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リチウムイオン電池の「正極材」「負極材」「セパレータ」の化学的な説明

リチウムイオン電池(アイキャッチ) 化学産業の話題
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リチウムイオン電池に使用される部材について化学的に説明します。この記事で取り上げる部材は、正極材負極材セパレータです。

けむさん
けむさん

リチウムイオン電池についてはほかにも記事を書いています。ぜひご覧ください。

正極材

リチウムイオン電池の部材の中で、正極材は電圧やエネルギー密度を決定し、電池コストの大半を占める重要な部材です。

電圧は、負極と正極の酸化還元エネルギー差によって決まります。電圧を高くするためには、正極のエネルギー準位を低くし、負極のエネルギー準位を高くする必要があります。リチウム金属を負極に使用すると電圧を高くできることがわかっていますが、リチウム金属を使用した場合は放電/充電を繰り返すうちにリチウム負極上にデンドライトが成長して短絡するリスクがあります。そのため実用化されているリチウムイオン電池の負極はほとんどがグラファイトです。負極がグラファイトで固定されているため、正極にどんな材料を使用するかで電圧やエネルギー密度が決まります。

下のエネルギー準位図を見るとわかるように、負極のグラファイトとのエネルギー差を大きくするためには、正極にはエネルギー準位の低い材料を選ぶ必要があります。その結果、電池にした際の電圧の大きさはLiCoO2 > LiNiO2 > LiMnO2 > TiO2の順になります。

電極のエネルギーギャップ

リチウムを挿入することができる酸化物正極材は、層状スピネル、およびオリビンに分類されます。

層状酸化物とスピネル酸化物はどちらも良好な電子伝導性を示しますが、オリビン酸化物は電子伝導性が低いです。そのためオリビン酸化物は小さい粒子として合成し、導電性カーボンでコーティングして電子伝導性を高める必要があります。その影響でオリビン酸化物は処理コストが増加し、性能にばらつきが生じることがあります。

層状酸化物とスピネル酸化物は高密度の最密充填構造を持っていますが、オリビン酸化物は一般に体積エネルギー密度が低く、炭素でコーティングするためさらに体積エネルギー密度が低くなります。

一方、オリビン酸化物は層状およびスピネル酸化物よりも構造安定性が高いため充放電速度を高くできる特徴があります。

正極材の構造比較
層状、スピネル、オリビン骨格の結晶構造
  • 層状:LiCoO2(LCO)、LiNiO2(LNO)、LLiNixMnyCozO2(NMC)
  • スピネル:LiMn2O4(LMO)、LiMnxNiyO4(LMN)
  • オリビン:LiFePO4(LFP)

代表的な正極材の特徴を示します。EV用のリチウムイオン電池正極材は、以前はNMC系使用されることが多かったですが、徐々にリン酸鉄リチウムのシェアが増加しました。さらに将来は2023年に量産化可能になったリン酸マンガン鉄リチウムが取って代わる可能性があります(参考:電子デバイス新聞)。リチウムイオン電池は活発に新技術の開発が進められています。

正極材比較

主要なリチウムイオン電池メーカーと使用している正極材を示します。2024年時点で中国電動車市場の5割はLFPだと言われています。CATLはLFPのFeをMg、Zn、Alに置き換えたM3Pを開発しています。また、Gotion Hi-techは2023年にLMFPの量産化に初めて成功しました。今後はLMFP、M3P、LFPなどのオリビン系が優勢になりそうです。

メーカーセルタイプ正極材
CATL角型、円筒型、ラミネート型NMC、LFP、M3P
BYD角型、円筒型LFP、LMFP
LGエナジーソリューションラミネート型、円筒型NMC、NMCA
パナソニック円筒型NCA
サムスンSDI角型、円筒型NMC
SKオンラミネート型NMC
Gotion Hi-tech角型、ラミネート型LFP、NMC、LMFP
AESCジャパンラミネート型NMC
プライムプラネットエナジー&ソリューションズ角型NMC
プライムアースEVエナジー角型NMC
(出典:電子デバイス新聞)

