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接触法による硫酸の製造方法|高校化学の基礎から大学レベルの触媒機構まで

接触法(アイキャッチ)3 情報

高校化学で絶対に覚えておきたい硫酸の工業的製法、それが「接触法」です。「乾式法」とも呼ばれるこの方法は、硫黄を原料にして濃硫酸を大量につくる仕組みです。

この記事の前半では高校化学の定期テスト・受験対策として「接触法」の基本を3ステップで解説し、後半では大学・研究レベルの専門的な触媒機構(マーズ・ファン・クレーベレン機構や溶融塩相)や、実際のプラント工程まで深く掘り下げます。

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【高校化学編】 接触法を3ステップで説明

Step 1:硫黄を燃やして二酸化硫黄をつくる

まずは原料の硫黄を燃焼させます。固体の硫黄(S)を燃焼させて空気中での酸素(O2)と反応させ、二酸化硫黄(SO2)を発生させます。

S + O2 → SO2

むかしは黄鉄鉱(FeS2)を燃やして二酸化硫黄(SO2)を作っていましたが、現在は純粋な硫黄を燃やすのが主流です。

4FeS2 + 11O2 → 2Fe2O3 + 8SO2

Step 2:触媒を使って二酸化硫黄を三酸化硫黄にする

できた二酸化硫黄(SO2)にさらに酸素(O2)を反応させ、三酸化硫黄(SO3)に酸化させます。このとき、反応を進めやすくするために酸化バナジウム(V)(V2O5)という触媒を使います。

2SO2 + O2 ⇄ 2SO3

気体(ガス)を酸化バナジウム(V)の固体触媒の表面に接触させて反応させるため、「接触法」という名前がつきました。

Step 2では酸化バナジウム(V)触媒を使用することが最大のポイントです。

Step 3:三酸化硫黄を濃硫酸に吸収させて硫酸を完成させる

できた三酸化硫黄(SO3)を水(H2O)に直接溶かしたいところですが、そうすると激しく発熱して危険です。

そのため、一度濃硫酸(H2SO4)に吸収させて発煙硫酸(はつえんりゅうさん)という状態にしてから、水(または希硫酸)を反応させて安全に目的の濃硫酸(H2SO4)を得ます。

SO3 + H2O → H2SO4

発煙硫酸とは、濃硫酸(H2SO4)に三酸化硫黄(SO3)を吸収させたものです。発煙硫酸と水を反応させると、発煙硫酸中の三酸化硫黄(SO3)と水(H2O)が反応します。

全体をまとめた化学式

Step 1からStep 3をすべて合体させると、次のようなシンプルな化学式になります。

2S + 3O2 + 2H2O → 2H2SO4

高校化学の基礎はリードαでバッチリ!

【高校化学・発展】 平衡と触媒の疑問を深掘り解説

テストや模試で差がつく「なぜその製造条件なのか」「なぜその操作が必要なのか」という疑問を深掘り解説します。

三酸化硫黄の生成効率を上げる「温度・圧力・酸素」

Step 2は可逆反応です。

2SO2 + O2 ⇄ 2SO3

この反応は、①発熱反応であり、また、②気体分子のモル数が3モルから2モルに減る反応です。ルシャトリエの原理より、①低温にするほど、また、②高圧にするほど、この反応は右に進みやすくなります。

