半導体産業は今後も伸び続けると予想されています。そんな半導体産業ですが、実は日本の化学メーカーは半導体の製造に使用する半導体材料で高いシェアを持っています。特に、マスクブランクス、シリコンウェハー、スパッタターゲット、フォトレジストは日本の化学メーカーが50%以上のシェアを持つ材料です。
この記事では、半導体材料の一覧と、各材料でシェアの高い化学メーカーを紹介します。
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半導体材料とは
半導体を製造するために使用する材料を半導体材料と呼びます。半導体の製造には数多くのプロセスがあり、半導体材料も多くの種類があります。半導体製造プロセスと、各工程で使用する半導体材料を一覧表にしました。
半導体製造プロセスや半導体産業の全体像はこの記事では書ききれないため、興味のある方は下の項目「半導体産業を知るためには」をご覧ください。
半導体材料と主要メーカー
半導体材料ごとに主要メーカーを紹介します。
マスクブランクス
マスクブランクスは、石英基板上に金属膜と感光膜をコーティングしたものです。 これに回路パターンを形成するとフォトマスクになります。
EUV用マスクブランクスはHOYAとAGC、その他光源用のマスクブランクスはHOYAと信越化学工業のシェアが高いです。
フォトマスク
フォトマスクは露光工程で使用されるパターンをマスクブランクスに形成したものです。フォトレジストにパターンを転写するための材料です。フォトマスクのパターンはクロムなどにより形成されています。さらに詳しい説明はこちら(Wikipedia)。
フォトマスクは、半導体メーカーが内製することが多く、TSMCやサムスンは基本的に自社で製造します。外販フォトマスクの中では、トッパンフォトマスク、フォトロニクス、大日本印刷が高いシェアを占めています。その他にも、HOYA、日本フイルコン、SKエレクトロニクスが知られています。半導体メーカーの中でも、ラピダスはEUVフォトマスクを内製せず外部購入する
ペリクル
ペリクルは、異物がフォトマスクの回路パターン面へ直接付着するのを防ぐために使用する保護膜です。マスクから離れた位置に異物があっても、ウエハー上では焦点を結ばないので欠陥になりません。また、傷やホコリを付きにくくする機能があり、フォトマスクの検査・交換頻度を抑制し露光工程の生産性を向上できます。
ペリクルの主要メーカーは、三井化学、信越化学、AGC、FINE SEMITECH、NEPCO、S&S Tech、Canatuです。
三井化学は旭化成からペリクル事業を取得し、EUV露光装置メーカーのASMLからライセンスを受けて量産するなど、ペリクル事業に力を入れています。
多結晶シリコン
多結晶シリコンはシリコンウェハーをつくる原料で、高純度のケイ素です。ケイ石を還元して金属シリコンとし、金属シリコンを精製して多結晶シリコンを製造します。
多結晶シリコンの有力企業はトクヤマで、2022年の世界シェアは20%です(出典:ちばぎん証券)。少し古い2005年のデータですが、その他メーカーの世界シェアを下に示します。
シリコンウェハー
シリコンウェハー(ウェーハ、ウエハとも言う)は、多結晶シリコンを原料としてCz法(Wikipedia)で製造した単結晶シリコンを、厚さ1 mm程度に切断して作られます。
シリコンウェハーは、信越化学工業、SUMCO、グローバルウェーハズ、シルトロニック、SKシルトロンの5社で寡占されています。
各種高純度ガス
半導体製造プロセスの各工程でさまざまな高純度ガスが使用されます。
高純度ガスも日本のメーカーが強いです。代表的なメーカーを紹介します。
- ADEKA
- SKマテリアルズ(韓国)
- エア・ウォーター
- エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(アメリカ)
- エア・リキード(フランス)
- 関東電化工業
- 住友精化
- セントラル硝子
- ダイキン
- 日本酸素
- トリケミカル研究所
- 日本ゼオン
- フォーサング(韓国)
- 三井化学
- レゾナック
エッチング工程の特殊ガスで世界シェア約5割の関東電化工業はフッ素系のエッチングガスに代わる代替品を開発しています。この代替品を使用することで、エッチング後の排ガスの排出量がCO2換算で半減すると言われています。半導体および半導体を使用する製品でカーボンニュートラルを目指す中で、シェアの維持・向上を狙った開発方針が見られます。
フッ化水素酸
フッ化水素酸はフッ化水素の水溶液です。高純度のフッ化水素酸はウエットエッチングやウエット洗浄で使用されます。半導体用の高純度フッ化水素酸も日本のメーカーが強いです。代表的なメーカーを紹介します。
- ステラケミファ
- 森田化学
- ダイキン
フッ化水素は2019年に日本政府が韓国に対して輸出管理強化をしました。当時の日本メーカーのシェアは80~90%だったと言われています。
スパッタターゲット
スパッタターゲットとは、スパッタ法によって薄膜形成を行うための材料で、金属やセラミックスを加工し製造されます。
スパッタターゲットは、JX金属、東ソー、ハネウェルエレクトロニックマテリアルズ、プラクスエアの4社で寡占されています。ほかにも、高純度化学研究所、アルバック、三井金属、三菱マテリアル、フルウチ化学、大同特殊鋼などがあります。
フォトレジスト
フォトレジストは、ポリマー(高分子)、感光性材料、溶剤を主成分とする液状の組成物で、光や電子線等によって溶解性などの物性が変化します。この性質を利用して半導体にパターン形成をします。さらに詳しい説明はこちら(Wikipedia)。
