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鈴木-宮浦カップリングの10件の「副反応」と「副生成物」

クロスカップリング

鈴木-宮浦クロスカップリング反応をしたとき、目的の生成物以外に、副反応によって想定していない化合物が生成することがあります。

一通りの副反応を知っておくと、副反応生成物が何かを同定できたり、副反応を抑制する反応条件に変更できたり、実験するうえで役に立ちます。

この記事では10件の副反応を紹介します。

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酸素によるホウ素化合物のヒドロキシル化とホウ素化合物のホモカップリング

通常の鈴木-宮浦カップリングは、空気中の酸素で触媒が失活するのを避けるため、窒素雰囲気下で反応させます。触媒が失活しない程度の微量の酸素があった場合、酸素によるホウ素化合物のヒドロキシル化とホウ素化合物のホモカップリングによる副反応が起きます。

この副反応は触媒的に進行するため、酸素が多いほど副生成物が発生します。

酸素によるホウ素化合物のヒドロキシル化とホウ素化合物のホモカップリング
J. Am. Chem. Soc., 2006, 128, 6829–6836.
J. Org. Chem., 1996, 61, 2346–2351.
J. Polym. Sci. Polym. Chem., 2006, 44, 2130.

過酸化物によるホウ素化合物のヒドロキシル化

過酸化物があった場合、ホウ素化合物のヒドロキシル化副反応がおきます。

ホウ素化合物のヒドロキシル化
けむさん
けむさん

古くなったTHFなどの溶媒には過酸化物が含まれているので、この副反応が起きることがあるよ

アリールハロゲン化合物とホスフィン配位子中のアリール基との交換反応

アリールハロゲン化合物とパラジウム錯体との酸化的付加体から、ホスホニウムイオンが解離したのちに再付加する場合に、ホスホニウム塩上でアリール基がスクランブルして図中のArとAr’が交換してしまう副反応です。

論文中には、この副反応を抑制する4つの方法が説明されています。

  • 触媒量を減らす
  • Ar、Ar’ のオルト位に置換基を入れてかさ高くする
  • Ar、Ar’ に電子吸引性置換基を入れる
  • 非極性溶媒を使用する
アリールハロゲン化合物とホスフィン配位子中のアリール基との交換反応
J. Am. Chem. Soc, 1997, 119, 12441

ホウ素化合物のホモカップリング

Pd(II)がホウ素化合物と2回トランスメタル化したのちに、ホウ素化合物のホモカップリング体が還元的脱離する副反応です。

これはPd(II)から触媒活性種であるPd(0)の発生機構のひとつでもあります。

ホウ素化合物のホモカップリング

アリールハロゲン化合物のホモカップリング

トランスメタル化が遅い場合、アリールハロゲン化合物のホモカップリングが相対的に起きやすくなります。

電子不足で求核性が低いホウ素化合物の場合などで起きやすい副反応です。

アリールハロゲン化合物のホモカップリング
Synlett, 2002, 637
Organometallics, 2000, 19, 458

ホウ素化合物の脱ホウ素化水素化(Protodeboronation)

塩基中でホウ素化合物とヒドロキシルアニオンが反応して進行する副反応です。

オルトヘテロアリールや電子不足な芳香環などの不安定なボロン酸を使った場合や、反応速度が遅い場合に、この副反応が相対的に多くなります。

ホウ素化合物の脱ホウ素化水素化(Protodeboronation)
Can. J. Chem., 1963, 41, 3081–3090.
J. Am. Chem. Soc, 2016, 138, 9145.
J. Am. Chem. Soc, 2017, 139, 13156.

アリールハロゲン化合物の脱ハロゲン化水素化(Hydrodehalogenation)

β水素を持つアルコール、アミン、アミド、ケトン、エーテルなどは、β水素脱離によって生成するヒドリド錯体を経由した、アリールハロゲン化合物の脱ハロゲン水素化が起きることがあります。

かさ高いホスフィン配位子を使うとこの副反応は抑制されます。

溶媒では、DMF、NMP、DOX、DMEでこの副反応が起こりますが、THF、トルエンではこの副反応は起きません。

アリールハロゲン化合物の脱ハロゲン化水素化(Hydrodehalogenation)
Tetrahedron Lett., 1999, 40, 8837
Tetrahedron Lett., 2000, 41, 2875
J. Am. Chem. Soc, 1996, 118, 3626
Organometallics 2013, 32, 19, 5428

アリールハロゲン化合物のオルト置換基の環化

アリールハロゲン化合物にパラジウム錯体が酸化的付加した際に、パラジウムを含む5員環を形成できる構造では、パラジウム錯体がC-H結合に酸化的付加して5員環へ環化する場合があります。この副反応では環構造を持つ化合物が生成します。

アリールハロゲン化合物のオルト置換基の環化
Org. Lett., 2004, 6, 1159

Catellani反応による環化

ノルボルネン存在下ではCatellani反応による環化反応が起きる場合があります。

Catellani反応による環化
J. Organomet. Chem., 1985, 286, C13

ヘックカップリングとの競合

オレフィン構造を持つ基質で鈴木-宮浦カップリングをした場合、鈴木-宮浦カップリングとヘックカップリングが競争的に進行してヘックカップリング生成物もできてしまいます。

できることならヘックカップリングと競合しない合成ルートに変更したほうがいいです。変更できない場合は、塩基濃度が高いと鈴木-宮浦カップリングが優勢で、塩基濃度が低いとヘックカップリングが優勢になることを利用して、望みの生成物の量を増やすことができます。

ヘックカップリングとの競合

まとめ

鈴木-宮浦カップリングの10件の「副反応」を紹介しました。

反応系中に、酸素、過酸化物、求核性が低いホウ素化合物、不安定なボロン酸、β水素を持つアルコール等、ノルボルネン、オレフィン構造があると、副反応が起きる可能性があります。

副反応について知っておくと、実際に鈴木-宮浦カップリングの実験の解析や合成条件の改善に役立ちます。

関連書籍

クロスカップリング反応は、日本の学術研究者が率先して発展させた反応技術で、産業界でも活発に利用されています。例えば有機ファイン製品(医薬、電子材料等)の合成手法として、急速に普及しており、現在、欠かせない技術となっています。本書では基礎と応用を分かり易く紹介。監修者はノーベル化学賞受賞者の鈴木章博士。



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