この記事では、アンモニアの燃焼化学式と、アンモニア火力発電について説明します。
アンモニア火力発電のメリットとデメリットを見ると、デメリットが多くあることがわかります。
アンモニアの燃焼化学反応式
アンモニアの燃焼化学反応式は以下のとおりです。
4NH3 + 3O2 → 2N2 + 6H2O
ただし、これはすべての反応をまとめた総括式です。実際には炎の中で、非常に活性でかつ不安定なラジカルという化学種が発生して、他の化学種に変化しています。関係する化学種は31種、反応式は203あると言われています[1][2]。
メタンとアンモニアの燃焼化学反応式を比較してみますと、メタンは燃焼すると二酸化炭素を排出しますが、アンモニアは燃焼させても二酸化炭素を排出しません。このため、アンモニアを燃料にして二酸化炭素を排出しない発電が検討されています。
- メタンの燃焼化学反応式:CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O
- アンモニアの燃焼化学反応式:4NH3 + 3O2 → 2N2 + 6H2O
JERAは、2020年に発表した「ゼロエミッションロードマップ」の中で、石炭火力発電所においてアンモニアの混焼実証を進め、2030年までに本格運用を始めるとしています。(JERAプレスリリース)
アンモニアとは?
アンモニアとは、化学式:NH₃で表される、常温常圧で無色の気体です。人体にとっては有害であり、強い刺激臭を放つのが特徴です。
世界全体でのアンモニアの用途は、その約8割が肥料用(尿素、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、など)、残りの2割は工業用(メラミン樹脂、ナイロン、アクリロニトリル、など)です。現代のアンモニアの重要な役割は、世界の食糧生産を支える肥料としての役割です。
アンモニアの化合物情報
- IUPAC Name:azane(慣用名ammonia)
- CAS登録番号:7664-41-7
- PubChemリンク:https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Ammonia
アンモニアの製造方法
アンモニアは、水素と窒素からハーバー・ボッシュ法によって製造されます。ハーバー・ボッシュ法は高温高圧で反応させるため、エネルギー消費量の多いプロセスで、年間約5億トンの二酸化炭素を排出し、これは世界の二酸化炭素排出量の約1.8%になります。
N2 + 3H2 → 2NH3
水素は、その大半が天然ガス、石油、石炭等の化石燃料を改質することで製造されています。この工程で大量の二酸化炭素を排出します。現在のアンモニア製造は、主にメタンを水蒸気改質して水素を生成しています。
CH4 + 2H2O → 4H2 + CO2
技術的には、再生可能エネルギーによる水の電気分解で製造することも可能です。この方法では二酸化炭素を排出しません。しかし、再生可能エネルギーによる水素はアンモニアの製造はコストが高くなるうえに設備も不十分なため、ほとんど使用されていません。
2H2O → 2H2 + O2
アンモニア火力発電
アンモニア火力発電とは、アンモニアを燃料とする火力発電です。
アンモニアは燃焼速度が遅いことから、石炭と合わせる「混焼」と呼ばれる手法が一般的です。この場合、既存の火力発電の中に化石燃料とアンモニア燃料を一緒に投入でき、専用の火力発電設備を新設する必要がありません。
アンモニア燃料のみで発電を行う「専焼」の方が二酸化炭素排出量を抑えられますが、専焼のために必要となる量のアンモニアを調達することは現実的に困難です。
そのため、現在日本ではアンモニア「混焼」の実用化と普及を目指しています。
アンモニア火力発電のメリット
燃焼時には二酸化炭素を排出しない
アンモニア火力発電の大きなメリットは、燃焼時に二酸化炭素を排出しない点です。国内の大手電力会社が運転するすべての石炭火力発電にて、20%アンモニア混焼を実現した場合、約4,000万トンの二酸化炭素を削減できます。
