であることが評価されました。

クロスカップリング反応

クロスカップリング反応が開発されるまでの歴史

アルカリ金属を利用したホモカップリング反応から始まり、遷移金属錯体触媒を利用したクロスカップリング反応が開発されるまでの歴史を紹介します。少し長いので、次の項目「クロスカップリング反応一覧」を早く知りたいという方はこちらからジャンプしてください。

アルカリ金属を利用したホモカップリング反応

クロスカップリング反応が開発されるまでの歴史について、反応性の高いアルカリ金属を利用したWurtz- Fittig反応から説明を始めます。1855年にWurtzはアルキルハロゲン化合物のホモカップリング反応を、1864年にFittigはアリールハロゲン化合物のホモカップリング反応を発見しました。

Wurtz- Fittig反応はアルカリ金属の非常に高い反応性を利用した反応で、金属を利用したカップリング反応の初期の例です。

1855Wurtz
A. Wurtz, Ann. Chim. Phys. 1855, 44, 275–312.
A. Wurtz, Ann. Chem. Pharm. 1855, 96, 364–375.
1862Fittig
R. Fittig, Justus Liebigs Ann. Chem. 1862, 121, 361–365.

銅を利用したホモカップリング反応

1869年にGlaserはアセチレン化合物のホモカップリング反応(Glaser反応)を発見しました。

アセチレン化合物を銅で活性化する手法は、のちの薗頭カップリング反応でも活用されています。

1869Glaser
C. Glaser, Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1869, 2, 422 – 424
C. Glaser, Ann. Chem. Pharm. 1870, 154, 137 – 171.

1901年にUllmannは有機ハロゲン化合物のホモカップリング反応(Ullmann反応)を発見しました。

Ullmann反応では有機ハロゲン化合物のハロゲンが結合する炭素で、ハロゲンに代わって新しい結合を形成するというクロスカップリング反応の原形が見られます。

1901Ullmann
F. Ullmann, J. Bielecki, Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1901, 34, 2174–2185.

クロムを利用したホモカップリング反応

1914年にBennettとTurnerは有機グリニャール化合物とクロム錯体のトランスメタル化を経由するホモカップリング反応を発見しました。

トランスメタル化はクロスカップリング反応の重要な構成要素になります。

1914Turner
G. M. Bennett, E. E. Turner, J. Chem. Soc. Trans. 1914, 105, 1057–1062.

触媒的クロスカップリング反応

これ以降に紹介する反応が、現在クロスカップリング反応と呼ばれる反応です。

遷移金属錯体の使用量を触媒量にした初めの反応は、第一次世界大戦の時期と重なっており不明確と言われています。一例として1943年のKharaschが発見したコバルト触媒の反応を示します。

Kharaschの反応は使用できる化合物に制限があり、副反応も多い特徴はありましたが、後に続くすべてのクロスカップリング反応のもとになる発見でした。

1941 Kharasch
M. S. Kharasch, C. F. Fuchs, J. Am. Chem. Soc. 1943, 65, 504-507.

ヘックカップリング

溝呂木-ヘックカップリングとも呼ばれます。1971年に溝呂木、1972年にHeckがアリールハロゲン化合物とアルケンとのクロスカップリング反応を発見しました。

パラジウム錯体がアリールハロゲン化合物に酸化的付加して始まる、パラジウム触媒のクロスカップリング反応の歴史がここから始まりました。

1971Mizoroki
T. Mizoroki, K. Mori, A. Ozaki, Bull. Chem. Soc. Jpn. 1971, 44, 581–581.
T. Mizoroki, K. Mori, A. Ozaki, Bull. Chem. Soc. Jpn. 1973, 46, 1505–1508.
1972Heck
R. F. Heck, J. P. Nolley, Jr., J. Org. Chem. 1972, 37, 2320–2322.
H. A. Dieck, R. F. Heck, J. Am. Chem. Soc. 1974, 96, 1133–1136.

