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オストワルト法とは?硝酸製造の反応式、触媒メカニズム、工業プロセスを徹底解説

オストワルト法(アイキャッチ) 情報

アンモニア(NH₃)から硝酸(HNO₃)を製造するオストワルト法は、1902年にドイツの化学者ヴィルヘルム・オストワルトが特許を取得し、触媒作用と化学平衡への貢献により1909年にノーベル化学賞を受賞したプロセスです。原料のアンモニアを供給するハーバー・ボシュ法(1913年工業化)と一体化することで、チリ硝石に頼らない硝酸の大量生産が可能になり、第一次世界大戦中の爆薬・肥料生産を支え、今日でも世界の化学工業の基盤のひとつとなっているプロセスです。

ノーベル賞メダル
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3ステップで理解するオストワルト法

オストワルト法は、アンモニア(NH₃)、空気中の酸素(O2)、水(H2O)というたった3つの原料から硝酸(HNO3)を製造する方法です。アンモニアはハーバー・ボッシュ法で製造されたものを使います。

Step 1:アンモニアの酸化

4NH3 ​+ 5O2 → 4NO + 6H2​O (式1)

アンモニア(NH₃)と空気中の酸素(O2)を混合し、白金–ロジウムガーゼ触媒を利用して約900 ℃で4~5気圧の圧力をかけて反応させ、一酸化窒素(NO)に変換します。この反応は強い発熱反応で、一度反応が始まると自らの熱で継続できるほどです。アンモニアから一酸化窒素への変換率は93〜98%に達し、工業触媒反応の中でも最高レベルです。

窒素の酸化数は -3(NH₃)→ +2(NO)へと5上昇します。

Step 2:NOの酸化

2NO + O2 → 2NO2 (式2)

​高温の一酸化窒素(NO)を冷却した後、空気中の酸素(O2)と反応させて二酸化窒素(NO2)に酸化します。この段階は触媒が不要で、低温ほど進みやすい反応です。NO₂は特徴的な褐色の気体です。

なお、低温ではNO₂が2つ結合した四酸化二窒素(N₂O₄)も生成します(2NO₂ ⇄ N₂O₄)。

窒素の酸化数は +2(NO)→ +4(NO2)へと2上昇します。

Step 3:NO2と水で硝酸生成

3NO2 + H2O → 2HNO3 + NO (式3)

二酸化窒素(NO2)を水(H2O)と接触させると硝酸(HNO3)が得られ、同時に一酸化窒素(NO)も生成します。生成したNOは回収してStep 2に戻し、再酸化します。こうして無駄なく硝酸を製造できます。

窒素の酸化数は +4(NO)→ +5(HNO3)へと1上昇します。

Step 3では反応器内で二酸化窒素を見ずに吸収させ続け、68%程度まで濃度を高めた硝酸を得ることができます。

全体の反応式

各ステップの反応式を組み合わせます。

(式1 + 式2×3 + 式3×2)/2を計算すると、中間体(NO、NO₂)が打ち消し合った式になります。

NH3 + 2O2 → HNO3 + H2O

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オストワルト法とルシャトリエの原理

反応温度

Step 1の反応は発熱反応です。ルシャトリエの原理の平衡論だけを考えれば低温ほど正反応側(生成物側)に有利です。

4NH3 ​+ 5O2 → 4NO + 6H2​O (式1)

しかしStep 1は高温にしなければ十分な反応速度を得られないため、約800〜900℃の高温で反応させます。平衡論を重視すれば低温が有利ですが、現実的な時間で反応させる速度論を重視すると高温が必要ということです。

ただし、Step 1で使用する白金–ロジウムガーゼ触媒が非常に優秀で、93〜98%の収率と選択性でアンモニアを一酸化窒素に酸化できます。

Step 2は低温ほど速く進む特殊な反応なので、この工程は積極的に冷やして反応させます。

圧力

式1~式3はすべて気体の分子数が減る反応です。つまりルシャトリエの原理によると圧力が高いほど反応は正方向(右側)に偏ります。そのためオストワルト法では全工程で4~12気圧程度に加圧して反応させています。

オストワルト法の触媒

白金ロジウムガーゼ触媒

オストワルト法では、5%~10 %のロジウムを添加した白金を線径約75µmの細い金属線とし、網目状に織った白金ロジウムガーゼ触媒が使用されます。1024メッシュ/cm²、比表面積は約1 m²/gという細かく織られたガーゼ触媒を5〜30枚積層して使用します。

ロジウムは触媒の高温での機械的強度と一酸化窒素の生成量を増やすために添加されます。

白金ロジウムガーゼ触媒
白金ロジウムガーゼ触媒の走査型電子顕微鏡写真(100倍に拡大)
(出典:Ullumann‘s Encyclopedia of Industrial Chemistry)

