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メタルレジストとは? 原理・メカニズムや、メタルレジストの具体例を紹介

メタルレジスト フォトレジスト

フォトレジストは、マトリックス組成物に応じて有機系と無機系に分類できます。従来は主に有機系フォトレジストが使用されてきましたが、有機系フォトレジストには、EUV光源に対する吸収効率が低いエッチングに対する耐性が低い機械的強度が低いLERが悪いといった欠点がありました。これらの課題を解決するため、無機系のメタルレジストが開発されました。

この記事では、メタルレジストと有機系フォトレジストの比較、メタルレジストの原理・メカニズムや、メタルレジストの具体例を紹介します。

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メタルレジストと有機系フォトレジストの比較

メタルレジストはEUV技術の課題[1]への対策として開発されたEUV用のフォトレジストです。

メタルレジストは、一般的にHf、Zr、Zn、Snなどの金属ナノクラスターを有機化合物で表面修飾した材料で、その直径はおよそ1~3nmです。

メタルレジスト
メタルレジストの一例

EUVリソグラフィーにおいて、メタルレジストは従来の有機系フォトレジストと比較して、感度LER機械的強度エッチング耐性に優れています。

 メタルレジスト有機系フォトレジスト
感度高い低い
LER良い悪い
機械的強度高い低い
エッチング耐性高い低い

感度

フォトレジストと光の吸収

フォトレジストは用途によって数nmから数十μmまでさまざまな膜厚で製膜されます。リソグラフィー工程では光をフォトレジスト薄膜の底部まで届かせるために、フォトレジストには光を透過させる性質が求められます。一方で、フォトレジストは光を吸収して反応するため、少ない光でも反応する高感度のフォトレジストを作ろうとすると、光を吸収しやすくする必要があります。フォトレジストは露光光源や用途によって、光の透過性と光の吸収性のバランスをとった材料開発がされてきました。

金属原子はEUV光への感度が高い

13.5nmの光子エネルギーは約92eVで、これはフォトレジストを構成する原子のイオン化ポテンシャルを上回っており、すべての原子がEUV光を吸収します。ただし、光電子放出断面積として表されるEUV光の吸収しやすさは原子により大きく異なります[2]。

EUV光電子放出断面積
出典:関連文献[2] EUV光電子放出断面積

有機系フォトレジストに含まれる原子は、主に炭素、酸素、水素です。炭素原子や酸素原子はEUV光を吸収しますが、有機系フォトレジストはEUV光に対して十分に透過率が高いことがわかりました[3]。逆に、従来一般的であった有機系フォトレジストは吸光度が低すぎ、感度が低くなってしまいます。フォトレジスト材料に光電子放出断面積の高い金属原子を使用することで、高感度にすることができます[4]。

LER

LER(Line Edge Roughness)とは、半導体回路のパターンのエッジのギザギザの形状のことです。LERが大きいと半導体の電気特性に悪影響を与えます。

フォトレジストの粒子径が小さく(1~3nm)、均一性の高いメタルレジストは、LERが小さくなり、解像度が高くなると期待できます。

感光プロセスの観点では、有機系フォトレジストで一般的な化学増幅型レジストに含まれる光酸発生剤は、高解像度用途においてパターン粗さにつながる可能性が指摘されています[5]。一方で、非化学増幅型レジストであるメタルレジストは、高解像度用途では化学増幅型レジストよりも優れていると予測されています[6-7]。

LER (Line Edge Roughness)

半導体のパターンが微細化されるほど、パターンのエッジのギザギザが電気特性に与える影響が大きくなり問題となっています。このギザギザのことを、LER(Line Edge Roughness)と呼んでいます。LERの原因は色々ありますが、中でもフォトレジスト中の高分子化合物が問題と言われています。LERは、レジストパターンのSEM画像からラインエッジ位置の正規分布を作成し、その標準偏差σの3倍として定義されます。