(ただし、アンモニア製造時に大量の二酸化炭素を排出します。)
既存の火力発電設備をそのまま流用できる
アンモニア混焼では、既存の石炭火力発電の設備を利用することを想定して実証試験が進められています。
既存の輸送および貯蔵インフラを活用できる
アンモニアは、肥料や化学製品の原料として流通しているため、輸送および貯蔵インフラがそろっています。新たに準備することなく既存の設備を活用できるメリットがあります。
水素と比較して運搬・貯蔵コストが安価
アンモニア燃料は、同じ次世代エネルギーの水素と比較して、運搬・貯蔵が容易でコストがかかりません。
水素と比較して安全性が高い
水素は空気中で4~75%の濃度範囲で燃えますが、アンモニアが燃えるのは16~27%で、水素より狭く安全性が高いです。
アンモニア火力発電のデメリット
アンモニア製造時に二酸化炭素を排出する
現在、アンモニアはハーバー・ボッシュ法で製造されますが、この過程で年間5億トンの二酸化炭素が排出されており、これは1年間における世界の二酸化炭素排出量の1.8%に相当します。
さらに、アンモニアの液体化や輸送など、アンモニア火力発電に関わる二酸化炭素排出量を計算すると、アンモニア1トンを製造するために二酸化炭素を2.35トン排出することになります。
アンモニアは燃焼時には二酸化炭素を排出しませんが、製造時に大量の二酸化炭素を排出します。
発電に使用するためのアンモニアが不足している
アンモニアは2019年に世界で約2億トン製造され、そのうち貿易量は約2,000万トンで、ほとんどが地産地消されています。日本国内のアンモニア製造量は約90万トンでした。
今後、国内の大手電力会社のすべての石炭火力発電で20%の混焼を実施した場合、年間約2,000万トンのアンモニアが必要となりますが、大幅な生産能力増強や輸送・貯蔵能力が必要な量になります。
アンモニア火力発電を実現するには、国内でのアンモニアの供給体制の構築が必要です。しかし、国内でアンモニアを製造するくらいなら、アンモニア製造に使用される電力や水素をエネルギー源として利用するほうがエネルギー効率は高いです。
混焼を前提としている
アンモニアと同時に石炭などの化石資源を燃焼させる前提なので、二酸化炭素排出の解決策になりません。
高コスト
既存の火力発電と比較すると、発電コストは高くなってしまいます。アンモニアの1kWh当たりの発電コストでは、「20%混焼」で12.9円、「専焼」だと23.5円。二酸化炭素を排出しない専焼にすると、天然ガスの13円と比較して高くなります。
燃焼時に窒素酸化物を排出する
アンモニアを燃焼させると窒素酸化物が発生します。窒素酸化物のうち一酸化二窒素(N2O)は、温室効果係数が二酸化炭素の300倍です。その他の窒素酸化物NOxも人体に悪影響があります。
アンモニアの燃焼条件によって窒素酸化物を抑制することは可能です。
肥料(食料)と競合する
従来のアンモニアの用途はほとんどが肥料です。仮にアンモニア火力発電が盛んになって肥料用アンモニアの供給が減少したり価格が高騰すると、肥料生産量の減少または価格高騰によって、食料生産量が減少します。
まとめ
この記事では、アンモニアの燃焼化学式と、アンモニア火力発電について説明しました。アンモニア火力発電のメリットとデメリットを見ると、デメリットが多くあることがわかります。
アンモニア火力発電のメリット
- 燃焼時には二酸化炭素を排出しない
- 既存の火力発電設備をそのまま流用できる
- 既存の輸送および貯蔵インフラを活用できる
- 水素と比較して運搬・貯蔵コストが安価
- 水素と比較して安全性が高い
アンモニア火力発電のデメリット
- アンモニア製造時に二酸化炭素を排出する
- 発電に使用するためのアンモニアが不足している
- 混焼を前提としている
- 高コスト
- 燃焼時に窒素酸化物を排出する
- 肥料(食料)と競合する