  • 温度の最適化
    正反応が発熱反応であるため、温度を下げると平衡は右(SO3生成側)に傾きます。
    しかし温度を低くしすぎると、今度は反応速度が極端に遅くなってしまい実用的ではありません。収率を高くするために低温にしたいですが、実用的な反応速度にするためにはある程度の高温にしなければならない、というジレンマが生じます。このバランスをとって、工業的には約400〜450℃という中程度の温度で反応させています。
  • 圧力の最適化
    正反応は気体の分子数が減るため、圧力を上げると平衡は右(SO3生成側)に傾きます。
    つまり高圧にすれば収率は上がりますが、高圧に耐える頑丈なプラント(設備)やコンプレッサーの建設・維持コストが余分にかかります。酸化バナジウム触媒の性能が非常に優れており、常圧に近い状態でも約95〜98%の高い反応効率が得られるため、工業的には、ほぼ常圧(またはわずかな加圧)で反応させています。
  • 酸素の過剰使用
    ルシャトリエの原理の応用として、反応物である酸素の濃度を濃くする(乾燥した空気を過剰に送り込む)ことで、平衡を右へ強制的にシフトさせ、価値の高い二酸化硫黄(SO2)を無駄なく完全に反応させています。

三酸化硫黄水に直接溶かしてはいけない理由

三酸化硫黄を水に直接溶かすと、激しい発熱によって水が一瞬で沸騰し、硫酸の霧(エアロゾル)が周囲に激しく飛び散って非常に危険です。

また、一度この霧状になってしまうと、水に触れてもなかなか吸収されずそのまま拡散して機材を腐食させますし、人体にも非常に有害です。

実際の工業的な硫酸の製造(接触法)では、この危険を避けるために以下のステップで進めます。

  • 濃硫酸に溶かす:三酸化硫黄を水に直接溶かすのではなく、98%濃度の濃硫酸に吸収させて、発煙硫酸にする。
  • 水または希硫酸で薄める:この発煙硫酸を水または希硫酸で希釈することで、目的の濃度の濃硫酸を安全かつ効率的に製造します。

接触法に酸化バナジウム(V)触媒は必要?

工業的に硫酸を製造するためには、触媒は必要です。

二酸化硫黄の酸化反応 2SO2 + O2 ⇄ 2SO3 は、①発熱反応であり、また、②気体分子のモル数が3モルから2モルに減る反応です。

  • 触媒を使わない場合:十分な反応速度を得るためには、約1000℃以上の高温が必要になります。触媒を使わない場合は反応の活性化エネルギーが高く、たくさんエネルギーを加える必要があるということです。しかし、この温度域では平衡が左に著しく偏るため、三酸化硫黄(SO3)がほとんど生成されません。
  • 触媒を使う場合:触媒によって活性化エネルギーを下げることで、400℃〜600℃という比較的低い温度域で反応させることができます。この温度域では平衡が右に偏っており、三酸化硫黄(SO3)を得ることができます。

つまり、触媒なしでは三酸化硫黄(SO3)を十分に得ることができないため、触媒は必要です。

エネルギーダイアグラム

触媒のメカニズムとエネルギー図

エネルギー図の見方

  • 赤い山(触媒なし):活性化エネルギーが高く、山を越えるためには大きなエネルギーが必要。
  • 青い山(触媒あり):活性化エネルギーが低くなったため、山を越えるためのエネルギーが少なくて済む。そのため小さなエネルギー(低い温度)で反応させることができる。

触媒によって変わるもの

  • 活性化エネルギー
  • 反応速度

触媒によって変わらないもの

  • 反応熱(スタート地点の反応物とゴール地点の生成物との間のエネルギー差)
  • 化学平衡のバランス(正反応と逆反応の両方を同じ倍率で加速させるため)
エネルギーダイアグラム

高校化学の基礎はリードαでバッチリ!

【大学化学編】 五酸化バナジウム触媒の反応機構

ここから先は、大学の無機化学や触媒化学レベルの発展内容です。より高度な反応機構を見ていきましょう。

マーズ・ファン・クレーベレン機構

五酸化バナジウム(V2O5)による二酸化硫黄の酸化反応は、マーズ・ファン・クレーベレン機構(Mars-van Krevelen Mechanism)と呼ばれる代表的な不均一系レドックス触媒機構で説明されます。

稼働温度(約400〜450℃)において、触媒表面のバナジウムは最高酸化数のV(+5)と、還元されたV(+4)の間を可逆的に往復します。具体的な素反応を説明します。

