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リチウムイオン電池の仕組み、長所と短所、構成部材、劣化と対策

リチウムイオン電池(アイキャッチ) 化学産業の話題
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リチウムイオン電池は小型化や軽量化が可能でエネルギー密度が高い特徴があるため、スマートフォンやノートパソコンから電気自動車まで幅広い用途で利用されています。

もしリチウムイオン電池がなければ、モバイル機器は今より大きくて重かったでしょうし、電気自動車は短距離しか走ることができず、ドローンは飛ばなかったかもしれません。

社会を変えたといっても言い過ぎではないリチウムイオン電池について、詳しく見てみましょう。

リチウムイオン電池とは?

リチウムイオン電池とは、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う二次電池です。正極、負極、電解質、セパレータの材料は、用途やメーカーによって様々な種類がありますが、すべてリチウムイオン電池と呼びます。

リチウムイオン電池は、リチウムイオンバッテリー、Li-ion電池、LIB、LiBとも表現されることがあります。

リチウムイオン電池は1991年にソニーが世界で初めて商品化しました。2019年にはリチウムイオン電池の開発実用化に対して、吉野彰、ジョン・グッドイナフ、スタンリー・ウィッティンガムにノーベル化学賞が授与されました。

けむさん
けむさん

リチウムイオン電池についてはほかにも記事を書いています。ぜひご覧ください。

リチウムイオンの仕組み

リチウムイオン電池の主要な構成要素は、正極、負極、電解質、セパレータです。リチウムイオン電池が充電/放電する際のイメージ図を示します。リチウムイオン電池に使用される正極のリチウム合金と負極の炭素材は、どちらもリチウムイオンを挿入する隙間のある材料です。

リチウムイオン電池

充電時、外部電源の電流によって正極の結晶構造からリチウムイオンが電解質中に抜け出し、負極の炭素結晶層間に挿入されます。放電時、負極の炭素結晶層間からリチウムイオンが電解質中に抜け出し、正極の結晶構造に挿入されることで、外部回路に電流が流れます。

化学式

正極:CoO2 + Li+ + e ←→ LiCoO2

負極:LiC6 ←→ C6 + Li+ + e

※右矢印が放電、左矢印が充電です。正極にコバルト酸リチウムLiCoO2、負極にグラファイトを使用した場合の式です。負極のグラファイトはC6で表現しています。

リチウムイオン電池の長所

①エネルギー密度が高い

ほかの電池と比較してリチウムイオン電池は重量エネルギー密度(Wh/kg)と体積エネルギー密度(Wh/L)のどちらも高いです。

二次電池のエネルギー密度
(出典:TDK

②高電圧

リチウムイオン電池(3.2~3.7V)はイオン化傾向の大きなリチウムを使用しているため、鉛蓄電池(2.1V)、ニッケル水素電池(1.2V)、ニッケルカドミウム電池(1.25V)より電圧が高いです。

③メモリー効果がない

電池残量がある状態で継ぎ足し充電をすると電圧が下がってしまう現象(メモリー効果)がないため、いつでも継ぎ足し充電ができます。ニカド電池やニッケル水素電池ではメモリー効果が起きます。

④サイクル寿命が長い

リチウムイオン電池は充電/放電する時に電極が溶解したり析出したりしないタイプの電池です。そのため電極の劣化が少なく、充電や放電の繰り返しに強いです。

⑤自己放電が少ない

自己放電は、放置しているだけでも少しずつ化学反応が進行することで起きます。リチウムイオン電池は化学反応を伴わないため、ほとんど自己放電は起きません。

リチウムイオン電池の短所

①発火の危険性

リチウムイオン電池を異常発熱させると、正極、負極、電解液の分解反応が進行します。分解反応は発熱を伴うため、熱暴走して火災の原因となります。異常発熱の原因は主に以下の5点です。

  • 内部短絡:電池内でセパレータが破れて正極と負極が接触すると異常発熱します。
  • 外部短絡:電池の外側で誤って正極と負極を接続させると異常発熱します。
  • 過放電:過放電させると電極帯が劣化して、次に電池を使用するときに発熱する場合があります。
  • 過電流:製品の付属品と異なる電圧の高い充電器を使うと、過電流状態となり発熱する場合があります。
  • 高温:炎天下の車内に放置すると危険です。