触媒表面では、NH₃を消費する複数の副反応が発生します。

4NH₃ + 5O₂ → 4NO + 6H₂O〇 目的反応
4NH₃ + 3O₂ → 2N₂ + 6H₂O× 副反応
4NH₃ + 4O₂ → 2N₂O + 6H₂O× 副反応
4NH3 + 6NO → 5N2 + 6H2O× 副反応

約900℃では、アンモニアと酸素の混合ガスが触媒に接触してから最初の約1ミリ秒は目的反応の一酸化窒素(NO)が主に生成しますが、その後はアンモニアと酸素は窒素(N₂)や一酸化二窒素(N2O)へ返還される副反応が増え始めます。そこで、短時間で混合ガスを通過させることができる、白金ロジウムガーゼ触媒を用い、滞留時間を1ミリ秒未満に抑えます。この工夫により、N₂やN₂Oへの副反応を約5%以下に抑えつつ、目的のNOを95%超の収率で生成させます。

反応温度が約900℃の時に、アンモニアから一酸化窒素への転嫁率が最大となります。

オストワルト法Step1の反応温度と転化率の関係
オストワルト法Step1の反応温度と転化率の関係
(出典:Ullumann‘s Encyclopedia of Industrial Chemistry)

また、白金ロジウムガーゼ触媒中のロジウム比率が10%~20%でアンモニアから一酸化窒素への転嫁率が最大となり、ロジウム比率が20%程度までなら増えるほど触媒の機械的強度が高くなります。

オストワルト法Step1の白金ロジウム比率と転化率の関係
オストワルト法Step1の白金ロジウム比率と転化率の関係
(出典:Ullumann‘s Encyclopedia of Industrial Chemistry)

オストワルト法の触媒メカニズム

高真空下の実験では、白金触媒上でヒドロキシルアミン(NH₂OH)と亜硝酸(HNO₂)が中間生成物として検出されました。また、触媒表面上には分子状酸素と原子状酸素の両方が確認されています。

そこから推定されるオストワルト法の触媒メカニズムは、ラングミュア・ヒンシェルウッド(Langmuir–Hinshelwood)型の表面反応モデルとして説明されます。不均一触媒表面上において、気相から固体表面に吸着した2つの分子(または原子)同士が反応し、生成物となって脱離するメカニズムです。

  1. O2(気体) → O2(吸着)
  2. O2(吸着) → 2O(吸着)
  3. NH3(気体) → NH3(吸着)
  4. O(吸着) + NH3(吸着) → NH2OH(吸着)
  5. NH2OH(吸着) + O2 → HNO2(吸着) + H2O
  6. HNO2(吸着) → NO + OH(吸着)
  7. 2OH(吸着) → H2O + O(吸着)

白金ロジウムガーゼ触媒のカリフラワー化

過酷条件下で白金ロジウムガーゼ触媒の表面がカリフラワー状の隆起を形成して劣化します。カリフラワー化は数日で発生し、比表面積は10〜20倍に増加します。触媒は50〜300日で交換されます。

Johnson Mattheyによれば、発生源は粒界などの表面欠陥近傍で、発熱反応による局所高温が表面金属酸化物(PtO2、RhO2)の蒸発を促進し、気化した金属種が触媒表面のわずかに低温の領域に移動・凝縮して新しい結晶を成長させます(Johnson Matthey Technology Review)。

白金ロジウムガーゼ触媒のカリフラワー化
白金ロジウムガーゼ触媒の使用前(左)と劣化後(右)の走査型電子顕微鏡写真(100倍に拡大)
(出典:Ullumann‘s Encyclopedia of Industrial Chemistry)
白金ロジウムガーゼ触媒の劣化拡大図
カリフラワー化した触媒の走査型電子顕微鏡写真
(出典:Catalysts)

カリフラワー化によって、表面積と活性Ptサイト数が大幅に増加することで触媒性能は向上します。しかし、カリフラワー化後の触媒は新品ワイヤより機械的に脆く、カリフラワー構造部分が剥離・損傷しやすくなります。

触媒中の白金は過酷条件下で蒸発して消失します。酸1トンあたり約0.1〜0.3g消失しますが、反応器の下流に捕集器を設置し、揮発性白金の約80%を回収します。

オストワルト法の工業プロセス

工業プロセス概要

原料の液体アンモニアは、気化させた後、予熱器で加熱され、混合器に送られます。(原料のアンモニアは、バーバー・ボッシュ法で得られたものを使用するのが一般的です)

