化学工場で製品を製造する方法には、バッチ生産と連続生産の2種類があります。バッチ生産と連続生産の製造プロセスを説明します。
バッチ生産と連続生産の違い
どちらの方法も原料を反応させた後で精製することは同じですが、工程の移り替え方に違いがあります。
バッチ生産では、工程ごとに反応や精製を完結させてから容器内の反応物をすべて次の工程に移します。下の図で説明すると、反応させている間は精製1や2は稼働しておらず、反応が終わってから反応物のすべてが精製1容器に移されて精製1工程を開始します。精製1工程が終わったら、そのすべてが精製2容器に移されるといったように、段階的に工程を進めて製品を製造します。
連続生産では、原料は連続的に移動しながら反応や精製されます。反応容器の入り口付近ではまだ反応が進んでおらず、出口付近では十分反応が進んだ反応物になっています。精製容器の入り口付近ではまだ精製が不十分ですが、出口付近では十分に精製された反応物になっています。このように連続的に反応容器や精製容器を通して製品を製造します。
バッチ生産は少量多品種を製造する場合に適しています。ひとつの製品を製造した次に同じ設備で違う製品を製造できます。中間化学品や最終製品などでバッチ生産方式がとられています。
逆に連続生産は大量に同じ製品を製造する場合に適しています。製造開始と製造終了の操作が難しいため頻繁に製品を切り替えるのは向きませんが、一度安定して製造がはじまると効率よく製造し続けることができます。ナフサ分解や基礎化学品で連続生産方式がとられています。
バッチ生産の製造プロセス
バッチ生産の製造プロセスを工程ごとに説明します。主な工程は反応工程と精製工程ですが、精製工程には分液、晶析(再沈殿)、濾過、カラム、蒸留、乾燥など様々な種類があります。製品によって適切な工程を組み合わせて製造します。
例えばシンプルな製法の場合、反応→分液→晶析(再沈殿)→濾過→乾燥、として製品にすることがあります。このように適切な精製方法や順番を選択して使用しますし、必要に応じて同じ精製方法を複数回実施することもあります。
反応工程や精製工程の各種類について、工場で使用する設備と実験室で使用する器具を対比して説明します。実験室では通常ガラス製の器具を使用しますが、工場設備の材質はガラス、ステンレス、ハステロイ、フッ素樹脂など様々あります。酸性条件で使用する設備はステンレスを避ける、塩基性条件で使用する設備はガラスを避けるなど、使用する工程に適した材質を選びます。
また、工場設備は生産数量に合わせてサイズを変えます。小さいものは100L程度から大きいものは10,000Lを超えるサイズまであり、適切なサイズを選びます。
反応
原料や溶媒を仕込んで反応させる工程です。
工場では下に示すような反応器を使用します。実験室ではセパラブルフラスコや三ツ口フラスコなどを使用します。
工場
出典:神鋼環境ソリューション
実験室
出典:東京硝子器械
分液
製品を含む有機溶媒と水を混合後静置して有機溶媒層と水層に分離させ、水層を廃棄します。水溶性の不純物を除去する精製工程です。
工場では下に示すような反応器と同じ設備を使用します。実験室では分液ロートなどを使用します。
工場
出典:神鋼環境ソリューション
実験室
出典:東京硝子器械
晶析(再沈殿)
製品を含む有機溶媒と製品の貧溶媒を混合して製品を固体で析出させます。貧溶媒への溶解性のある不純物を除去する精製工程です。
工場では下に示すような反応器と同じ設備を使用します。実験室でもセパラブルフラスコや三ツ口フラスコなど反応器と同じ器具を使用します。
工場
出典:神鋼環境ソリューション
実験室
出典:東京硝子器械
濾過
固体と液体の混合物(スラリー)を固体と液体に分離する精製工程です。
工場では下に示すような濾過器を使用します。上の写真は回転させて遠心分離の力を利用して濾過をする遠心分離機です。下の写真は加圧しながら給液して濾過する加圧濾過器です。どちらもフィルターには布製の濾布がよく使用されます。実験室ではガラス製や陶器製の濾過器を使用します。フィルターには紙製の濾紙がよく使用されます。
工場
出典:松本機械
出典:日本化学機械製造
実験室
出典:桐山製作所、アズワン
カラム
製品を含む有機溶媒を吸着材に通液させ、吸着材への吸着力の差を利用して不純物を分離する精製工程です。
工場では下に示すような濾過器に吸着材を充填して使用します。ただしカラム精製はコストがかかる精製方法のため、基本的に工場でカラム精製は避けるプロセスを選びます。実験室ではガラス製のカラム管に吸着材を充填して使用します。吸着材はシリカゲルなどが使用されます。
工場
出典:日本化学機械製造
実験室
出典:柴田科学
蒸留
製品を含む有機溶媒を減圧や加熱して沸騰させ、沸点の差を利用する精製工程です。製品より沸点の低い不純物を除去することができます。水と有機溶媒を共沸させて水を除去することもできます。沸点の差を利用して複数の製品を得ることもできます。
工場では下に示すような背の高い蒸留塔を使用します。実験室ではフラスコ、連結管、冷却管、受けフラスコのセットを使用します。
工場
出典:石油化学工業協会
実験室
出典:アズワン
乾燥
水や有機溶媒を含む製品を減圧や加熱して、水や有機溶媒を除去する精製工程です。
工場では棚段乾燥機やコニカル乾燥機を使用します。棚段乾燥機は乾燥前品を薄いトレイに載せて乾燥機にセットして乾燥させます。コニカル乾燥機は乾燥前品を充填して回転させながら乾燥させます。実験室では下に示すような恒温槽で乾燥させます。
工場
出典:日向製作所、GL HAKKO
実験室
出典:アズワン
連続生産の製造プロセス
連続生産方式は大量に同じ製品を製造する場合に使用されます。例として、ナフサ分解とエタノール製造プロセスを示します。実験室ではフロー合成が連続生産方式になります。
ナフサ分解
ナフサを原料として、反応設備でナフサを分解します。分解物は蒸留精製して沸点ごとに複数の製品に分離されます。下の図では蒸留塔は複数あるものをひとつに簡略して表示しています。ナフサ分解は大量に同じプロセスで製造し続けるため、連続生産に向いています。
エタノール製造
エタノールは基礎化学品のひとつで、やはり大量に製造し続ける化学品のため連続生産が向いています。
下の図は日本合成アルコールのホームページの情報を簡略化して示したエタノールの製造プロセスです。反応塔で原料のエチレンと水を反応させてエタノールを製造し、高圧分離機や循環ガス洗浄等で粗製エタノールと未反応エチレンに分離します。粗製エタノールは蒸留塔に進んでエタノールと副生物のジエチルエーテルに分離されます。未反応エチレンは反応塔に戻って反応原料に再利用されます。この製造プロセスで連続的にエタノールが製造されています。
(出典:日本合成アルコールから著者作成)
まとめ
化学工場の製造プロセスにはバッチ生産と連続生産の2種類あることを説明しました。それぞれの製造プロセスについて、反応工程や精製工程の各種類を工場で使用する設備と実験室で使用する器具を対比して説明しました。
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