異常発熱の原因としては内部短絡が最も多いです。その内部短絡の原因は主に以下の4点です。

  • 異物混入:製造時に金属や炭素材料の微粉が混入し、繰り返し使用しているうちにセパレータを突き破る。
  • 外部衝撃:外部からの衝撃などで曲がる、へこむ、貫通する。
  • 金属析出:電極の一部に不均一な部分がある場合、そこに電流が集中してリチウムがデンドライト(針状結晶)となって析出してセパレータを突き破る。
  • セパレータ不良:セパレータ製造時の不良品や劣化で穴が開く。
異常発熱や熱暴走に至る要因

このような発火の危険性を根本的に解決する方法として、可燃性の有機溶媒を電解液として使用しない、全固体電池の開発が進められています。

②低温では短時間しか使えない

電池は全般的に温度が低いほど電圧低下が早まります。リチウムイオン電池は-20℃では25℃の場合と比較して約半分の時間しか使用できなくなります。

③レアメタルを使用している

リチウム、ニッケル、コバルトといったレアメタルを使用しているため、価格が高く、価格の変動が大きいです。

リチウムイオン電池の部材

一般的には以下の部材が使用されますが、そのほかにもさまざまな種類があります。

  • 正極:リチウム遷移金属酸化物+フッ素樹脂バインダー
  • 負極:グラファイト(黒鉛)+フッ素樹脂バインダー
  • 電解質:有機溶媒(炭酸エチレンや炭酸ジエチルなど)とリチウム塩(LiPF6など)の混合物
  • セパレータ:ポリエチレンまたはポリプロピレン
  • 正極集電体:アルミ箔
  • 負極集電体:銅箔

正極材

最初に商用化されたリチウムイオン電池の正極材はLiCoO2でした。そこから研究開発が進められ、正極材の性能や特徴に適した用途で使用されています。

EV用のリチウムイオン電池正極材は、以前はNMC系使用されることが多かったですが、徐々にリン酸鉄リチウムのシェアが増加しました。さらに将来は2023年に量産化可能になったリン酸マンガン鉄リチウムが取って代わる可能性があります(参考:電子デバイス新聞)。リチウムイオン電池は活発に新技術の開発が進められています。

正極材比較

負極材

負極材料としては、グラファイト(黒鉛)、ハードカーボンおよびソフトカーボンなどの炭素系物質やチタン酸リチウムなどの合金系物質が使用されます。高容量で低温での特性に優れるため、グラファイトが使用されることが多いです。

電解質

電解質は「有機溶媒」「リチウム塩」「添加剤」を混合して製造します。

有機溶媒には電極での酸化・還元耐性が求められます。一般的には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)のカーボネート系溶媒やジメトキシエタンなどのエーテル系溶媒が使用されます。

電解質溶媒

リチウム塩には LiPF6 の他、LiBF4、LiN(SO2C2F5)2(LiBETA)、LiN(SO2CF3)2(LiTFSA)、LiN(SO2F)2(LiFSA)なども用いられます。

電解質溶媒

金属リチウム電池には一般的にプロピレンカーボネートが使用されていましたが、プロピレンカーボネートはグラファイト負極でプロピレンと炭酸ガスに分解してしまいます。(参考文献

電解液としてエチレンカーボネートを用いると、初期の充電で分解されるものの、グラファイト表面に保護被膜を形成することにより有機電解液の分解反応を停止できることが発見されました。(参考文献

添加剤は、負極活物質上のSEI層に影響してサイクル特性を改善させます。ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、1,3-プロパンスルトン(PS)などが使用されます。

電解質添加剤

セパレータ

セパレータは、リチウムイオン透過性、絶縁性、溶剤への親和性、機械的強度、溶媒耐性、酸化・還元耐性、シャットダウン機能、耐熱性などが求められます。

セパレータとしては、シャットダウン機能を発揮する温度が比較的低いポリエチレン系樹脂が一般的に使用されます。

リチウムイオン電池の安全性のための要求機能

リチウムイオンが異常に流れ続けると、発熱して発火の危険性が高まります。この危険性を低減するため、セパレータには、異常発熱時に多孔質の穴が閉じてリチウムイオンの流れを遮断する機能(シャットダウン機能)や、シャットダウン後の異常発熱による内部短絡を防ぐ高温形状保持性能(耐熱性)が要求されます。

リチウムイオン電池の劣化メカニズム

①電極の変形と活物質のはく離

リチウムイオンの吸着・脱離のたびに、電極活物質の結晶構造は多少変形します。その変形がサイクル回数を重ねるうちに不可逆となり、ついには一部がはく離します。はく離した活物質は電池反応に関与しなくなります。

