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フォトレジスト材料開発の歴史をわかりやすく説明|g線、i線、KrF、ArF、EUV

フォトレジスト フォトレジスト

半導体材料のひとつであるフォトレジストについて、半導体製造プロセスの中でどのように使用されるのか、フォトレジストとはどのような化合物でどのような働きをするのか、わかりやすく説明します。

フォトレジストは光が照射された部分とされなかった部分で現像液への溶解性が逆になります。この性質を利用して半導体のリソグラフィー工程でパターンを形成するために利用されます。

半導体の性能を上げるため、配線パターンは微細化され続けてきました。微細化のためには照射する光の波長を短波長にします。光源の波長に対応させるため、フォトレジストの材料も改良され続けています。

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フォトレジストとは?

フォトレジストは、半導体製造のリソグラフィーにおいてパターン形成させるために使用する材料です。基本的には、ベース樹脂、感光材料、溶媒の組成物です。性能を調整するために各種添加剤が加えられる場合もあります。

フォトレジストがリソグラフィーにおいてどのような働きをするのか、リソグラフィーの仕組みとともに説明します。

リソグラフィーの仕組み

半導体のリソグラフィーは、「ウエハーに光を照射することで回路パターンを描く工程」です。リソグラフィーは、フォトレジスト塗布、露光、現像の3工程で構成されます。

フォトレジスト塗布工程

フォトレジスト塗布工程では、フォトレジストをウエハーに均一に塗布します。

フォトレジストには、基板への密着性適切な粘度などが求められます。

フォトレジスト塗布工程
(出典:Semi Journal

露光工程

露光工程は、マスクを通してウエハー上のフォトレジストに光を照射し、マスクの形状に回路を焼き付ける工程です。光が照射された部分だけ、フォトレジストが光反応して溶解性が変化します。例えばポジ型の場合、感光部のみ溶解性が増大し、続く現像で露光部が除去され、非露光部がパターンとして残ります。

フォトレジストは、光照射の有無によって現像液への溶解性が変化する材料です。

フォトレジスト露光工程
(出典:Semi Journal

フォトレジストは、露光による溶解性の変化の仕方によりポジ型ネガ型に分けられます。露光によって分解して現像液への溶解性が高くなるレジストがポジ型レジスト、露光によって分子同士が結合(架橋)して現像液への溶解性が低くなるレジストがネガ型レジストです。

ポジ型レジストとネガ型レジスト
(出典:Semi Journal

半導体製造ではポジ型フォトレジストが使用されることが多いですが、用途によってはネガ型フォトレジストが使用されることもあります。

現像工程

現像工程は、不要なレジストを溶解し、回路パターンを刻むためのマスクを形成する工程です。露光工程において露光部のレジストの溶解性が変化しているため、現像液で溶解するレジストを取り除きます。このとき残ったレジストは、その後のエッチング工程でのマスクの役割を果たします。

フォトレジストはエッチング工程で分解しない耐性があることが求められます。エッチング耐性を持たせるために、フォトレジストには芳香環や脂環式構造を持つ化合物が使用されます。

フォトレジスト現像工程
(出典:Semi Journalをもとに著者作成)

リソグラフィーの光源

半導体は、ウエハー上の配線パターンを微細化することで性能が向上します。そのため半導体では絶えず微細化が求められてきました。配線パターンは露光工程で決まり、露光工程の解像度(分解能)が高いほど細かいパターンを形成できます。解像度Rは以下のレイリーの式で表されます(R:解像度、λ:波長、k1:プロセス係数、NA:開口数)。

R = k1 × λ / NA

この式から、解像度を高める(Rの値を小さくする)ためには以下の3つの方法があることがわかります。この中で効果が大きいのはリソグラフィー光源の波長を短くすることです。

k1を下げるレジストの性能やマルチパターニング時の重ね合わせ誤差を改善することでk1が下がり、解像度が向上します。
開口数NAを高める開口数NAは以下の式で表され、光学レンズと媒体によって決まります(n:媒質の屈折率、θ:レンズの開口角)。
NA = n × sin θ nやθを大きくすると解像度が向上します。
波長λを短くする光源の波長を短くすると解像度が向上します。

これまで半導体業界では、露光装置の光源を短波長化して微細加工技術を進化させてきました。1980年台前半のg線(436 nm)から始まり、i線(365nm)、KrF線(248nm)、ArF線(193nm)、そして最新のEUV(13.5nm)へと進化してきました。

リソグラフィー露光光源量産開始年代 vs パターン寸法
(出典:東京エレクトロン TELESCOPE Magazine

フォトレジスト材料開発の歴史

半導体は回路の線幅が細いほど高性能になります。線幅を細くするため、時代とともにリソグラフィーの光源波長は短波長に変わってきました。リソグラフィーで用いる波長は1980年代に高圧水銀灯の発光線g線(436nm)が使われ、次にi線(365nm)が利用されました。その後、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)、EUV光源(13.5nm)と短波長化が進みました。