Step 1:SO2の酸化と触媒の還元

SO2 が触媒表面のバナジウムオキソ種 VV=O の格子酸素を引き抜き、SO3 として脱離します。このときバナジウムはV(+5)からV(+4)へ還元されます。

Step 2:触媒の再酸化

還元されたVIVサイトに対し、気相中の O2 が格子酸素を補充し、元の VV=O 状態へと再生されます。

反応に関与する酸素が触媒の結晶格子を構成していた酸素であること、そして表面が酸化・レドックス状態の非平衡定常状態にあることがこの機構の大きな特徴です。

V2O5触媒サイクル
V2O5の触媒サイクル。図中の □ は酸素欠陥、あるいは還元された配位サイトを表す。

この2つのステップを合わせると、全体として以下の総括反応が得られます。

2SO2 + O2 → 2SO3

V2O5結晶構造
V2O5結晶構造(出典:Wikipedia)

【工業編】 接触法を実プラントで実施する場合のポイント

酸化バナジウム(V)以外にも使える触媒はある?

酸化バナジウム(V)以外の代替触媒の選択肢としては、白金触媒(Pt)と酸化鉄触媒(Fe2O3)の2つの選択肢があります。

それぞれメリットはありますがデメリットの方が大きく、世界中のプラントでは酸化バナジウム(V)触媒が利用されています。

触媒メリットデメリット
白金触媒・酸化バナジウムよりも低温(約350℃〜)で高い活性を示す。・極めて高価。
・原料ガス中のヒ素(As)や塵による被毒(劣化)が非常に激しい。
酸化鉄触媒

・安価で手に入りやすい。
・被毒への耐性が比較的強い。
・活性を示す温度域が約600℃以上と高い。
・そのため、平衡転化率(収率)が低くなり、プロセス全体の効率が落ちる。

酸化バナジウム(V)触媒は、活性助剤としてカリウム塩などを加えたシリカ担持触媒として使用されています。

実際の工場での接触法による硫酸の製造プロセス

接触法プラント模式図
接触法プラント模式図(出典:Web版 化学プロセス集成 硫酸)

原料の硫黄は、石油精製プロセスにおける脱硫操作で回収された硫黄です。硫黄は製油所からタンカーやタンクローリーで運ばれ、130℃の溶融状態でタンク貯蔵されます。

溶融硫黄は燃焼炉で乾燥空気とともに燃やされます。

S + O2 → SO2

燃焼ガスは11%のSO2と10%のO2となるよう調節されます。燃焼ガス温度が1150℃となるため、この熱を廃熱ボイラーで熱回収します。

触媒反応器(転化器、コンバーター)において、燃焼ガス中のO2でSO2を酸化してSO3にします。

触媒層を5段に分け、段毎に最適な温度(420℃から600℃)に調整し、段階的に酸酸化硫黄に反応させます。最終的に99.8%の転化率まで持っていきます。

触媒はシリカ坦体にV2O5を坦持した担持型バナジウム触媒。雛菊型と呼ばれる形状で圧力損失を低減しています。

2SO2 + O2 → 2SO3

触媒3段目から92~95%転化のガスを抜き出し、第1吸収塔でSO3を濃硫酸に吸収させます。未反応SO2は触媒層に戻され、第4段と第5段でさらにSO3へと酸化されて最終触媒層出口から第2吸収塔に送入されます。

各吸収塔ではSO3が98%硫酸に吸収され、99%硫酸となります。これに希釈水を加えて98%硫酸の製品として工程より取り出します。

SO3 + H2O → H2SO4

第2吸収塔からの排ガス(数百ppmのSOx + 94%のN2 + 6%のO2)は排ガス処理設備で処理されます。

参考サイト

  • Web版 化学プロセス集成 硫酸(https://www0.scej.org/education/sacid.html)
  • NC東京ベイ株式会社 硫酸事業(https://www.nctb.co.jp/service.html)
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