Line Edge Roughness

機械的強度

フォトレジストは露光工程でマスクパターンに従って溶解部と不溶部が形成され、続く現像工程で溶解部が現像液で洗い流されます。現像後に残る不溶部の3次元構造は、半導体回路の微細化が進むにつれてアスペクト比(h/d)が大きくなります。しかし、アスペクト比が大きすぎると不溶部の3次元構造の強度が不十分になり、現像液の表面張力によってパターンが崩壊しやすくなります。

特に有機系フォトレジストでは、線幅が20nm未満の場合にパターンの破断、曲がり、ラインの折り畳み、剥離、基板からのパターンの剥離などのパターンの崩壊が発生することが問題になっていますす[7-8]。

フォトレジストパターンのアスペクト比と現像液の表面張力によるパターンの崩壊のイメージ図。
フォトレジストパターンのアスペクト比と現像液の表面張力によるパターンの崩壊のイメージ図。

メタルレジストは機械的強度が高く、パターン崩壊が起こりにくい利点があります。

エッチング耐性

有機系フォトレジストは密度が低い傾向があり、エッチング耐性、特にドライエッチング耐性が低い傾向があります。

一方で、メタルレジストは金属のためエッチング耐性があります。

メタルレジストは、エッチング耐性があるためにレジスト膜厚を薄くすることができます。膜厚を薄くしてアスペクト比(h/d)が小さくなることでパターン崩壊のリスクを下げることもできます。

メタルレジストの原理・メカニズム

メタルレジストはその種類によっていくつのメカニズムがあります。

無機コア凝集型

露光によって金属ナノ粒子がいくつかの配位子を失い、凝集してM–O–M化学結合を持つ不溶性の酸化物凝集体を形成することでネガ型レジストとして働くメカニズムがあります。例えばHfOxナノ粒子に酸配位子が表面修飾されたメタルレジストでは、露光によってはいくつかの酸配位子が脱離し、M–O–M結合を形成して不溶性の酸化物凝集体を形成します[9]。

メタルレジストのメカニズム_配位子脱離と凝集
メタルレジストのメカニズム_配位子脱離と凝集

配位子置換型

露光によってPAGから放出された酸が表面修飾していた酸配位子と置換して、現像液への溶解性が変化することでネガ型レジストとして働くメカニズムがあります。例えば、表面をMMAで修飾したZrO2コアとPAGのメタルレジストに露光してトリフルオロメタンスルホン酸を発生させ、MMAとトリフルオロメタンスルホン酸を配位子置換させます[10]。

メタルレジストのメカニズム_配位子置換
メタルレジストのメカニズム_配位子置換

メタルレジストの具体例

メタルレジストは、無機コアの表面を有機配位子が修飾した構造が一般的です。無機コアの組成によってEUV光の吸収特性が決まり、表面の有機リガンドの種類によって露光後の光化学反応が決まります。ここでは金属種によって分類してメタルレジストの具体例を紹介します。

Hf、Zr、Ti

Hf、Zrは、適切なEUV吸収を持つ理想的な元素です[2]。Oberのグループは、ジメチルアクリル酸(DMA)、メタクリル酸(MAA)、安息香酸(BA)で表面修飾したHfO2およびZrO2ナノ粒子を使用したメタルレジストを発表しました[11-14]。

HfO2およびZrO2ナノ粒子を使用したメタルレジストは、酸の存在下でのハフニウムイソプロポキシドと対応する酸をTHF中で反応させ、水を添加して析出させて合成されました。ナノ粒子のサイズは1〜3nmであり、20nm未満のリソグラフィーに適しています。

3種のメタルレジストの光感度には明らかな違いがあり、それぞれ2.2mJ/cm2(HfDMA)、4.2mJ/cm2(HfMAA)、15mJ/cm2(HfBA)でした。表面修飾した酸配位子はUV感度に強い影響を与えます。金属ナノ粒子と酸配位子との相互作用が弱い組み合わせでは酸配位子が脱離しやすくなり感度が高くなります。

メタルレジストは露光によって金属ナノ粒子の表面から少量の酸配位子が脱離し、その結果金属ナノ粒子の表面電荷が変化し、金属ナノ粒子が凝集して粒子サイズが大きくなります[20]。粒子サイズが大きくなると、現像液(有機溶媒)への溶解度と溶解速度が低下します。こうして露光部の溶解度が低下するネガ型レジストとして働きます。