コリウ-熊田カップリング

1972年にCorriuと熊田はそれぞれ独立して、アリールハロゲン化合物とグリニャール化合物とのクロスカップリング反応を発見しました。

これは1943年のKharaschの反応と同じ化合物の組み合わせです。触媒をコバルト錯体からニッケル錯体に変えることで副反応を大きく抑制することができました。

1972Corriu
R. J. P. Corriu, J. P. Masse, J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1972, 144a.
1972Kumada
K. Tamao, Y. Kiso, K. Sumitani, M. Kumada, J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 9268–9269.
K. Tamao, K. Sumitani, M. Kumada, J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 4374–4376.

薗頭カップリング

1975年に薗頭はアリールハロゲン化合物とアセチレン化合物とのクロスカップリング反応を発見しました。

薗頭カップリングではアセチレン化合物を活性化するために触媒量の銅を使用しています。

1975Sonogashira
K. Sonogashira, Y. Tohda, N. Hagihara, Tetrahedron Lett. 1975, 16, 4467–4470.

村橋カップリング

1975年に村橋はアリールハロゲン化合物とグリニャール化合物、有機リチウム化合物とのクロスカップリング反応を発見しました。この反応ではパラジウム触媒を使用しています。

アリールハロゲン化合物とグリニャール化合物とのクロスカップリング反応は、当時はニッケル触媒しか使用されていませんでした。パラジウム触媒にすることで反応に使用できる有機金属化合物がグリニャールのマグネシウムだけでなく、リチウムなど他の有機金属化合物にも広がりました。

1975Murahashi
M. Yamamura, I. Moritani, S.-I. Murahashi, J. Organomet. Chem. 1975, 91, C39–C42.
S. Murahashi, M. Yamamura, K. Yanagisawa, N. Mita, K. Kondo, J. Org. Chem. 1979, 44, 2408–2417.

根岸カップリング

1976-1977年に根岸はアリールハロゲン化合物と有機アルミ化合物、有機亜鉛化合物とのクロスカップリング反応を発見しました。

クロスカップリング反応が様々な有機金属化合物に適用できることがわかってきました。また、有機亜鉛化合物はアルカリ金属やアルカリ土類金属と比較して安定な有機金属化合物のため、反応に使用できる官能基の種類を増やすことができました。

1976Negishi
E. Negishi, S. Baba, J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1976, 596b–597b.
E. Negishi, A. O. King, N. Okukado, J. Org. Chem. 1977, 42, 1821–1823.
A. O. King, N. Okukado, E. Negishi, J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1977, 683–684.

スティレカップリング

右田-小杉-スティレカップリングとも呼ばれます。1977年に右田と小杉、1978年にStilleがアリールハロゲン化合物と有機スズ化合物とのクロスカップリング反応を発見しました。

Stilleはこの反応をさらに改良し、幅広い官能基適合性を示す汎用的な反応に仕上げました。有機スズ化合物は毒性がありますが、最も幅広い化合物に適用できるため現在でも有用です。

1977Migita
M. Kosugi, Y. Shimizu, T. Migita, Chem. Lett. 1977, 1423–1424.
1978Stille
D. Milstein, J. K. Stille, J. Am. Chem. Soc. 1978, 100, 3636–3638.
J. K. Stille, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1986, 25, 508–524.

鈴木カップリング

鈴木-宮浦カップリングとも呼ばれます。1979年に鈴木と宮浦がアリールハロゲン化合物と有機ホウ素化合物とのクロスカップリング反応を発見しました。

鈴木カップリングは以下の3つの理由からクロスカップリング反応の中で最も使いやすい反応です。3つの特徴の中でも、1と2は工場で製品を製造する際に重要な条件のため、鈴木カップリングは化学メーカーでも広く使われます。

  1. 有機ホウ素化合物は空気中で安定に取り扱うことができる
  2. 有機ホウ素化合物は毒性が低い
  3. 有機スズ化合物の次に幅広い化合物に適用できる
1979Suzuki
N. Miyaura, A. Suzuki, J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1979, 866–867.

