フッ素化学の全体像を見ると、すべてのフッ素化合物は蛍石(CaF2)から製造されるフッ化水素を通っており、フッ化水素が重要物質であることがわかります。また、フッ化水素の性質、製造方法、原料、世界のメーカーについても説明します。高純度フッ化水素は日本の化学メーカーで寡占していますが、その原料は中国に依存しています。
フッ素化学の全体像
フッ素化学の全体像を見ると、すべてのフッ素化合物は蛍石(CaF2)から製造されるフッ化水素を通っており、フッ化水素が重要物質であることがわかります。
フッ素化合物は安定性、耐熱性、耐薬品性、絶縁性等に優れた特徴を生かして、フッ素系冷媒(エアコンなどの冷媒)、フッ素樹脂(フライパン、輸送機器のオイルシール、軸受、精密機械、電子基板など)、フッ化水素酸(半導体プロセス、液晶ガラスの薄化、ステンレス製造用洗浄剤)、HPF6(リチウムイオン電池用電解質)など幅広い用途で使用されています。
蛍石はCaF2含有量が97%を超えるアシッドグレードと97%以下の冶金・セラミックグレードに分けられ、フッ化水素はアシッドグレードから製造されます。
蛍石から製造されるフッ化水素は、フッ素ガス、フッ素系冷媒、フッ素樹脂、フッ化水素酸、HPF6、BF3等の様々なフッ素系化合物の原料になります。
半導体プロセスに使用するフッ化水素酸についてはこちらの記事もご覧ください。
フッ化水素の性質
物理的特性
フッ化水素は融点が-84℃、沸点が20℃、密度が0.92です。水、エタノール、トルエン等に溶解します。フッ化物イオンのイオン半径が小さく水素イオンとの静電引力が強いため電離しにくく、水溶液は弱酸性になります。強い水素結合によって分子間相互作用が強いため、沸点が他のハロゲン化水素と比較して高いです。
フッ化水素はガラス等に含まれるケイ酸SiO2と反応して、ヘキサフルオロケイ酸 H2SiF6 を生じ、ガラスや半導体酸化膜のケイ酸SiO2を溶かします。この性質を利用して半導体製造プロセスのエッチングが行われます。フッ化水素はガラス容器で保管できないため、ポリエチレンやフッ素樹脂容器が使用されます。
毒性
フッ化水素の経口最小致死量は1.5gあるいは体重あたり20mg/kg、無水フッ化水素酸フュームの致死濃度は5分で50~250 ppmであり、取り扱いには注意が必要です。
法規情報
フッ化水素は、毒物及び劇物取締法で医薬用外毒物に、労働安全衛生法で第2類特定化学物質に指定されており、取り扱いには厳重に注意が必要です。ウラン濃縮やサリンなど毒ガスの製造にも使用可能なため、輸出が統制される品目であり、日本では外国為替及び外国貿易法によって経済産業大臣の許可なく輸出することが禁止されています。
フッ化水素の製造方法
蛍石からフッ化水素を製造する反応式はこちらです。
具体的には、まず蛍石を発煙硫酸で脱水し、蛍石と濃硫酸を加熱連続回転炉(ロータリーキルン)で加熱混合してフッ化水素ガスを取り出します。
高純度フッ化水素
フッ化水素メーカーは世界中に多数ありますが、半導体プロセスに使用する超高純度(99.9999999999%、トゥエルブナイン)のフッ化水素を製造できるメーカーは少なく、日本のステラケミファ、森田化学、ダイキンで寡占していると言われています(出典:zakzak)。超高純度フッ化水素は精製や保管にノウハウがあり、簡単には製造できません。
一方で2019年に日本政府が韓国に対して超高純度フッ化水素の輸出管理強化をしたことから、韓国では国産化の動きがあります。韓国の半導体用フッ化水素の輸入金額の推移からは、2019年以降輸入額が減少して国産化が進められていること、特に日本からの輸入額が減少していることがわかります。
フッ化水素の原料(蛍石)
蛍石の埋蔵量はメキシコ、中国、南アフリカ、モンゴルが多いですが、生産量は中国が50%を超える高いシェアで、メキシコ、モンゴル、南アフリカ、ベトナムが続きます。
蛍石は主成分のCaF2のほか、SiO2、CaCO3、PやAs等の不純物が含まれていますが、不純物を多く含む蛍石はフッ化水素の製造には不向きです。
不純物が少なく高純度なアシッドグレードの蛍石は主に中国産、純度の低い冶金・セラミックグレードはメキシコ産が中心のため、日本の主な需要であるフッ化水素向けでは中国産に依存しています。
冶金・セラミックグレードは CaF2 含有量が 97%以下の塊鉱であり、製鉄分野で転炉や電炉の融剤として使用されます。
フッ化水素メーカー
国内外の主要なフッ化水素メーカーです。中国は原料の蛍石の生産量も多いですしフッ化水素メーカーも多いです。
- ステラケミファ
- 森田化学工業
- ダイキン
- レゾナック
- セントラル硝子
- AGC
- 三菱マテリアル電子化成
- Honeywell Hydrofluoric Acid
- FDAC(Formosa Daikin Advanced Chemicals、台塑大金精密化学、台湾プラスチックとダイキンの合弁会社)
- Sunlit Chemical(台湾)
- Zhejiang Lansol Fluorchem(中国)(Zhejiang Lantian Environmental Protection Hi-TechとSolvay との合弁会社)
- Do-Fluoride Chemicals(中国)
- Suzhou Crystal Clear Chemical(中国)
- Jiangyin Jianghua Microelectronics Materials(中国)
- Shaowu Fluoride(中国)
- Shaowu Huaxin(中国)
- Yingpeng (中国)
- Sanmei(中国)
- Befar(中国)
- Zhejiang Kaiheng Electronic Materials(中国)
- SK Materials(韓国)
最近のニュース
2022年にダイキンは不純物の多いメキシコ産蛍石から半導体用フッ化水素酸を製造する技術を開発したと発表しました。この技術によって中国産蛍石への依存度を減らすことができます。(出典:日本経済新聞)
まとめ
フッ素化学の全体像を見ると、すべてのフッ素化合物は蛍石(CaF2)から製造されるフッ化水素を通っており、フッ化水素が重要物質であることを説明しました。また、フッ化水素の性質、製造方法、原料、世界のメーカーについても説明しました。高純度フッ化水素は日本の化学メーカーで寡占していますが、その原料は中国に依存しています。