レジスト材料は、ベース樹脂、感光材料、溶媒、添加剤の組成物で、光源に適した材料系が開発されてきました。レジスト中のベース樹脂は、レジストを塗布して露光した際に光線が塗布膜の底部まで届くように、光源の波長を吸収しにくい化合物が使用されています。例えば、g線やi線で露光する場合はノボラック樹脂が使用されていましたが、KrF露光(248nm)になると248nmの光を吸収しやすいノボラック樹脂から、吸収が少ないポリヒドロキシスチレン(PHS)樹脂が使用されるようになりました。さらにArF露光になると193nmに吸収が少ないポリメタクリル酸樹脂が使用されるようになりました。各世代の代表的なフォトレジストのベース樹脂の吸収波長と光源の波長を下のチャートに示します。

リソグラフィー露光光源量産開始年代 vs レジストベース樹脂
(出典:日本ゴム協会誌, 2012, 85, 33-39
各世代の代表的なレジスト材料
各世代の代表的なレジスト材料

ポリ桂皮酸ビニルレジスト

初期のフォトレジストは、ポリ桂皮酸ビニルの光二量化反応を利用した、ネガ型パターンを形成するフォトレジストでした。ポリ桂皮酸ビニルレジストは、未露光部は反応しないため現像液(有機溶媒)に溶解しますが、露光部は光二量化反応により高分子同士が架橋して3次元網目構造を形成し、現像液に不溶となります。

ポリ桂皮酸ビニルレジストの露光反応

ゴム系レジスト

ポリ桂皮酸ビニルレジストの微細化が限界に近づくと、ポリイソプレンを環化させた環化ゴム系レジストが開発されました。環化ゴム系レジストのベース樹脂はポリイソプレンやポリブタジエンを環化させた環化ポリイソプレンや環化ポリブタジエンで、感光材料はビスアジド化合物でした。

ゴム系レジスト材料の一例

環化ゴム系レジストは、露光によりアジド基が分解してナイトレンとなり、これが環化ゴムの二重結合に付加反応して3次元網目構造を形成し、現像液(有機溶媒)に不溶となります。未露光部は反応しないため現像液へ溶解します。

ゴム系レジスト材料の露光反応

ゴム系レジストは耐酸性と耐アルカリ性が強い特徴がありましたが、架橋した露光部が現像工程で膨潤するため、微細化には限界がありました。

g線、i線レジスト

さらに微細化への要求が強まったため、光源の波長を短波長化し、ネガ型からポジ型に変更したg線、i線レジストが開発されました。ポジ型レジストの現像液には、アルカリ水溶液のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液が用いられます。代表的なg線(436nm)、i線(365nm)露光用のレジストは、ベース樹脂がノボラック樹脂、感光材料がジアゾナフトキノン化合物の組み合わせです。リソグラフィーのエッチング工程での耐性を持たせるため、芳香環を有する化合物が使用されています。

g線、i線レジスト材料の一例

ノボラック樹脂そのものはフェノール性水酸基の影響で現像液(アルカリ水溶液)に可溶です。しかし未露光部では、ノボラック樹脂とジアゾナフトキノン化合物の混合物は強い水素結合で架橋されて現像液への溶解性が低下します(下図A)。さらに現像工程では現像液中の塩基によってジアゾ基とフェノール水酸基が反応して架橋構造を形成し、現像液に不溶となります(下図B)。

一方、露光部では、ジアゾナフトキノン化合物はウルフ転移してケテンとなり(下図C)、さらに現像工程で水と反応してカルボン酸になります(下図D)。露光前のジアゾナフトキノン化合物は現像液(強アルカリ水溶液)に溶解しませんが、カルボン酸になると現像液に溶解するようになります。

このように非露光部は現像液に不溶、露光部は現像液に可溶となり、ノボラック樹脂/ジアゾナフトキノン系レジストはポジ型レジストとして働きます。

g線、i線レジスト材料の露光工程

KrFレジスト

さらなる微細化のためにKrFエキシマレーザー(248nm)が使用されることになりました。ノボラック樹脂/ジアゾナフトキノン系レジストでは248nmに強い吸収があるため、KrF光源を使用する場合はレジスト膜の底まで光が透過せず、パターン形状が悪化する問題がありました。また、KrF光源はi線と比較して光子の数が1/30に減少するため、従来のレジストではパターンを形成するための反応が不十分になる問題もありました。

これらの問題を解決するため、化学増幅型レジストが開発されました。化学増幅型レジストのベース樹脂は、ポリヒドロキシスチレンやポリメタクリル酸エステルで、アルカリ可溶性基のフェノールやカルボン酸の一部を酸分解性の保護基で修飾することにより、アルカリ現像液への溶解性を低減させた樹脂です。そして感光材料には、露光されると酸を発生するPAG(光酸発生剤)を使用します。

