私たちは毎日の生活で使用するエネルギーは、大部分を化石燃料に依存しています。しかし、資源枯渇、環境破壊、気候変動の問題に対応するため、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が求められています。代表的な再生可能エネルギーである太陽電池ですが、実はいろいろな種類があります。
太陽電池は光を吸収する材料によって分類することができます。この記事では、太陽電池の種類(11種類)の説明と変換効率ランキングを紹介します。太陽電池の中では多接合型太陽電池の効率が高く、単一種の中ではGaAs太陽電池の効率が高いです。
太陽電池が発電する仕組み
太陽電池にはさまざまな種類がありますが、基本的には半導体材料が光を吸収し、光のエネルギーによって半導体材料内で電子(e-)とホール(h+)が発生し、それらが電極に移動して外部回路に出ていくことで電気を生み出します。現在主流となっているシリコン系太陽電池が発電する仕組みのイメージ図を示します。
太陽電池の種類と特徴
太陽電池は光を吸収する材料によって無機系、有機系に分類することができます。無機系はさらにシリコン半導体系、化合物半導体系に分かれます。有機系は色素増感、ペロブスカイト、有機薄膜に分かれます。
以上は太陽光を吸収する材料が単一種の太陽電池です。これに対して多接合太陽電池は、変換効率を向上させるために複数の材料を使用して太陽光を幅広く吸収できるようにした太陽電池です。量子ドット太陽電池も複数の材料を使用するのですが、直径10nm程度の微細な結晶に電子を閉じ込めて量子効果を利用する新しいタイプの太陽電池です。
太陽電池の変換効率ランキング
NREL(National Renewable Energy Laboratory)では太陽電池の種類ごとの変換効率向上の歴史をまとめています。ベストデータを比較すると、変換効率は以下の順になっています(2024年時点)。
- 多接合(4接合、47.6%)
- GaAs(30.8%)
- 単結晶シリコン(26.1%)
- ペロブスカイト(26.1%)
- CIGS(23.6%)
- 多結晶シリコン(23.3%)
- CdTe(22.6%)
- 有機薄膜(19.2%)
- 量子ドット(19.1%)
- アモルファスシリコン(14.0%)
以下、各太陽電池の特徴を紹介します。
単結晶シリコン太陽電池
単結晶シリコン太陽電池は高純度の単結晶シリコンを製造するために高価ですが、セル全体が1つのシリコン結晶になっており、シリコン系太陽電池の中では最も変換効率が高いです。住宅用太陽光発電でも20%を超える効率の太陽電池が販売されています。 単結晶シリコン太陽電池は、単結晶シリコンインゴットをスライスし、周囲をカットした八角形状のウエハーを敷き詰めてモジュールを構成します。長年技術開発が進められてきた単結晶シリコンは、他種に比べて故障が少なく、産業用太陽光発電システムに利用された実績も多い発電技術です。
多結晶シリコン太陽電池
多結晶シリコン太陽電池は細かいシリコン結晶が集まった多結晶シリコンを用いており、見た目が特徴的です。単結晶シリコンと比較して結晶の間に粒界があるため電子の流れが妨げられ、その分性能が低下します。一方で、多結晶シリコンは単結晶シリコンの切断くずを溶解してつくるシリコンの「鋳物」なので、省エネルギー・低コストで製造できます。単結晶シリコンと比較して変換効率が低下しますがコストも低下する特徴があります。
アモルファス(薄膜)シリコン太陽電池
アモルファス(薄膜)シリコン太陽電池は、結晶シリコンの100分の1程度のごく薄いシリコン膜を使う太陽電池です。アモルファスシリコン、または微結晶シリコンを用います。ランダム構造のアモルファスシリコンに、多結晶シリコンよりさらに細かい微結晶シリコンを混合して使用するため、シリコン系太陽電池の中では変換効率が低いです。また、太陽光の照射によって欠陥が発生して変換効率が低下する欠点があります。一方で、製造が容易、軽量、耐熱性がある、弱い光でも発電できる、フレキシブルなモジュールを製造できるといった長所があります。
CIGS、CIS太陽電池
CIGS系、CIS系太陽電池は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)の4つまたは3つの元素を混ぜ合わせた半導体を利用する太陽電池です。原料が低コストでありながら変換効率が比較的高い特徴があります。また、シリコン系太陽電池に比較して光を吸収しやすく、そのため使用量を減らして薄くすることができます。
