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ハーバー・ボッシュ法|ルシャトリエの原理、触媒機構、工業製法、最新触媒を解説

ハーバー・ボッシュ法(アイキャッチ) 情報

空気中の窒素からアンモニアをつくるハーバー・ボッシュ法(Haber-Bosch process)は、人類史上最高の発明のひとつです。今回は、この超重要化学プロセス、ハーバー・ボッシュ法を徹底解説します。

高校化学で学ぶ化学平衡の基本(ルシャトリエの原理)から、大学化学で扱う触媒メカニズム、そして実際の工業プロセスまで、段階を追って見ていきましょう。

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ハーバー・ボッシュ法とは?

ハーバー・ボッシュ法とは、窒素 (N2) と水素 (H2) から、アンモニア (NH3) を合成する工業的製法です。四酸化三鉄(Fe3O4)を主成分とする鉄系触媒を使用して反応させます。

N2 + 3H2 ⇄ 2NH3

20世紀初頭、化学者のフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュによって開発され、のちにふたりはノーベル化学賞を受賞しました。

ノーベル賞メダル

ハーバー・ボッシュ法でつくられるもの

ハーバー・ボッシュ法で製造されたアンモニアは、さらに加工されて以下のような多くの製品の原料になります。

  • 窒素肥料:硫酸アンモニウム(硫安)、尿素、硝酸アンモニウムなど。世界のアンモニア生産量の約8割が肥料の製造に使われています。ハーバー・ボッシュ法がなければ、農業の生産性が落ちて現在の地球の人口は維持できません。
  • 化学製品:硝酸(オストワルト法を通じて火薬、プラスチック、染料などの原料に利用)、アミノ酸・合成繊維(ナイロンやアクリルなどの原料)

ハーバー・ボッシュ法の原料

原料の窒素は、窒素精製装置によって空気から生成させます。

原料の水素は、天然ガス(メタン、CH4)を水蒸気改質することで得られます。

  • 改質反応:CH4 + H2O → CO + 3H2
  • シフト反応:CO + H2O → CO2 + H2

ハーバー・ボッシュ法は、安価で大量にメタンを得ることができる中東で盛んに実施されています。

ハーバー・ボッシュ法の反応温度・圧力|ルシャトリエの原理

ハーバー・ボッシュ法は発熱反応であり、かつ体積が減少する反応(反応物4 molに対し生成物2 mol)です。

N2 + 3H2 ⇄ 2NH3

ここでルシャトリエの原理が重要になります。

反応温度

正反応(右に進む反応)が発熱反応であるため、ルシャトリエの原理によれば低温にするほど平衡が右向きに偏り、アンモニア収率が上がります。

しかし、温度を下げすぎると分子の運動エネルギーが低下し、反応速度が極端に遅くなってしまいます。

たとえアンモニアの収率が高かったとしても、反応が平衡状態に達するまでに時間がかかりすぎる条件は工業的に採用できません。反応器内で触媒と接触するごく短い時間内に、ガスが平衡状態に達する必要があります。

収率を重視するなら低温、反応速度を重視するなら高温というジレンマが発生しますが、実用的には収率と反応速度のバランスをとって400〜450℃という中程度の温度で反応させます。

圧力

正反応が期待のモル数が減る反応のため、ルシャトリエの原理によれば高圧にするほど圧力を下げようとして平衡が右向きに偏り、アンモニア収率が上がります。

高温にするほどアンモニアの収率は上がりますが、設備の耐圧性やポンプの能力を上げると設備投資や運用コストが高くなるため、実用的にはバランスをとって200気圧程度で反応させます。

ハーバー・ボッシュ法の温度と圧力の変化がアンモニアの収率に及ぼす影響
温度と圧力の変化がアンモニアの収率に及ぼす影響(出典:EduRevをもとに著者作成)

グラフから、ルシャトリエの原理のとおり、

  • 温度が下がるほどアンモニアの収率が上がる
  • 圧力が上昇するほどアンモニアの収率が上がる

ことがわかります。

ただしさきほど説明した通り、反応温度と圧力はバランスをとって決められます。

  • 収率を上げるためには低温がよい一方で、反応速度を上げるためには高温がよい
    →バランスをとって反応温度は400〜450℃
  • 収率を上げるためには高圧がよい一方で、設備コストを下げるためには高圧すぎないほうが良い
    →バランスをとって圧力は200気圧

バーバー・ボッシュ法の触媒

ここからは少し踏み込んで、分子レベルで何が起きているのかを見ていきましょう。ハーバー・ボッシュ法で使われる触媒は、主に四酸化三鉄(Fe3O4)をベースにした触媒です。

四酸化三鉄にはさらに、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、水酸化カリウム、酸化マグネシウム、モリブデンなどの促進剤(プロモーター)が添加されます。

バーバー・ボッシュ法に触媒が必要な理由

窒素分子 (N2) は極めて強い窒素-窒素三重結合(窒素ー窒素三重結合)を持っており、その結合解離エネルギーは945kJ/molと非常に巨大です。そのため、このままでは窒素-窒素三重結合を乖離させるために莫大な活性化エネルギーが必要で、つまり激しい高温が必要となります。

しかしハーバー・ボッシュ法は発熱反応のため、高温にするほどアンモニアが得られる正反応の収率が下がってしまいます。

触媒を利用することで、活性化エネルギーを下げ、激しい高温でなくても反応を進行させることができるようになります。

エネルギーダイアグラム

バーバー・ボッシュ法の触媒メカニズム

バーバー・ボッシュ法は以下の9ステップの素反応で進行します。まず、窒素分子と水素分子が触媒表面に吸着し、それぞれ分子内の結合が乖離して窒素原子や水素原子が触媒表面に吸着した状態となります。この窒素原子と水素原子が触媒表面に吸着したまま3段階でひとつずつ結合してアンモニアが生成します。最後に吸着したアンモニアが触媒表面から脱離します。