②電極表面被膜の成長

負極に接触しているカーボネート系有機溶媒が還元的分解して、電極表面被膜(SEI、Solid Electrolyte Interphase)が生成します。SEIはリチウムアルキルカーボネートなどの有機質やリチウム塩などの無機質からなり、厚さは数十nmです。SEIは必ず発生しますが、ある程度の厚さに成長すると負極活物質と溶媒が接触し難くなるため成長が止まります。

リチウムイオン電池を使い続けて経年でSEIの厚みを増すと電極と電解質の密着性が低下し内部抵抗が増加します。また、電解液も減少します。

③リチウムイオンの移動量の減少

リチウムイオンが金属リチウムとして電極表面に析出し、それが増えると、電池反応の主体であるリチウムイオンが減少します。

こうした経年劣化に加えて、フル充電・フル放電状態での保存や、高温多湿環境での保管などは劣化を早めることになります。こうした過充電・過放電を防ぐために、リチウムイオン電池を使用する製品には保護ICが使われます。保護ICは、過充電になる前に電池への通電を遮断したり、過放電になる前に製品への放電を停止したりします。

④過放電

過放電の場合はリチウムコバルト酸化物が過飽和して酸化リチウムが生成してします。

化学式

LiCoO2 + Li+ + e → Li2O + CoO

⑤過充電

過充電した場合はコバルト (IV) 酸化物が生成してします。

化学式

LiCoO2 → Li+ + CoO2 + e

リチウムイオン電池の充電のコツや注意点

①過充電と過放電を避ける

ひとつ上の項目「リチウムイオン電池の劣化メカニズム」で説明したとおり、満充電の状態で電源に繋いだまま機器を使用し続けたり電気を使い切った状態で放置すると、リチウムイオン電池の寿命を早めます。

②高温の場所に放置しない

リチウムイオン電池の最高許容温度は45℃です。45℃を超える環境で使用すると劣化を早めます。

③充電中は使用を避ける

充電しながら機器を使用すると本体が熱くなり、電池の劣化を早めます。

④付属品と異なる電圧の高い充電器を使わない

過電流状態となり、火災の原因となります。

⑤継ぎ足し充電をして大丈夫

ニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池の場合、容量が残っているのに途中から継ぎ足し充電すると、その容量以上に充電されないことがあります。これは「メモリー効果」と呼ばれます。リチウムイオン電池ではありません。

ニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池ではメモリー効果を防ぐために、電気を全て使い切ってから充電する方法が推奨されています。これに対して、リチウムイオン電池は途中まで電気を使った状態でも継ぎ足して充電できるので、使い勝手が良いです。

まとめ

リチウムイオン電池の仕組み、長所と短所、構成部材(正極材、負極材、電解質、セパレータ)、劣化と対策、充電のコツと注意点について紹介しました。リチウムイオン電池は正極材によって特徴や性能が大きく変わります。最新のリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)を含む、主な正極材7種類の特徴と性能も紹介しました。

関連書籍

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この本は、電池に関する基本的な解説から始まり、リチウムイオン電池などの二次電池の特徴や次世代電池の概要をわかりやすく説明しています。専門的な知識がない人でも理解しやすく書かれています。また幅広い範囲の内容を取り上げています。専門用語も易しく解説されており、電子やイオンの移動など、電池の基礎的な原理について詳しく説明されています。安全性や課題に関する内容も包括的に扱われており、リチウムイオン電池だけでなく、レドックスフロー電池やナトリウムイオン電池、全固体電池などの多様な電池技術についても解説があります。化学式などの難解な部分も分かりやすく説明されており、読者が容易に理解できるよう配慮されています。

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この本は、リチウムイオン電池・全固体電池における活物質粒子や電極の作製方法、粒子や電極の構造分析や解析方法、電池の出力特性の評価方法などについて詳しく説明しています。その内容は、電池分野に経験がある人にとっては理解しやすく、特に企業の若手研究者にとっては有益な情報源となるでしょう。また、化学系の学生には問題ない内容ですが、電気系や機械系の学生には材料分析や電気化学の知識が必要です。特に、固体電池に関心がある場合はこの本を購入することをお勧めします。具体的なリチウムイオン電池の構成材料やプロセス技術、評価方法について網羅されており、特に電極活物質に関する詳細な情報が提供されています。ただし、バインダーやセパレーターに関する情報は限られているため、関連書籍が必要です。電極活物質の研究に従事している人には非常に役立つ内容です。

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