空気は圧縮機で圧縮された後、熱交換器で加熱され、混合器に送られます。

空気とアンモニアは混合器で混合された後、アンモニア酸化反応器に送られます。反応器では、白金ロジウムガーゼ触媒表面でアンモニアと酸素が反応して一酸化窒素が生成します。この段階の標準的な反応条件は温度約900℃、圧力4~5気圧です。

4NH3 ​+ 5O2 → 4NO + 6H2​O (式1)

反応器から出たガスは700~1000℃の高温であり、次工程では冷やす必要があるため、良好な熱源として利用されます。この熱源は、圧縮空気の加熱、スチーム生成、排ガスの加熱などに利用されます。

反応後の一酸化窒素と空気の混合ガスは熱源として利用される過程で冷えてゆき、最終的に冷却器で約150℃に冷却されて吸収塔の下部へ送られます。式2の反応は低温ほど進みやすく、冷却される過程で一酸化窒素は二酸化窒素に酸化されてゆきます。

2NO + O2 → 2NO2 (式2)

プロセスガス中に微量に含まれる水はこの冷却器で凝縮してガスと分離します。分離した水には二酸化窒素が溶けて希硝酸となっているため、吸収塔に供給して利用します。

吸収塔では、下から二酸化窒素を含む混合ガスが供給され、上からは水が連続的に供給され、二酸化窒素ガスと水を反応させます。副生する一酸化窒素は混合ガス中の酸素で二酸化窒素に酸化され(式2の反応)、再び式3の反応で硝酸に変換されます。

3NO2 + H2O → 2HNO3 + NO (式3)

吸収塔としては不規則充填物を詰めた充填塔や棚段塔が使用され、下から供給される二酸化窒素ガスが上から供給される水に効率よく吸収されるようにしています。この吸収塔内で一酸化窒素が二酸化窒素に酸化される反応と、二酸化窒素が水に吸収されて硝酸が生成する反応が同時に進行します。

吸収塔では4~12気圧の圧力がかけられます。ひとつめの理由は、式2や式3は気体の分子数が減る反応で、ルシャトリエの原理より高圧ほど反応が促進されるためです。ふたつ目の理由は、高圧であるほど気体が水に吸収されやすく、反応を促進できるためです。

吸収塔から排出される硝酸の濃度が68%になるように、水の供給速度が調節されます。

オストワルト法の工業プロセス

吸収塔内での複雑な窒素酸化物の反応

オストワルト法はシンプルに記述すると式1~式3の反応ですが、実際はほかにも40種類程度の複雑な窒素酸化物の反応が知られています。

  • 4NH3 ​+ 5O2 → 4NO + 6H2​O (式1)
  • 2NO + O2 → 2NO2 (式2)
  • 3NO2 + H2O → 2HNO3 + NO (式3)

その他の主な反応

  • 2NO₂ ⇄ N₂O₄
  • N₂O₄ + H₂O → HNO₂ + HNO₃
  • 3HNO₂ → HNO₃ + H₂O + 2NO
  • 4NO2 + O2 + 2H2O → 4HNO3
オストワルト法の吸収党内の窒素酸化物の反応
オストワルト法の吸収党内の窒素酸化物の反応
(出典:Ullumann‘s Encyclopedia of Industrial Chemistry)

オストワルト法の環境対策

オストワルト法ではアンモニアの燃焼の際の副生成物として亜酸化窒素(N2O)が微量に発生します。亜酸化窒素は二酸化炭素の265倍も強力な温室効果ガスです。亜酸化窒素をそのまま大気に放出させないようにするため、触媒床の下流に鉄ゼオライトやコバルト・セリウム・アルミニウム混合酸化物などの亜酸化窒素除去触媒を設置し、90〜99%の効率で分解・無害化する技術が標準装備されています。

オストワルト法のまとめ

  • 3ステップでわかる製造プロセス:アンモニアの酸化(式1)、NOの酸化(式2)、水との反応による硝酸生成(式3)の3ステップで効率よく硝酸を製造します。
  • 白金ロジウムガーゼ触媒の重要性:約900℃の高温で滞留時間を1ミリ秒未満に抑え、副反応を防ぎながら高い転化率を実現しています。触媒メカニズムに加えて劣化現象(カリフラワー化)についても詳しく説明しました。
  • ルシャトリエの原理と条件最適化:反応速度を重視する高温(Step 1)と、平衡や吸収を有利にする低温・高圧(Step 2・吸収塔)を使い分けています。
  • 工業プロセス:反応熱の有効利用、九州塔での効率的なガス吸収など工夫された工業プロセスとなっています。

主な参考資料

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