ペロブスカイト太陽電池の実用化が近づいています。この記事では、実用化が近いペロブスカイト太陽電池メーカーランキングと、各メーカーの開発状況、および関連企業を紹介します。
シリコン系太陽電池はガラス基板上に作成されるため、平面で重量があり、平坦な土地や耐荷重の大きい建物の屋根などに設置場所が限られています。これに対してペロブスカイト太陽電池はプラスチックフィルム上に作成できるため、曲面にも対応でき軽量であり、ビルの壁面や耐荷重の小さい屋根などさまざまな場所に設置できます。設置場所を広げることにより再生可能エネルギーの普及拡大を加速させ、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献することが期待されています。
実用化が近いペロブスカイト太陽電池メーカーランキング
日本企業
実用化の早さを基準とした、ペロブスカイト太陽電池メーカーランキングです。
1位はエネコートテクノロジーズ。2024年中に屋内光源デバイス、2025年度に屋外用途、2030年までに車載用途の製品を実用化する計画です。(エネコートテクノロジーズ資料)
2位は積水化学。2025年の事業化を目指しています。(ニュースイッチ)
3位は東芝。2025年以降の実用化を目指しています。(ニュースイッチ)
4位はパナソニック。2026年の販売を目指しています。(日経クロステック)
実証実験 | 量産・実用化 | 上場/未上場 | |
エネコート テクノロジーズ | 〇 2023年 | 2024年 | 未上場 |
積水化学 | 〇 2023年 | 2025年 | 上場 証券コード4204 |
東芝 | 〇 2023年 | 2025年以降 | 上場 証券コード6502 |
パナソニック | 〇 2023年 | 2026年 | 上場 証券コード6752 |
リコー | 〇 2023年 | 未定 | 上場 証券コード7752 |
マクニカ | 〇 2023年 | 未定 | 上場 証券コード3132 |
麗光 | 〇 2023年 | 未定 | 未上場 |
アイシン | 2025年 | 未定 | 上場 証券コード7259 |
カネカ | 2026年 | 未定 | 上場 証券コード4118 |
フジプレアム | 未定 | 未定 | 上場 証券コード4237 |
海外企業
有力な海外企業のランキングです。中国企業が量産化を進めています。
量産・実用化 | 建設中・計画中 | |
Saule Technologies(ポーランド) | 〇 2021年、100MW級 | |
昆山協鑫光電材料(中国) | 〇 2021年、100MW級 | 2,000MW級 |
Oxford PV(イギリス) | 〇 2022年、100MW級 | |
極電光能(中国) | 〇 2022年、150MW級 | 1,000MW級 |
維納光電(中国) | 〇 2022年、100MW級 | 1,000MW級 |
万度光能(中国) | 〇 2023年、200MW級 | 4,800MW級 |
仁爍光能(中国) | 〇 2024年、150MW級 | |
光晶能源(中国) | 〇 2024年、100MW級 | |
大正微納科技(中国) | 2025年目標、100MW級 | |
隆基緑能科技(中国) | 未定 |
ペロブスカイト太陽電池の市場規模
富士経済グループの「2024年版 新型・次世代太陽電池の開発動向と市場の将来展望」によると、ペロブスカイト太陽電池は、2020年代後半から本格的な量産が始まり、2040年の世界市場は2023年比64.9倍の2兆4000億円に成長します。国内市場も同様のペースで立ち上がり、2040年の国内市場規模は233憶円と予測されています。
海外企業では製造が容易なガラス基板型が先行して量産化されています。一方、日本企業では当面はフィルム基板型が50%以上を占めます。国内のペロブスカイト太陽電池市場の拡大にともなってガラス基板型の比率が増加し、2040年度の構成比はフィルム基板型が30%程度に落ち着くと予想されています。
ペロブスカイト太陽電池メーカーの開発状況
エネコートテクノロジーズ