フォトレジストは、JSR、東京応化工業、信越化学工業、住友化学、富士フィルムと日本の会社で90%以上のシェアを占めています。
2023年に最大手のJSRが政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)の傘下に入りました。他社を巻き込んだ再編によって強力なフォトレジストメーカーが誕生する可能性があります。
フォトレジストは露光光源の種類によって材料系が変わり、高精細な先端露光技術用のフォトレジストほど必要な技術水準が高く、販売価格や利益率が高くなります。最先端のEUV露光用フォトレジストはまだボリュームが小さいため、ArF露光用フォトレジストが各社の利益に大きく影響します。ArFレジストでもJSRが首位です。
フォトレジスト原料
フォトレジストは、ポリマー(高分子)、感光性材料、溶剤を主成分とする液状の組成物です。それぞれの主要メーカーを紹介します。
半導体材料の中のフォトレジストだけでも、フォトレジストメーカー、フォトレジストの原料のポリマー(高分子)、感光性材料、溶剤メーカー、さらにその原料の化学メーカーとすそ野が広く関係会社が多い産業構造になっています。
ポリマー(高分子)およびその原料モノマー
- DIC
- 旭有機材
- 大阪有機化学工業
- 群栄化学工業
- 住友ベークライト
- ダイセル
- ダイトーケミックス
- 田岡化学工業
- 東洋合成工業
- 日本曹達
- 富士フィルム
- 三井化学
- 三菱ケミカル
感光性材料
- ADEKA
- 東京化成工業
- 東洋合成工業
- ダイトーケミックス
溶剤
- KHネオケム
- 神港有機化学工業
- ダイセル
- 東洋合成工業
- レゾナック
トップコート材料
半導体の中のArF液浸露光タイプのみで使用される材料で、アルカリ可溶性ポリマーとアルコール溶剤の組成物です。さらに詳しい説明はこちら(JSR)。
トップコート材料はJSRが世界シェアNo.1です(出典:JSR)。
CMPスラリー
CMPは、Chemical Mechanical Polishingの略です。CMPスラリーは、溶剤中にナノサイズの研磨粉を分散させた組成物で、ウェハー表面を化学的に溶解させながら機械的に研磨するために使用されます。
CMPスラリーの大手はインテグリスです。インテグリスは、CMPスラリー、CMPパッド、CMP後洗浄薬液までCMPのトータルソリューションビジネスを展開しています。
日本メーカーの中では富士フィルム、フジミ、レゾナック、JSRのシェアが大きいです。その他にも、BASF、トッパンインフォメディア、エアープロダクツアンドケミカルズなどがあります。
極薄銅箔
三井金属はパッケージ基板向けで微細回路形成に必要な極薄銅箔(製品名:マイクロシン)でほぼ100%の世界シェアを持っています。極薄銅箔はハイエンド半導体向けの材料です。
銅表面処理剤
メックはパッケージ基板向けの銅表面処理剤でほぼ100%の世界シェアを持っています。パッケージ基板の大型化や多層化により売り上げの拡大が見込まれています。
絶縁材料
味の素はパッケージ基板で必須の絶縁材料(製品名:ABF、味の素ビルドアップフィルム)でほぼ100%の世界シェアを持っています。ABFは半導体パッケージ基板の大型化、複雑化によって継続的な需要拡大が見込まれています。
ガラスクロス用ガラス繊維
日東紡はプリント配線基板や半導体パッケージ基板の材料となるガラスクロス用ガラス繊維を製造しています。日東紡の製品は強度や熱膨張耐久性に優れており、ハイエンド半導体向けではほぼ100%の世界シェアを持っています。
封止材(モールド樹脂)
封止材は、熱硬化性のエポキシ樹脂にシリカ微粒子を分散させた組成物です。半導体チップを光、熱、湿気、ほこり、衝撃から保護する目的で使用されます。最大手は住友ベークライトで、世界シェアは約40%です(出典:住友ベークライト)。住友ベークライトは焼却する際にダイオキシンを発生させないよう、非ハロゲン系封止材を開発してシェアを伸ばしてきました。住友ベークライトでは使用時のCO2排出量を30%減らせる新材料を開発中で、環境配慮型の材料でさらにシェアを伸ばしたい考えです。
その他にも、レゾナック、信越化学、日本化薬などが知られています。
超純水
半導体製造の洗浄用に超純水は欠かせません。超純水の製造企業としては、栗田工業、オルガノ、野村マイクロサイエンスなどが知られています。
半導体材料の市場規模と将来の見通し
SEMIによると2022年の半導体材料市場は727億ドルで(出典:SEMI)、これは半導体市場の13%になります。
半導体の市場規模は2022年で5741億ドル(出典:世界半導体市場統計)、その後は年平均成長率8.7%で成長すると予想されています(出典:Vantage)。半導体市場の成長にともなって半導体材料も成長を続けることが予想されます。
半導体材料メーカーは、将来性ランキングでも高い順位をつけていました。
まとめ:日本の化学メーカーが強い
この記事では、半導体製造プロセスの各工程に使用される半導体材料とその主要な半導体材料メーカー約60社を紹介しました。
日本の化学メーカーが高い技術力を生かしてシェアを取っていました。特に、マスクブランクス、シリコンウェハー、スパッタターゲット、フォトレジストは日本の化学メーカーが50%以上のシェアでした。
複数の材料で高いシェアを持っている会社があったね
複数の材料で高いシェアを持っていると、半導体メーカーで使用するときに最適な組み合わせになるように自社で事前に検討できるから、材料開発が有利になるよ
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