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化学工場での静電気火災の事故事例と防止方法

静電気火災 化学メーカーの仕事内容
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静電気は身近な現象ですが、危険物を取り扱う化学工場では、静電気は火災の原因になる危険な現象です。消防白書によると、化学工場の火災の原因で最も多いのは静電気です。この記事では、なぜ静電気が発生するのか、どんな時に事故が起こるのか、静電気火災を防ぐ方法について説明します。

静電気が発生する仕組み

物体の中にはプラスの電荷とマイナスの電荷があります。通常はプラスとマイナスの量が等しく、電気的に中性な状態です。

電気的に中性な2種類の異なる物体Aと物体Bがあるとします。これらを接触させると、片方の物体から相対的にマイナスに帯電しやすい物体へ電子が移動します。この状態から物体Aと物体Bを分離させると、物体Aはプラスに帯電し物体Bはマイナスに帯電し、静電気を帯びた状態が発生します。

このように、異なるふたつの物質を接触・分離させるだけで、必ず静電気が発生します

静電気が発生する仕組み

静電気が発生する状況・静電気の種類

静電気が発生する状況はほかにもあり、摩擦、流動、スプレー放出、剥離、衝突、移し替え、沈殿、浮上、破砕などあらゆる状況で発生します。

静電気が発生する状況
(出典:化学プラントの静電気危険性の評価と対策

見落としがちな静電気の発生状況として静電誘導があります。

静電誘導とは、電気を帯びている物体を導体に近づけると、導体の近い方に帯電体の電荷と異符号の電荷が、遠い方には同符号の電荷が生じる現象です。アースされていない導体では静電誘導による静電気が発生する可能性があります。

静電誘導

帯電列で静電気の発生のしやすさがわかる

2種類の物体間で摩擦などの運動が起こると静電気が発生するのですが、静電気の起きやすさは2種類の物体の組み合わせによって変化します。物体についてプラスまたはマイナスの電荷を帯びやすい傾向を経験的に並べた表を帯電列と言います。帯電列の位置が近い組み合わせでは静電気が起きにくく、位置が離れている組み合わせほど静電気が起きやすいです。

例えば、人毛とテフロンは帯電列で離れた位置にあるため静電気が発生しやすい組み合わせで、静電気が発生した場合は人毛がプラス、テフロンがマイナスに帯電します。

帯電列
(出典:静電気安全指針2007および各種データから著者作成

静電気で火災が起きるメカニズム

物が燃えるためには燃焼の三要素と呼ばれる、着火源、可燃物、支燃物の3つが必要です。化学工場の静電気火災の場合は、着火源は静電気火花可燃物は溶剤などの可燃性蒸気や粉じん支燃物は空気または酸素です。

燃焼の三要素

有機溶剤の最小着火エネルギーは種類によって差はありますが、およそ0.3~0.8mJです。以下の表中、MIEが最小着火エネルギー、LELaとUELaは交流スパークを用いたときの爆発下限界濃度と爆発上限界濃度、LELeとUELeは静電スパーク(128 mJ)を用いた爆発下限界濃度と爆発上限界濃度です。

有機溶剤の最小着火エネルギー
(出典:有機溶剤蒸気の着火エネルギーおよび爆発範囲測定

人体の静電容量を200pF、有機溶媒の最小着火エネルギーを0.3mJとすると、以下の式より静電気の帯電電位は1.7kVとなります。この電位は日常生活で経験する静電気と同レベルです。

U [J] = 0.5 × C [F] × V2 [V2]

このように、静電気火花のエネルギーが有機溶剤の最小着火エネルギーと同等以上なため、有機溶剤の蒸気がある環境で静電気火花が発生すると火災になることがわかります。

帯電電位(kV)電撃の強さ
1全く感じない
2指の外側に感じるが痛まない
3針に刺された感じを受け、ちくりと痛む
4針で深くさされた感じを受け、指がかすかに痛む
5手のひらから前腕まで痛む
(出典:静電気安全指針2007

危険物施設の着火源第1位は静電気火花

消防白書(2019年~2023年)によると、静電気火花は危険物施設の着火源として安定して高い割合を占めています。

 第1位第2位第3位第4位
2019年高温表面熱
(18.0%)
静電気火花
(16.6%)
過熱着火
(10.2%)
裸火
(8.3%)
2020年静電気火花
(18.3%)
高温表面熱
(11.9%)
電気火花
(11.5%)
過熱着火
(11.5%)
2021年静電気火花
(16.6%)
過熱着火
(15.5%)
高温表面熱
(14.4%)
裸火
(9.1%)
2022年静電気火花
(22.3%)
過熱着火
(11.6%)
高温表面熱
(10.3%)
電気火花
(10.3%)
2023年高温表面熱
(18.6%)
静電気火花
(16.8%)
過熱着火
(10.6%)
電気火花
(8.0%)
危険物取扱施設での火災発生原因(出典:消防白書2019年~2023年より著者作成)

静電気事故事例

静電気はあらゆる作業で発生します。静電気着火・爆発する典型的な事例を紹介します。化学工場ではよく行う作業ですが、これらはすべて静電気が発生する可能性のある作業で、燃焼の三要素が組み合わさった状態になっています。