Chem. Mater. 2015, 27, 14, 5027–5031
出典:関連文献[14]

鳥海のグループは、メタクリル酸(MAA)配位子で表面修飾された酸化ジルコニウム(ZrOx)および酸化チタン(TiOx)のメタルレジストの粒子形態を分析しました[15]。ZrOx-MAA中のZrOxコアは分散性が優れていることがわかりましたが、TiOx-MAA中のTiOxコアは凝集しやすいことがわかりました。これは、ZrOxナノ粒子と配位子分子間の相互作用が強く、対照的に、MAAとTiOxはナノ粒子同士の相互作用が強いためです。また、ZrOx-MAAフォトレジストは露光後にMAA配位子の一部が分解し、EUV処理後にZr原子の電子密度が増加しました。

ZrMMA
ZrOx-MAA

Keszlerのグループは、Hf(OH)4–2x−2y(O2)x(SO4)y·qH2Oを用いたメタルレジストを報告しました[16]。Hf(OH)4–2x−2y(O2)x(SO4)y·qH2Oは、HfOCl2·8H2OとH2O2、H2SO4、純水から調製されました。Hfナノ粒子に過酸化物と硫酸塩が結合すると、縮合反応が抑制されます。このメタルレジストは露光されるとペルオキソ基のO-O結合が解離し、縮合反応が起こり、露光領域での溶解度が低下します[17]。TMAHでの現像工程では硫酸塩が中和されて抽出され、酸素原子はヒドロキシル配位子Hf-OHは縮合して不溶性のハフニウム酸化物HfOxに変化し(オレーション)、さらに溶解度が低下します。

ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 4, 2917
出典:関連文献[16]

オレーション

オレーションとは、金属イオンが水溶液中で高分子酸化物を形成するプロセスです。(Wikipedia

Zn

SopperaとZanのグループは、亜鉛オキソクラスターを使用したメタルレジストを報告しました[18]。亜鉛オキソクラスターは、メタクリル酸亜鉛粉末に、エタノール、メタクリル酸、HCl水溶液、エタノールアミンを加えて調整され、サイズは約2.5nmでした。亜鉛オキソクラスターは、露光されると表面のメタクリル酸がOHに置換され、クラスター同士で架橋凝集が起こります[19]。

現像液にはエタノール、1-プロパノール、2-メトキシエタノール、シクロヘキサノンなど極性の有機溶媒が使用されます。一般に、イオン性化合物を溶解する能力は溶媒の誘電率に比例し、現像液の種類によってパターン形状に差が出ることがあります。この論文の亜鉛オキソクラスターに対しては、1-プロパノールが最適でした。

加水分解・脱水反応による酸化亜鉛クラスターの形成
出典:関連文献[18] 加水分解・脱水反応による酸化亜鉛クラスターの形成
酸化亜鉛クラスターが架橋する模式図
出典:関連文献[18]  酸化亜鉛クラスターが架橋する模式図

Oberらグループは、MOFs(Metal–organic frameworks)構造にヒントを得て、EUVリソグラフィー用亜鉛クラスターZn-BAとZn-mTAを設計しました[20]。Zn-BAは結晶性が高くフォトレジスト材料に不適でしたが、Zn-mTAはフォトレジストに使用することができました。Zn-mTAは粒子サイズが小さく、均一な構造で、EUV露光によって高解像度(15nm)でパターンを形成することができました。

Zn2(CO2)4から構築されたMOFs
出典:関連文献[20] (a) フェニレンで結合したZn2(CO2)4から構築されたMOFs。(b) Zn-BA。(c) Zn-mTA。(d) Zn-mTAから製造された15nmのラインアンドスペースの高密度パターン。