檜山カップリング

1982年に檜山はアリールハロゲン化合物と有機ケイ素化合物とのクロスカップリング反応を発見しました。

有機ケイ素化合物はこれまで発見されてきたクロスカップリング反応の中で最も安定で反応性の低い有機金属化合物です。フッ素化合物で有機ケイ素化合物を活性化させることで、クロスカップリング反応に利用できるようになりました。

1982Hiyama
Y. Hatanaka, T. Hiyama, J. Org. Chem. 1988, 53, 918–920.

バックワルド-ハートウィグカップリング

バックワルド-ハートウィグアミノ化反応とも呼ばれます。1995年にBuchwaldとHartwigはそれぞれ独立して、アリールハロゲン化合物とアミン化合物とのクロスカップリング反応を発見しました。

クロスカップリング反応でC-N結合をつくることができるようになり、化学者はさらに自由に合成できる化合物が増えました。

1995Buckwald
A. S. Guram, R. A. Rennels, S. L. Buchwald, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1995, 34, 1348–1350.
1995Hartwig
J. Louie, J. F. Hartwig, Tetrahedron Lett. 1995, 36, 3609–3612.

クロスカップリング反応一覧

上の「クロスカップリング反応が開発されるまでの歴史」の項目で説明したクロスカップリング反応を一覧にまとめました。

クロスカップリング反応一覧
クロスカップリング反応

クロスカップリング反応の反応機構

鈴木カップリング型の反応機構

鈴木カップリング反応型の反応機構
  1. パラジウム錯体(1)がアリールハロゲン化合物(2)に酸化的付加して中間体(3)が生成します。
  2. 中間体(3)と有機金属化合物(4)がトランスメタル化して金属塩(5)と中間体(6)が生成します。
  3. 中間体(6)から生成物(7)が還元的脱離し、パラジウム錯体(1)が再生します。

ヘックカップリングの反応機構

ヘックカップリング反応の反応機構
  1. パラジウム錯体(1)がアリールハロゲン化合物(2)に酸化的付加して中間体(3)が生成します。
  2. 中間体(3)にアルケン(4)が挿入して中間体(5)が生成します。
  3. 中間体(5)でβ水素脱離が起きて中間体(6)が生成します。
  4. 中間体(6)と塩基(7)が反応して塩(8)と生成物(9)が得られ、パラジウム錯体(1)が再生します。

薗頭カップリングの反応機構

薗頭カップリング反応の反応機構
  1. パラジウム錯体(1)がアリールハロゲン化合物(2)に酸化的付加して中間体(3)が生成します。
  2. アルキン(4)、塩基(5)、銅塩(6)から、銅アセチリド(7)、塩(8)が生成します。
  3. 中間体(3)と銅アセチリド(7)がトランスメタル化して、中間体(9)が得られ、銅塩(6)が再生します。
  4. 中間体(9)から生成物(10)が還元的脱離し、パラジウム錯体(1)が再生します。

バックワルド-ハートウィグカップリングの反応機構

バックワルド-ハートウィグカップリング反応の反応機構
  1. パラジウム錯体(1)がアリールハロゲン化合物(2)に酸化的付加して中間体(3)が生成します。
  2. 中間体(3)にアミン(4)が配位して中間体(5)が生成します。
  3. 中間体(5)と塩基(6)から、塩(7)と中間体(8)が生成します。
  4. 中間体(8)から生成物(9)が還元的脱離し、パラジウム錯体(1)が再生します。

まとめ

この記事では、クロスカップリング反応の歴史とクロスカップリング反応一覧、そしてクロスカップリング反応の反応機構を説明しました。

クロスカップリング反応は、触媒、配位子、塩基、溶媒、反応条件を変えると反応収率など結果が変わる面白く奥深い反応です。ここでは紹介しきれないのですが、次の「さらに知るには」の項目に参考となる情報を書きました。興味あればご覧ください。

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