実験結果からは、Step 2が律速段階であることが示唆されています。この段階で、反応中で最も強い結合である窒素の三重結合が切断されるためです。

Step素反応触媒メカニズム図中の対応番号
1N₂(気体) → N₂(吸着)1→2
2N₂(吸着) → 2N(吸着)2→3
3H₂(気体) → H₂(吸着)3→4
4H₂(吸着) → 2H(吸着)4→5→6
5N(吸着) + H(吸着) → NH(吸着)6→7
6NH(吸着) + H(吸着) → NH2(吸着)7→8
7NH2(吸着) + H(吸着) → NH3(吸着)8→9
8NH3(吸着) → NH₃(気体)9→10
バーバー・ボッシュ法の触媒メカニズム
触媒メカニズム(出典:Wikipedia)

促進剤(プロモーター)の役割

促進剤(プロモーター)として転嫁される酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、水酸化カリウム、酸化マグネシウム、モリブデンなどは、四酸化三鉄(Fe3O4)表面の電子状態を変化させ、窒素分子(N2)への電子移動を促進して三重結合を弱める働きをします。これにより活性化エネルギーが低下し、反応を促進させます。

触媒毒

触媒毒とは触媒活性を低下させる物質です。合成ガス中の不純物が触媒毒になります。

硫黄化合物、リン化合物、ヒ素化合物、塩素化合物は永久触媒毒です。(永久触媒毒:触媒を不可逆的に失活させる)

水、一酸化炭素、二酸化炭素、酸素などの酸素化合物は一時触媒毒です。(一時触媒毒:触媒を一時的に失活させる)

ハーバー・ボッシュ法に供給される窒素と水素ガスは、触媒毒として作用する硫化水素や有機硫黄化合物などの不純物を取り除く必要があります。

ハーバー・ボッシュ法の工業プロセス

窒素と水素がコンプレッサーに送られます。窒素と水素の混合比は、窒素1モルに対し水素3モルです。

コンプレッサーで窒素と水素は200気圧まで加圧されます。

加圧された窒素と水素は反応器に送られ、400〜450℃に加熱された後で触媒層を通過します。触媒層を通過する際に一部の窒素と水素が反応してアンモニアガスとなります。ただしこの時反応するのは15%程度で、アンモニアガスとともに窒素と水素も反応器から出てきます。

反応器から出たアンモニアガスと窒素と水素は冷却され、沸点の高いアンモニアだけが液化されて回収されます。

窒素と水素はリサイクルされて再び反応器へと送られます。窒素と水素は何度もリサイクルされて最終的に98%程度がアンモニアへと変換されます。

ハーバー・ボッシュ法の工業プロセス
ハーバー・ボッシュ法の工業プロセス(出典:Research Gateをもとに著者作成)

ハーバー・ボッシュ法の新触媒

ハーバー・ボッシュ法の課題は、高温・高圧で実施する反応に大量のエネルギーを必要とすることです。ハーバー・ボッシュ法は世界のエネルギーの2~3%を消費しています。そのため反応条件を低温・低圧にしてエネルギー消費量を減らすための新触媒の開発が求められています。

エレクトライド触媒

東京工業大学(現・東京科学大学)の細野秀雄教授らが開発した技術で、大学発スタートアップのつばめBHBなどによって社会実装が進んでいます。

電子がマイナスイオンとして振る舞うエレクトライド(電子化物)を世界で初めて合成し、このエレクトライドを触媒として用いることで、低温・低圧条件下で高効率のアンモニア合成が可能であることを示しました。電子そのものが陰イオンとして振る舞う特殊な化合物(エレクトライド)を担体に使用します。

エレクトライド触媒は窒素分子へ強力に電子を引き渡せるため、300〜400℃、30〜50気圧という、従来より低温・低圧でアンモニアを合成できます。

つばめBHBでは2019年にパイロットプラントを建設し、実証試験を続けています。

ヒドリド鉄触媒

東京科学大学の原亨和教授らは、従来のどの触媒よりも低温・低圧でアンモニアを製造し、高いエネルギーリターンを実現する新触媒「ヒドリド鉄触媒」を開発しました。

金属鉄粒子の上にアルミニウムヒドリドを載せたヒドリド鉄触媒は、アルミニウムヒドリドが鉄粒子に強く電子を与えることで、低温・低圧条件下で高効率のアンモニア合成が可能となります。

モリブデン金属クラスター触媒

理化学研究所が発表した技術です。ゼオライトの隙間に、モリブデン原子6個からなるクラスターを閉じ込めたモリブデン金属クラスター触媒は、複数のモリブデン原子が協同的に働くことにより安定な窒素分子中の三重結合を効率的に切断でき、温和な条件で持続的にアンモニアを合成できます。

200℃・50気圧というマイルドな条件で、21日(520時間)以上も活性を失わずに安定して合成することに成功しました。

まとめ

今回は、人類の食糧生産と発展を支える超重要化学プロセス「ハーバー・ボッシュ法」について詳しく解説しました。

  • 基礎と原理: 窒素と水素からアンモニアを合成する反応であり、ルシャトリエの原理に基づいて「400〜450℃・200気圧」という条件が選ばれています。
  • 触媒の役割: 鉄系触媒やプロモーター(促進剤)が頑固な窒素の三重結合を弱め、活性化エネルギーを下げることで効率的な反応を実現しています。
  • 課題と次世代技術: 大量のエネルギー消費という課題に対し、エレクトライド触媒やヒドリド鉄触媒など、日本発の低温・低圧で駆動する革新的な新触媒の開発が進んでいます。
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