  • 有機溶媒の入っている反応機に、マンホールから原料を仕込む
  • 空の反応機に、マンホールから有機溶媒を仕込む
  • 有機溶媒の入っている反応機に治具を入れてサンプリングする
  • 遠心分離機を回転させる
  • 反応器からガスが噴出する
  • 反応機やタンク内部の有機溶媒によるかけ洗い洗浄、スプレー洗浄、こすり洗いをする
  • 反応機やタンクから有機溶媒を抜き取る
  • 濾過後ケーキを掻き出す
  • 液体製品をドラム缶へ充填する
  • 粉体製品を袋へ充填する
  • 帯電した作業員が可燃性蒸気や粉じんがあるところで放電する(人は歩くだけでも靴と床の摩擦により帯電します)
  • 帯電した導体にアースをつけて放電する(アースの付け忘れに気が付いてあわててアースをつけてしまった)
マンホールからの仕込み

静電気火災の防止方法

静電気火災に限ったことではありませんが、一般的に火災を防止するには、燃焼の三要素(着火源、可燃物、支燃物)のうち少なくともひとつを取り除きます。完全に取り除けない場合は、複数の要素を低減させて着火する確率を許容レベルにまで下げます。

要素火災発生条件安全対策
着火源・放電のエネルギーが可燃物の最小着火エネルギー以上アースを取るなど、静電気対策をする(詳細は下の項目で説明)
・帯電を起こさないように操作速度を下げる(1m/s以下が目安)
可燃物・取り扱い温度が引火点以上
・爆発下限界と上限界の範囲内の濃度
・取り扱い温度を引火点以下にする
・取り扱い温度より高い引火点の溶媒に置き換える
・局所排気で濃度を爆発下限界以下にする
・有機溶媒を水に置き換える
支燃物・酸素濃度が爆発限界酸素の濃度(有機溶剤は8~12vol%)以上・不活性ガス(窒素など)で酸素濃度を8vol%以下にする

設備の静電気対策

アースを取る

静電気対策の基本は、帯電する可能性のある導体のすべてをアースにつなぐことです。導体をアースにつなぐことで、摩擦などによって発生した静電気を逃がすことができます。静電誘導に対しても、アースにつなぐことで電荷のバランスが保たれます。アースされている導体にアースをつなぐことも対策として有効です。

絶縁体に導体性付与+アースを取る

絶縁体をアースにつないでも効果がないため、絶縁体に導体性を付与してからアースにつなぎます。絶縁体に導電性を付与する方法としては、例えば以下の方法があります。

  • 絶縁体の物体を導体で置き換える
  • 絶縁体の表面に帯電防止剤を添加する
  • 絶縁体の表面に導電性塗料を塗る
  • 絶縁体の表面を金属めっきする
  • 絶縁体の内部に金属物質やカーボンブラックを混入する

帯電防止剤

導電性塗料

アースは導体には有効ですが絶縁体には効果がありません。絶縁体の静電気対策としては、次の除電や加湿が有効です。

イオン放出による除電

静電気に帯電した物体に帯電電荷と反対の電荷のイオンを供給すると、イオンによって帯電電荷を中和できます。イオン放出による除電は絶縁体の帯電に対して有効な対策です。

多湿化・加湿

環境を多湿化・加湿すると、絶縁体を帯電防止する効果があります。環境の湿度が高いと物体の表面に水分子の導電層が形成されるため、帯電が抑制されます。具体的には、工場内の湿度を65%以上にします。

人の静電気対策

アースを取る

設備と同様に、人もアースにつなぐことが静電気対策の基本です。人体の約60%は水分のため、人体も導体です。

歩いたり物に触れると、静電気が発生して人体は帯電します。人体に帯電させないようにするため、人が身につけるものや接触するものに導電性を持たせ、アースにつないで電荷を拡散させます。静電気対策で着用するべきアイテムはこちらです。

人体の静電気対策
  • 静電気帯電防止作業服
  • 静電気帯電防止手袋
  • 静電安全靴
  • 導電性マット(+導電性マット用アース線
  • 静電気除去リストバンド
  • リストストラップは、直接皮膚に接触させて使用します。(服の上から巻いても効果がありません)
  • 静電靴は定期的に静電靴チェッカーで点検します。(汚れなどで導電性が下がることがあるため)
  • 静電靴の規格は、国内規格JIS T 8103、国際規格ISO 20345です。
  • 静電床を清掃してきれいな状態にします。(床が粉体や油などで汚れていると床の電気抵抗が大きくなり静電気が逃げにくくなる)

イオン放出による除電

静電気対策の基本は、導体へのアース、絶縁体の導電化+アースです。そして導電化できない絶縁体の静電気対策は、除電機(イオナイザー)が効果的です。

例えば少量のサンプルを秤量するときに静電気が発生すると、サンプルが飛び散ったり重量が正確に秤量できなかったりすることがあります。このような場合は除電機を使うと静電気を除去できて正確に秤量できるようになります。

多湿化・加湿

設備の対策と同様で、工場内の湿度を65%以上にします。

まとめ

この記事では、なぜ静電気が発生するのか、どんな時に事故が起こるのか、静電気火災を防ぐ方法について説明しました。

化学工場の静電気対策についての知識や実践が必要な部署は、化学メーカーの製造部工務部生産技術で仕事をする人です。

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