LiCoO2(LCO)

LCOは高電圧で、コバルト-酸素の結合エネルギーが大きいためサイクル安定性や熱安定性が高いです。デメリットはコバルトのコストが高いことです。

LiNixMnyCozO2(NMC)

NMCは一般式LiNixMnyCozO2(x+y+z=1)で表され、LiCoO2のコバルトの一部をニッケルとマンガンで置き換えた化合物です。コバルト、ニッケル、マンガンにはそれぞれ特徴的な性能への影響があります。

コストの高いコバルトを減らして電気容量を高くできるニッケルを増やす方向の研究開発が盛んですが、ニッケル含有量が高い層状酸化物には、サイクル不安定性、熱不安定性、空気不安定性という3つの重大な課題があります。

ParameterTrend
化学的安定性Mn > Ni > Co
構造的安定性Co > Ni > Mn
電子伝導性Co > Ni > Mn
入手容易性(コストの低さ)Mn > Ni > Co
NMC 正極における Mn、Ni、Coの特性の比較

LiMn2O4(LMO)

LMOはコバルトを使用していないためコストが下がりますが、電解液中にppmレベルのH+イオンが存在すると溶解するため安定性に課題があります。

負極材

リチウム

リチウム金属は比容量(3.86 Ah/g)が大きいため高いエネルギー密度となり、エネルギー準位が高いため高い電圧を達成できる、理想的な負極材です。ただし、Li/Li+の電気化学ポテンシャルは電解質化合物の最低空分子軌道(LUMO)より上にあり、電極表面被膜(SEI)が形成されない限り連続的に電解質を反応させます。また、リチウム金属は充電/放電のサイクルで体積変化が2倍と大きく、SEIが形成されたとしてもSEIが損傷を受けてリチウム金属の表面で不均一に修復されます。これが原因でリチウムデンドライトが成長してセルが短絡し発火する可能性があるため、リチウム金属は負極材として使用するのが困難です。

石油コークス

石油コークスは石油分留残渣から得られるグラファイト化度の低い炭素で、リチウムイオンや電解質を安定に挿入/脱離させることができます。この性質を利用して、石油コークスはリチウムイオン電池の世界初の市販品で負極に用いられました。当時は、グラファイトを負極に使用すると電解質であるプロピレンカーボネートが挿入してグラファイトの剥離と崩壊が引き起こされる問題がありましたが、石油コークスは非晶質炭素領域があるためにこの問題は起きませんでした。

グラファイト

グラファイトの比容量(372 mAh/g)は石油コークスの比容量(186 mAh/g)より大きいため、グラファイトを使用するための検討は続けられていました。電解質の項目で説明したとおり、電解液としてECを使用することでグラファイトの剥離を抑制できるようになり、グラファイトを使用できるようになりました。現在ではグラファイトが負極の標準物質となっています。

石油コークスとグラファイト
石油コークスとグラファイトにリチウムイオン(青玉)が挿入されている図

シリコン

シリコンは天然に多く存在する元素であり、既知の材料の中で最も高い比容量(4200 mAh/g)を有しているため、グラファイトに代わる可能性がある有望な負極材です。

しかし、シリコンは充放電による体積変化が大きく、負極材料の構造が破壊されたり、SEIが破壊されてリチウムデンドライトの成長起点になったり、電極と集電体との接点がなくなったりして電池性能を低下させます。この問題を解決するため、シリコンをナノサイズの粒子として使用する方法や、グラファイトとの複合材料にする方法が検討されています。

負極材の特徴

セパレータ

セパレータは電極間の短絡を防ぐための材料ですが、ほかにもさまざまな特性が要求されます。通常はポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン多孔質膜が利用されます。

  • 機械的安定性
  • 化学的安定性
  • 電気化学的安定性
  • 熱的安定性
  • 電解質に対する高い湿潤性
  • 高いイオン伝導度

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参考文献

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