KrFレジスト材料の一例

KrFレジストの露光部分ではレジスト中のPAGが分解して強酸が発生します。その後のPEB(Post Exposure Bake)と呼ばれる加熱工程で、酸によって保護基が脱保護される反応とともに、脱保護反応によっても酸が発生し、1分子の酸が連鎖的に複数の保護基を脱保護します。このような仕組みで化学増幅型レジストはひとつの光子から複数の反応を引き起こすことができ、従来レジストと比較して高感度化しており、弱い光でもパターン形成が可能となっています。

KrFレジスト材料の露光工程

化学増幅型レジストでは水素イオンがベース樹脂の保護気を脱離させ、この脱離反応で再び水素イオンが発生し、連鎖的に脱保護反応が進行します。

KrFレジスト材料の化学増幅レジスト

ArFレジスト

KrFの次の世代のArF光源は波長が193nmで、ベンゼン環構造に吸収されます。そのためKrFレジストのベース樹脂であるポリヒドロキシスチレン構造はArFレジストでは使用できず、ArFレジスト用にベンゼン環を含まないベース樹脂が必要になりました。様々な検討の結果、193nmの光透過率が高いポリメタクリル酸エステル樹脂が用いられるようになりました。

ベース樹脂への要求特性のひとつに、リソグラフィーのエッチング工程での耐性があります。KrFレジストまではベース樹脂中はエッチング耐性のあるベンゼン環構造を有していました。ArFレジストではエッチング耐性を持たせるため、ベンゼン環構造に代わってアダマンタンなどの脂環式構造が用いられます。また、ベース樹脂は基板への密着性も必要で、極性官能基を有している構造が使用されています。

ArFレジスト材料の一例

ArFレジストも化学増幅型レジストです。露光部分でPAGが分解して発生した酸によって、保護基が脱保護される反応とともに、脱保護反応によっても酸が発生し、1分子の酸が連鎖的に複数の保護基を脱保護します。脱保護によってベース樹脂の現像液への溶解性が上がりますが、その後に続く現像工程でエステル部分が加水分解してさらに現像液への溶解性が上がります。

ArFレジスト材料の露光工程

EUV、EBレジスト

最新のリソグラフィー方式は波長13.5nmのEUV(Extreme Ultraviolet)光源を用います。また、半導体フォトマスク作製用マスクブランクス材料はEB(Electron Beam)リソグラフィーで製造されています。

EUV、EBレジストはその他光源の光化学反応ではなく放射線化学反応を利用するため、ベース樹脂の光透過率を高くする必要はありません。そのため、EUVレジストはKrFやArFレジストをベースに材料設計されています。ただし、EUVレジストには特有の課題があり、KrFやArFレジストをそのまま使用すればいいわけではありません。EUVレジストの課題は、高感度、高解像度、寸法制御性の向上です。

EUVやEBレジストの露光部での反応機構はArFレジストまでの光による酸発生剤の励起ではないことがわかっています。最初は露光によるベース樹脂のイオン化が起点となり、イオン化樹脂からの脱プロトン、樹脂のイオン化の際に生成した二次電子と酸発生剤との反応によるカウンターアニオン生成、プロトンとカウンターアニオンとの反応による酸の生成というプロセスで酸が発生します。

EUV、EBレジストの酸発生機構

EUVレジスト用材料はまだ各メーカーで開発している段階で様々な候補があり、有力な材料系が定まっていません。ArFレジストまではベース樹脂として高分子材料が用いられていましたが、現像過程の不均一性の改良を目的として低分子化合物を用いる低分子レジストが開発されています。ほかにも、Hf、Sn、Coなどの金属を用いたメタルレジストも開発されています。

分子レジストやメタルレジストは、高分子よりも分子サイズが小さく単分散のため現像溶解性が高くなり、解像度と寸法制御性(LER、Line Edge Roughness)を改善できると期待されています。

分子レジスト材料の一例
分子レジストの例
メタルレジスト材料の一例
メタルレジスト材料の一例

フォトレジストメーカーの世界シェア

フォトレジストは、JSR東京応化工業信越化学工業住友化学富士フィルムと日本の会社で90%以上のシェアを占めています。

2023年に最大手のJSRが政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)の傘下に入りました。他社を巻き込んだ再編によって強力なフォトレジストメーカーが誕生する可能性があります。

フォトレジスト
フォトレジスト全体の売り上げシェア(出典:電子デバイス新聞)



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フォトレジスト材料の評価方法は各社各様であるため標準的な方法というものがないため、それほど多くの著書はありません。大手のフォトレジストメーカーでは実際にシリコンウェハー上でリソグラフィー工程を実施する直接評価をしていますが、直接評価法では高額な露光装置や走査電子顕微鏡が必要です。これに対し、リソテックジャパン社では、長年にわたりシミュレーションを用いた感光性樹脂の評価方法を提案しています。この方法を間接評価法と呼びます。「フォトレジスト材料の評価」では、間接評価法の解説を中心に、リソグラフィーの基礎や、最新のフォトレジスト材料の評価方法が説明されています。レジスト開発の研究者におすすめです。

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