CIGS系、CIS系太陽電池のバンドギャップはそれぞれ1.25eVと1.04eVで、太陽光エネルギーの吸収性の観点ではCIGS系太陽電池が優れています。
GaAs太陽電池
GaAs太陽電池は高価ですが変換効率が高い高性能太陽電池です。III族のガリウム(Ga)とV族のヒ素(As)から作られる化合物半導体で構成されたセルです。宇宙放射線に対する耐性があるため、人工衛星に搭載されています。また、高温環境でも出力低下が少ないことから直射日光の多い地域などで利用されることもあります。
III-V族太陽電池は、GaAs単結晶基板にさまざまな組成比のIII-V族半導体薄膜を層状に成膜した多接合型太陽電池もあります。
CdTe太陽電池
CdTe太陽電池は、カドミウム(Cd)とテルル(Te)を原料とした化合物半導体系太陽電池で、高効率かつ低コストの太陽電池です。カドミウムの毒性が強いことと、レアメタルのテルルを使用することが課題です。
色素増感太陽電池
発明者の名前を冠してグレッツェルセルとも呼ばれる色素増感太陽電池は、酸化チタンTiO2と色素を組み合わせた電荷分離層と、イオンが移動する電解質溶液を2つの電極で挟んだ構造をしており、ほかの太陽電池と発電の仕組みが異なる太陽電池です。
色素増感型太陽電池の発電の仕組みは、まず色素が光エネルギーを吸収して電荷分離を起こし、その電子が酸化チタンを経由して電極へと移動します。電子はさらに外部負荷を経由して対極に移動し、電解液中のヨウ素(I2)をヨウ化物イオン(I–)に還元します。ヨウ化物イオンは色素によって酸化されてヨウ化物イオンに戻ります。これらの一連の流れが繰り返されることで太陽電池として作用します。
ペロブスカイト太陽電池
ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト化合物と呼ばれる結晶構造を持つ材料を用いた太陽電池です。低温で製造できることから製造コストの低減が期待され、薄型で柔軟なためフレキシブルなデバイスを作製可能です。2010年代に急速に研究開発が進み、有機系の中では最も変換効率が高いです。課題は耐久性の向上や量産技術の開発で、世界中で研究開発が進められています。ペロブスカイト太陽電池は色素増感太陽電池を改良したところから開発が始まりました。
有機薄膜太陽電池
有機薄膜太陽電池は、有機物半導体を利用した太陽電池です。有機物半導体をインクにしてインクジェットプリンターで作製できるため、製造コストを大幅に引き下げられる可能性があります。また、有機物は柔らかいためフレキシブルなモジュールを製造できるといった長所があります。しかし、有機物半導体を使用するため変換効率と耐久性が低いことが課題です。
有機半導体としては様々な化合物が検討されています。高効率な有機半導体は、アセン系化合物、チオフェン系化合物、フタロシアニン系化合物、フラーレン系化合物などが挙げられます。
ヘテロ接合(HIT)太陽電池
ヘテロ接合太陽電池(Heterojunction with Intrinsic Thin-layer、HIT)太陽電池は、複数の物性を持つ素材を重ね合わせて作る太陽電池です。例えばアモルファスシリコン太陽電池と微結晶シリコン太陽電池を組み合わせて、コストを抑えつつ性能を高めたヘテロ接合太陽電池が挙げられます。太陽電池の材質によって吸収波長が異なるため、複数の材質を組み合わせるヘテロ接合太陽電池は太陽光を幅広く活用することもできます。
量子ドット太陽電池
量子ドット型太陽電池は、まだ基礎研究の段階ですが、量子効果を利用することで理論上の変換効率が75%になると言われている次世代の太陽電池です。
通常の太陽電池では半導体材料固有のバンドギャップにより光から電気への変換に適した波長が限られており、太陽光の一部の波長しか有効に利用されないため、変換効率の理論限界は30%程度でした。量子ドット型太陽電池では、直径10nm程度の微細な結晶に電子を閉じ込めることで生じる量子サイズ効果などの量子効果を活用して、これまでの太陽電池では吸収することのできなかった波長の光や、高エネルギーの光を有効に利用することで変換効率を高めることが期待されます。
まとめ
太陽電池にはさまざまな種類があります。特に、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファス(薄膜)シリコン太陽電池、CIGS、CIS太陽電池、GaAs太陽電池、CdTe太陽電池、色素増感太陽電池、ペロブスカイト太陽電池、有機薄膜太陽電池、ヘテロ接合(HIT)太陽電池、量子ドット太陽電池についてはその特徴を紹介しました。