エネコートテクノロジーズは京都大学若宮研から生まれたスタートアップ企業で、ペロブスカイト太陽電地の材料開発、モジュールの製品化に取り組んでいます。2024年4月時点では、エネコートテクノロジーズの研究結果による26.1%が世界で最高効率となっており、技術力のある会社です。
2024年7月までに得た資金は公的助成も合わせると100億円を超えました。本格的な生産体制の確立を急ぐとともに、車載用などへの展開を見据えて2024年内にも小型の太陽電池を発売する予定です。
【2023年12月】 国内初、曲がる太陽電池「ペロブスカイト型」を活用した基地局実証を開始
KDDI、KDDI総合研究所、エネコートテクノロジーズは2024年2月から、ペロブスカイト太陽電池、CIGS太陽電池を活用したサステナブル基地局の実証実験を群馬県で開始しました。(KDDIニュースリリース)
【2024年7月】 第三者割当増資で55億円を調達
エネコートテクノロジーズは第三者割当増資により55億円を調達しました。トヨタ自動車傘下のウーブン・キャピタルや三菱UFJキャピタル、INPEXなどから出資を受けました。(エネコートテクノロジーズプレスリリース)
積水化学
積水化学は、独自技術である「封止、成膜、材料、プロセス技術」を活かし、液体や気体が入り込まないように工夫した結果、これまで課題であったペロブスカイト太陽電池の屋外耐久性を10年まで延長させました。さらにペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて、2025年までに20年の耐用年数を実現する方針で開発を進めると発表しています。
積水化学は、ロール・ツー・ロール方式で製造する「フィルム型」のペロブスカイト太陽電池の開発をしています。同製造プロセスによ変換効率は15.0%に達しています。実証実験、既存の本社ビルへの設置、世界初の高層ビルでのメガソーラー発電の計画も進めており、国内メーカーでは先頭を走っています。
【2023年2月】 国内初、ペロブスカイト太陽電池を建物外壁に設置した実証実験開始
既存建物外壁へ太陽電池モジュールを設置し、設置方法を確立し、垂直面における発電効率を確認します。場所は、積水化学の開発研究所と、NTTデータのNTT品川TWINSデータ棟の外壁です。(積水化学ニュースリリース)
【2023年10月】 国内初、ペロブスカイト太陽電池をビル外壁に実装
積水化学と積水樹脂は共同開発した「フィルム型ペロブスカイト太陽電池付き建材パネル」を完成させ、積水化学大阪本社に接地しました。(積水化学ニュースリリース)
【2023年11月】 世界初、フィルム型ペロブスカイト太陽電池による高層ビルでのメガソーラー発電の計画
積水化学は、東京都千代田区で建設予定のサウスタワーに、開発中のフィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置します。(積水化学ニュースリリース)
東芝
東芝は、曲げ性を維持したフィルム型で世界最高の変換効率16.6%(703cm2)を実現しています。 従来の大面積フィルム型ペロブスカイト太陽電池は、2ステップ法という成膜方法で作られますが、2ステップ法は時間がかかりペロブスカイト層に未反応部分が生じて変換効率が下がってしまいます。東芝では1ステップメニスカス塗布法という新製法を開発し、変換効率を向上させました。(出典:東芝 産業構造審議会グリーンイノベーション部会資料)
【2023年2月】 大面積フィルム型ペロブスカイト太陽電池の提供
東芝は、桐蔭学園・東急・東急電鉄・横浜市が青葉台駅で行う共同実証実験向けに大面積のフィルム型同電池を実験資材として提供しました。(東芝ニュースリリース)
【2023年11月】 大面積フィルム型ペロブスカイト太陽電池の提供
東芝は横浜市が資源リサイクル事業協同組合と連携して横浜市役所で開催する「SDGs未来都市・環境絵日記展2023」において、大面積のフィルム型ペロブスカイト太陽電池を提供しました。(東芝ニュースリリース)
パナソニック
パナソニックはガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を中心に事業を進めています。パナソニックのペロブスカイト太陽電池は、実用サイズ(>800 cm2)のモジュールとして世界最高レベルの発電効率18.1%(第三者測定機関による認証効率)を達成しています。