Sn

Brainardのグループは、EUV下でのスズオキソクラスター[(BuSn)12O14(OH)6][CH3C6H4SO3]2のリソグラフィー性能を報告しました[21]。スズオキソクラスターは吸収率が高く粒子サイズが小さく感度が高いため、高解像度のパターンを形成できることが期待されます。Sn元素によるEUV光子の吸収密度は炭素の10.5倍高く、EUV光子をより有効に活用できます。スズオキソクラスターはHfO2ナノ粒子よりも小さく均一であるため、理論的には解像度とLERが優れています。EUV照射によりスズクラスターの表面にある有機配位子が脱離し、クラスターが凝集して現像液への溶解度が低下し、ネガ型フォトレジストの性能を示します。

スズオキソクラスターフォトレジスト
出典:関連文献[21]

有機スズクラスター化学は1920年代初頭から広く研究されており、さまざまなクラスター種が存在します。Johnsonのグループは、以下の3種の有機スズ化合物について電子線への反応挙動を調べました[22]。電子照射により、Sn-C結合が切断されてブチル基や酸配位子が脱離し、続いてクラスター間で架橋してSn-O-Snネットワークを形成します。

パターン形成の最初のステップは配位子の脱離です。Football Cluster 1の酸配位子はカウンターアニオンとして弱く結合し、Drum Cluster 2の酸配位子は二座廃位で強く結合しています。Monometallic Compound 3の酸配位子の結合は12の中間です。そのため酸配位子の結合強度の観点では、感度の傾向は1>3>2となります。

パターン形成の2番目のステップは、無機コアの架橋による凝縮です。事前にSn-O-Sn結合ネットワークが形成されているほど、現像液に不溶化させるための架橋回数が少なくなるため、感度が高くなります。架橋回数の観点では、感度の傾向は1>2>3となります。

感度のデータをとると、酸配位子の結合強度と架橋回数の観点を総合した結果となり、1の感度が最も高く、23の感度は近い水準でした。

Chem. Mater. 2019, 31, 13, 4840
出典:関連文献[22]

Impria社はスズベースのフォトレジストを開発しています[23]。フォトレジストの配合は、EUV光子の吸収を最適化し、レジストが十分な光透過率を持ち、EUV光子の吸収を最大化しながらEUVがフォトレジストの底部と相互作用できるようにするように調整されました。フォトレジストの詳細な配合は論文には記載されていませんでした。

Al

Namのグループは、アルミニウムを含む有機-無機ハイブリッドポジ型フォトレジストを報告しました[24]。基板上にPMMA(ポリメチルメタクリレート)フィルムをスピンコートした後、トリメチルアルミニウム(TMA)をフィルムに注入し、次に蒸気を導入してTMAを酸化アルミニウム(AlOx)に変換しました。この複合フォトレジストは、電子ビームリソグラフィーに適用できました。

Mater. Chem. C, 2019, 7, 8803
出典:関連文献[24]

Sb、Sn、Bi

Brainardのグループは、EUVリソグラフィーのネガ型フォトレジストとして使用できる有機金属カルボン酸化合物[RnM(O2CR′)2]を開発しました[25-26]。フォトレジストの主要分子の置換基R、金属元素(Sb、Sn、Bi)、およびカルボン酸(アクリレート、メタクリレート、スチレンカルボキシレートなど)の構造を変更することにより、EUVリソグラフィー用の一連の化合物の性能をスクリーニングしました。最も感度の高いフォトレジストは、重合可能なオレフィン二重結合を含む配位子を持つSb錯体でした。このメタルレジストは露光領域で二重結合が重合してネガ型レジストとして働くと考えられます。

J. Photopolym. Sci. Technol., 2021, 34, 117
出典:関連文献[26]

まとめ

この記事では、メタルレジストの開発の背景、メタルレジストと有機系フォトレジストの比較、メタルレジストのメカニズム、メタルレジストの具体例を紹介しました。

メタルレジストでは、無機コアによってEUV光源に対する吸収特性が決まり、表面の有機リガンドによって露光後に発生する光化学変換が決まります。超小型(2~3nm)で均一性の高い無機コアは、リソグラフィーの解像度とLERに役立ちます。無機コアと表面有機リガンドを変更することで、様々な特性のメタルレジストを設計することができ、解像度、感度、LERのトレードオフの改善が期待できます。



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