エタンクラッカーとナフサクラッカーは、天然原料を各種化学製品へと導く最初の工程であり、エチレンなどの基礎化学品を生成します。
では、エタンクラッカーとナフサクラッカーの違いとは何なのでしょうか? エチレンを製造する方法にはどのような種類があるのでしょうか? ナフサクラッカーで製造される製品と収率は? 日本国内のナフサクラッカーの所在地や今後の動向は? それぞれ説明します。
エタンクラッカーとナフサクラッカーの違い
クラッカーとは、炭化水素を熱と水蒸気で分解して炭素数を少なくすることに加え、反応性の低い飽和炭化水素の炭素同士の結合を一重結合から二重結合へと変化させ不飽和炭化水素に変換する装置のことです。
分解させることをクラッキングと呼び、分解する装置をクラッカーと呼びます。
エタンクラッカーはシェールガスや天然ガス中のエタン(炭素数が2個)を原料にして、主にエチレンを製造します。
ナフサクラッカーは、ナフサに含まれる飽和炭化水素(炭素数がおよそ5~10個)を原料にして、主にエチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンを製造します。
このように、エタンクラッカーとナフサクラッカーは天然原料から最終製品への出発点と言えます。
エチレンを製造する方法
エチレンは、エタンクラッカーとナフサクラッカーで製造されるほかにも、石炭から製造されることもあります。石炭を原料とするエチレンは主に中国で製造されています。
石炭を原料として、合成ガス(一酸化炭素(CO)と水素(H2)の混合物)、メタノールを経由してエチレンとプロピレンが製造できます。
アメリカではシェールガスが採掘できるようになったため、安価なシェールガス中のエタンを原料にするエタンクラッカーが増設されました。エタンクラッカーからはエチレンと少量のプロピレンは製造されますが、炭素数が4以上の不飽和炭化水素が製造されません。
中東でもアメリカと同様に安価なエタンガスからエチレンを製造されています。
シェール革命の影響で、アメリカではエチレン製造原料がナフサからシェールガス中のエタンに代わりつつあり、炭素数が4以上の不飽和炭化水素ブタジエンの供給不足問題が起きています。ブタジエンはBS(ブタジエン-スチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂として利用されています。
アメリカ | 中東 | 中国 | 日本 | 欧州 | |
ナフサ | 〇 | 〇 | ◎ | ◎ | ◎ |
エタン | ◎ | ◎ | |||
石炭 | ◎ |
強み | 弱み | |
ナフサ | ・C2~5オレフィン、C6~8BTXをバランス良く得ることができ、プラスチック原料からゴム原料まで幅広く製造可能 | ・ナフサ分解炉の稼働年数が長く、保守等の生産性の維持が必要 |
エタン | ・豊富なシェールガスから生産されるエチレンが安価 ・プラスチック原料のエチレン、プロピレンの大量製造にメリット | ・C4以上のオレフィンを得ることが困難 |
石炭 | ・安価で豊富な石炭を原料として使用可能 ・メタノール to オレフィン(MTO)の技術開発が進んでいる | ・CO2排出係数が大きい(従来ナフサ法の5倍) ・合成メタノールが高価 |
ナフサクラッカーで製造される製品と収率
主要な生成物と収率(重量%)は、原料ナフサに対してエチレン25~31%、プロピレン12~16%、ブチレン3~8%、ブタジエン4~5%、ベンゼン、トルエン、キシレンあわせて10~13%です。(出典:日本大百科全書)
日本国内のナフサクラッカー
日本国内のナフサクラッカーは、原料のナフサを隣接する製油所からパイプラインで入手しています。不足する分は輸入しています。そのため日本国内のナフサクラッカーは石油精製所または海岸線沿いに位置しています。
出典:ニュースイッチ
今後は、国内エチレン生産量の減少、プラントの老朽化、海外と比較してプラントの規模の小ささ、カーボンニュートラルに向けた原料のナフサからの変更、などの理由でナフサクラッカーは再編される可能性があります。
まとめ
エタンクラッカーとナフサクラッカーは天然原料から最終製品への出発点と言えます。そのエタンクラッカーとナフサクラッカーの違い、エチレンを製造する方法(原料が石油、天然ガス、石炭の3種類)、ナフサクラッカーで製造される製品と収率、日本国内のナフサクラッカー(所在地、今後の動向)について紹介しました。