ポリスチレンは加熱することで解重合し、スチレンモノマーを生成させることができます。ポリスチレンの解重合によるケミカルリサイクルを実用化している企業5社を紹介します。
ポリスチレンの解重合
PSを加熱するとポリマー鎖が切断されてラジカルが発生します。PSのラジカルは隣接するベンゼン環で共鳴安定化されており、付加反応による再結合よりも分解反応が起こりやすい状態になっています。
ラジカルを安定化できる化学構造のポリマーだけ、熱分解でモノマーに解重合させることができます。
PSを400℃で熱分解すると、スチレンモノマーを収率60%で回収できます。PSでは一定の確率で水素引き抜きによるラジカルの移動が起こり、その影響でスチレン二量体や三量体ができることが知られています(出典:東京化学同人 第二版 高分子の分解とリサイクル)。
ポリスチレンの解重合を実用化している企業
ポリスチレンの解重合を実施している(予定含む)のは以下の企業です。
- Agilyx
- Trinseo
- 東洋スチレン
- PSジャパン
- Pyrowave
Agilyx
2004年の創業以来、Agilyxはプラスチック廃棄物のリサイクル技術を開発してきました。Agilyxのリサイクル技術は、混合プラスチック廃棄物を熱分解してナフサや燃料に変換したり、PS(ポリスチレン)やPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を解重合してモノマーに戻したりできます。 AgilyxはTigardにリサイクル工場を持っていましたが、2024年に停止しました(Agilyxプレスリリース)。Agilyxは技術をライセンスしており、東洋スチレンがライセンスを受けてリサイクル工場を建設しました。
Trinseo
Trinseoはプラスチックとラテックスバインダーを製造する世界的な素材企業です。2022年にTrinseoは、ポリスチレン廃棄物を熱分解してスチレンモノマーを製造する、ポリスチレン専用のリサイクル工場をベルギーのTessenderloで建設し始めました。この工場の処理能力は1.5万トン/年です(Trinseoニュースリリース)。
東洋スチレン
デンカと東洋スチレンはAgilyxとの技術ライセンスを受けて、2024年に使用済みPS(ポリスチレン)のケミカルリサイクルプラントをデンカの千葉工場内に建設しました。処理能力は3000トン/年です。東洋スチレンは、リサイクルしたスチレンモノマーを「リフレッシュPS」というブランドで、マスバランス方式で販売する計画です(東洋スチレンプレスリリース)。
PSジャパン
PSジャパンは2023年、岡山県倉敷市の同社水島工場にPSのケミカルリサイクル(熱分解解重合)の実証設備を新設しました。使用済みPS廃棄物の熱分解解重合によって、原料となるスチレンモノマーに再生する実証運転を実施中です。
Pyrowave
カナダのモントリオールを拠点とするプラスチックリサイクル機器メーカーのPyrowaveは、ポリスチレン廃棄物をスチレンモノマーに分解するマイクロ波技術を開発しました。Pyrowaveによれば、マイクロ波装置の1モジュールあたり1,200トン/年のプラスチックを処理でき、20~30個のモジュールを使用した典型的な工場では、年間2万~3万トンのプラスチックを処理できます(Recycling Today)。
関連書籍
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