【2023年8月】 世界初、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の長期実証実験を開始
パナソニックは、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池のプロトタイプを開発し、技術検証を含めた1年以上にわたる長期実証実験を開始しました。(パナソニックニュースリリース)
リコー
リコーは、複合機の開発で培った有機感光体の技術を応用し、低照度の室内光でも発電する固体型色素増感太陽電池を世界で初めて販売しています。その延長でペロブスカイト太陽電池も開発しており、2023年からは実証実験を行っています。
【2023年6月】 先進的な省エネ・創エネ・蓄エネ設備を備えたセブン‐イレブンの新たな環境負荷低減店舗実証実験
セブン‐イレブン、日立製作所、リコー、サンデンは、各社の持つ先進技術を集め、更なる省エネ、創エネと蓄電の取り組みの進化を目指した環境負荷低減店舗の実証実験をスタートしました。(セブン‐イレブンニュースリリース)
マクニカ
マクニカは、半導体、サイバーセキュリティをコアとして、最新のテクノロジーをトータルに取り扱う、サービス・ソリューションカンパニーです。
【2023年10月】 環境省実証事業で社会実装に向け、3年間の技術開発・実証事業を開始
マクニカは「港湾などの苛烈環境におけるPSCの活用に関する技術開発(委託)」が、環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択され、2023年度より3年間の技術開発・実証事業を開始します。本事業は、ペクセル・テクノロジーズ、麗光と、マクニカの3社で推進します。技術開発・実証を行う場所は、横浜市みなとみらい地区・横浜大桟橋の一部です。技術開発にあたっては、薄膜フィルム結晶製品製造技術を持つ麗光と協業。マクニカは、事業の統括役として事業を推進する一方、IoT、AIの社会実装経験を活かし、日本製ペロブスカイト太陽電池モジュールを用いたパワーユニットのシステム等を開発していきます。(マクニカニュースリリース)
麗光
麗光は、ドライコーティング、ウェットコーティング等の「薄膜加工技術」を基幹技術としたメーカーです。日常的に目にする食品パッケージから、スマートフォンなど最先端技術に至る多彩で幅広い分野で麗光の製品が使用されています。
麗光は上記のマクニカとの協業でペロブスカイト太陽電池を製造しています。ペロブスカイト太陽電池は水分に弱いため、麗光のバリアフィルム技術が活かされています。
ペロブスカイト太陽電池と同様のフレキシブルな太陽電池である、有機薄膜太陽電池では麗光の技術でモジュール開発した実績があります。(麗光ニュースリリース)
カネカ
カネカは自社設計のポリイミドを基板に用い、薄膜シリコン太陽電池の量産技術を活用することで、世界最薄水準である約10μm厚の超薄型ペロブスカイト太陽電池を開発しています。また、この開発を通じてフィルム型ペロブスカイト太陽電池における世界最高水準である19.8%の変換効率を実現しました。
カネカは窓ガラスなどに使える建材一体型発電パネルを大成建設と共同開発「建材一体型」や「窓・壁面設置型」を視野に、2026年からの実証を目指しています。
アイシン
アイシンは、2025年から実証実験を開始すると発表しています。
フジプレアム
フジプレアムは兵庫県姫路市に本社を構える電機メーカーです。京都大学とともにペロブスカイト太陽電池の研究・開発を行っています。
Saule Technologies(ポーランド)
サウレ・テクノロジーは2014年、創業者の一人であるオルガ・マリンキエヴィツCTOが物理学博士課程の研究で編み出したプリント製法を事業化するために設立されました。2021年に世界で初めてペロブスカイト太陽電池の商業生産を開始しています。電子棚札の電源用途の製品から量産化を進めています。
昆山協鑫光電材料(GCL Perovskite)(中国)
