バイオ燃料っていくつか種類があるけど、どれも同じなの?
「バイオ」という言葉は共通だけど化学構造はだいぶん違うよ
地球温暖化、気候変動問題を解決するための手段として注目されているバイオ燃料には、いくつかの種類があります。そして化学構造が全く異なります。それぞれのバイオ燃料や原料を化学式で説明します。
バイオ燃料とは
バイオ燃料とは、植物や動物などの生物資源(バイオマス)を原料に製造された燃料のことです。石油や石炭などの化石燃料と比較した表現です。
化石燃料を使用すると二酸化炭素が発生します。これが地球温暖化、気候変動問題の原因と言われています。
バイオ燃料も使用すると二酸化炭素が発生しますが、バイオ燃料の原料となる植物は大気中の二酸化炭素をもとに光合成によって生まれるため、全体を通して二酸化炭素は増えていない(カーボンニュートラル)とみなすことができます。光合成で生まれる植物を食べる動物を原料とする場合も同様にカーボンニュートラルとみなされます。
地球温暖化、気候変動問題を解決するための手段としてバイオ燃料が注目されています。
バイオ燃料の現状と将来
バイオ燃料の生産量は右肩上がりで増えています。
現在もっとも生産量が多いのはバイオエタノール、次がバイオディーゼル(FAME)、その次が2010年頃から生産され始めた水素化植物油(HVO)と続いています。(バイオ燃料の種類については次の項目で説明します。)
出典:IFP Energies nouvelles
電気自動車(EV)に代表される輸送機械の電動化は広がりますが、石油のすべてを電気で置き換えることはできません。電動化が困難な輸送機械(トラック、航空、船舶)の燃料や、石油化学工業の原料としての炭化水素(ナフサ)は電気で置き換えることはできないためです。バイオ燃料は温暖化対策と現代社会の維持を両立させる解決策になります。
Fortune Business Insightsによると、バイオ燃料は今後年率8.4%で成長し続けると予想されています。
バイオ燃料の種類
バイオエタノール
最も普及しているバイオ燃料です。食用農作物や非食用植物に含まれる糖類、でんぷん、セルロースを微生物によって発酵させて製造します。バイオエタノールはガソリンと混ぜて自動車燃料として使用されます。ガソリンは飽和炭化水素で、エタノール(CH3CH2OH)とは化学構造が異なります。
バイオエタノールはトウモロコシなど食用農作物から生産される割合が多いため、今後は食用農作物から非食用植物へ原料をシフトしていくことが求められます。
出典:国際環境経済研究所
バイオディーゼル(FAME)
バイオディーゼル(FAME)はバイオエタノールの次に普及しています。FAMEはFatty Acid Methyl Ester(脂肪酸メチルエステル)の意味です。植物油や動物油(トリグリセリド)を化学的に加水分解、メチルエステル化して製造します。石油由来の通常のディーゼルは飽和炭化水素で、バイオディーゼルは上記の通りエステルです。名前は似ていますが化学的特徴は異なるため、ディーゼルエンジンに100%バイオディーゼルを使うと壊れる場合があります。そのため石油由来の通常のディーゼルに10%程度のバイオディーゼルを混合して使用することが多いです。
バイオディーゼルも食料との競合問題を避けるため、食用農作物から非食用植物へシフトしていくことが求められます。
出典:国際環境経済研究所
バイオディーゼル(FAME)についてはこちらの記事もご覧ください。
水素化植物油(HVO)
HVOはHydrotreated Vegetable Oil(水素化植物油)の意味です。動物性の油脂を原料とした場合も同じ処理で水素化できるためHVOに含まれます。HVOで製造されるディーゼルはHDRD(Hydrogenation-Derived Renewable Diesel)と表現されることもあります。
HVOは植物油や動物油(トリグリセリド)を化学処理して得られる完全な飽和炭化水素の混合物で、従来の化石燃料と化学的にほぼ同じ(※1)です。そのため従来の化石燃料用の設備に100%のHVOを使うことができます。
HVOは蒸留して沸点差によって、SAF(持続可能な航空燃料)、バイオナフサ、バイオディーゼル(FAMEとは異なる完全な炭化水素のバイオディーゼル)に分別して製品化されます。
バイオマス由来のガスを原料とする飽和炭化水素
ゴミや木質チップなどのバイオマスを不完全燃焼させて合成ガス(一酸化炭素と水素の混合物)を取り出し、合成ガスをフィッシャー・トロプシュ反応によって飽和炭化水素にします。得られた飽和炭化水素を蒸留して最終製品のSAF、ナフサ、ディーゼルに分別します。
バイオエタノールの原料は糖類、バイオディーゼル(FAME)と水素化植物油(HVO)の原料はトリグリセリド、といったように原料にできる物質に制限がありました。一方でバイオマスをガス化してから飽和炭化水素を製造する方法は、すべてのバイオマスを制限なく原料として使用できる点が魅力的です。
バイオエタノールを原料とする飽和炭化水素
バイオエタノールを脱水してエチレンとし、エチレンをオリゴマー化して炭化水素を合成し、水素化して飽和炭化水素にします。得られた飽和炭化水素を蒸留して最終製品のSAF、ナフサ、ディーゼルに分別します。(注:上記のオリゴマー化以降の化学式は化合物の一例を示しています。実際は多種類の炭化水素の混合物です。)
バイオガス
生物の排泄物、下水、生ごみを原料として、メタン菌による嫌気発酵によってメタン(CH4)を製造します。
まとめ
代表的なバイオ燃料とその原料について、化学式を使って説明しました。化学式を使うと、バイオディーゼルはディーゼルと化学構造が異なるため単純に置き換えできずに混合して使用すること、水素化植物油(HVO)は石油由来の炭化水素と化学的に同じため従来の化石燃料用の設備をそのまま使い続けることができることがよくわかります。また、それぞれのバイオ燃料が原料にできる種類に制限があることもわかりやすいです。
関連書籍
バイオ燃料関係の書籍を紹介します。
世界各国でカーボンニュートラル化の動きが加速する中、輸送部門におけるカーボンニュートラル化を進める上での「電動〔電気自動車(EV)〕化」「水素活用」に続く第3のアプローチとして「燃料のカーボンニュートラル化」が注目を集めています。本書では、バイオ燃料や合成燃料に代表されるこれらカーボンニュートラル燃料の現状と可能性をグローバルに見渡し、普及に向けた産業・企業レベルでの課題や解決の方向性について提言しています。
化石燃料であるガソリンに替わる燃料として注目度が増しているカーボンニュートラル燃料について、産業界の現状とこれからの普及に向けた技術開発の最新情報を図表を交えながらわかりやすく解説されています。最新のバイオ燃料について知りたい方、脱炭素実現に向けてカーボンニュートラル燃料の使用を検討している方におすすめです。