昆山協鑫光電材料は、太陽光パネルメーカー大手の保利協鑫集団(GCL)の子会社です。江蘇省・昆山市で2021年から100MW級工場の稼働を開始しています。2024年4月に変換効率19.04%超を達成しました。
Oxford PV(イギリス)
オックスフォードPVは、ペロブスカイトとシリコンのタンデム型太陽電池に注力しており、住宅・発電事業用などがターゲットです。2022年には、ペロブスカイトシリコンベースの太陽電池を住宅の屋上市場に販売する最初の企業になりました。
極電光能(中国)
江蘇省・無錫市で2022年12月から150MW級工場の稼働を開始しています。発電効率は17~18%です。
維納光電(中国)
浙江省・衢州市で2022年から100MW級工場の稼働を開始しています。発電効率は12%です。
万度光能(中国)
湖北省・鄂州市で2023年から200MW級工場の稼働を開始しています。同市の工場の拡張および安徽省・阜陽市で工場の建設を計画しています。
仁爍光能(中国)
江蘇省・蘇州市で2024年1月から150MW級工場の稼働を開始しています。発電効率は18%です。
光晶能源(中国)
2024年から100MW級工場の稼働を開始しています。
大正微納科技(中国)
大正微納科技は2021年4月に工場を稼働させ、ペロブスカイト太陽電池の量産化に向けた準備を進めています。大正微納科技のペロブスカイト太陽電池は耐用年数は10年ほど、発電効率は13~15%と発表しています。現在、工場の雨よけで電動キックボードに給電する実証実験を行っていて、2024年には市場販売を開始したいとしています。
隆基緑能(中国)
世界最大の太陽電池メーカーである隆基緑能はシリコン系太陽電池だけでなくペロブスカイト太陽電池も開発しています。
【2023年11月】 隆基緑能のシリコン/ペロブスカイトタンデム型太陽電池が認証効率33.9%を達成して世界記録を更新(Science Portal China)
ペロブスカイト太陽電池の関連企業
エヌピーシー(NPC)
NPCはシリコン系太陽電池の製造装置を製造・販売しています。シリコン系以外にもペロブスカイト太陽電池を含む薄膜系太陽電池製造装置の製造・販売もしています。NPCは厚みの少ない薄膜系製造装置で豊富な実績があり、優位性を持つ製造装置メーカーです。
伊勢化学工業
伊勢化学工業は、天然ガスとヨウ素の開発・生産から供給・販売までを行います。天然ガス採取の際に汲み上げられる地下水(かん水)からヨウ素を製造しています。伊勢化学工業のヨウ素の世界シェアは15%です。
ペロブスカイト太陽電池に使用される代表的なペロブスカイト化合物は(CH3NH3)PbI3で、この化合物中の重量の約60%はヨウ素です。
K&Oエナジー
K&Oエナジーは、天然ガスとヨウ素の開発・生産から供給・販売までを行うエネルギー供給のグループ企業です。天然ガス採取の際に汲み上げられる地下水(かん水)からヨウ素を製造しています。K&Oエナジーのヨウ素の世界シェアは5%です。
ペロブスカイト太陽電池に使用される代表的なペロブスカイト化合物は(CH3NH3)PbI3で、この化合物中の重量の約60%はヨウ素です。
関連書籍
「ペロブスカイト太陽電池の開発最前線」は、ペロブスカイト太陽電池の材料の改良、製造方法の改良、性能評価方法について、各分野の国内の専門家が解説した本です。
「ペロブスカイト太陽電池: 光発電の特徴と産業応用」は、太陽電池としてトップクラスのエネルギー変換効率に進化したペロブスカイト太陽電池の、研究の背景、歴史、しくみ、応用技術を解説した本です。
- 第1章 太陽エネルギーとサステイナビリティ
- 第2章 ペロブスカイト太陽電池の発見と先導研究
- 第3章 ハロゲン化ペロブスカイト結晶の光物性
- 第4章 ペロブスカイト薄膜の作製
- 第5章 ペロブスカイト太陽電池の性能
- 第6章 ペロブスカイト太陽電池の高効率化
- 第7章 鉛を用いないペロブスカイト太陽電池
- 第8章 広がる産業応用
- 第9章 地産地消の自給自足電力としての普及
「大発見の舞台裏で! ―ペロブスカイト太陽電池誕生秘話」は、ペロブスカイト太陽電池開発のドラマチックな展開と熾烈な研究開発の舞台裏が書かれた本です。