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スケールアップのための実験データ取得する際の注意点|工場の設備や製造条件に合わせる

スケールアップ(アイキャッチ) プロセス化学

スケールアップのための実験データ取得方法のポイントは、合成スケール以外はすべてを工場の設備や製造条件に合わせて実験することです。

具体的には、設備の形状、撹拌条件、加熱時間や冷却時間、工程間の待機時間、原料グレードをラボと工場と合わせて実験することが重要です。わかりやすく説明します。

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スケールアップのための実験データ取得する際の注意点

プロセス化学ではスケールアップすることを目的に、ラボで実験データを取得します。工場での製造を再現するようなデータを取得するためには、5つのポイントを工場と合わせることが重要です。

  • 設備の形状
  • 撹拌条件
  • 加熱時間や冷却時間
  • 工程間の待機時間
  • 原料グレード

設備の形状を工場と合わせる

工場の反応器は、円筒形で底が半球状になっています。ラボでは反応容器に三ツ口フラスコを使用することもありますが、三ツ口フラスコは工場の反応器と形状が異なります。スケールアップのための実験データを取得するためには、三ツ口フラスコではなくセパラブルフラスコを使用します。セパラブルフラスコは工場の反応器と相似形です。

三ツ口フラスコで実験した場合、実際の工場での撹拌翼の回転数をいくらにすればいいか計算できません。また、ラボでは十分に撹拌できて短時間で終わった反応が、工場では想定より撹拌が不十分で何日もかかるほど反応が遅くなったという失敗をする可能性もあります。

フラスコと工場の反応釜
(注意:工場の反応器は縮小された図です)

撹拌方法にも注意します。工場の製造設備では撹拌翼を上部のモーターで回転させて撹拌します。ラボではガラス容器にマグネットチップを入れて下からスターラーで回転させることもありますが、これでは工場設備と撹拌状態を合わせることができません。セパラブルフラスコに、工場の撹拌翼と相似形で小さくした撹拌翼を使用します。市販のセパラブルフラスコや撹拌翼が工場設備と相似形でない場合、ガラス製作会社に依頼して、特注で実験器具を製作してもらうこともできます。

ここでは反応容器を取り上げて説明しましたが、その他の後処理工程の設備も可能な限り工場とラボで相似形のものを使用します。

ラボで使用する撹拌翼は、スケールアップする工場の撹拌翼と相似形にします。

撹拌翼には様々な種類があります。下の写真の撹拌翼は、左から三枚後退翼、平面パドル翼、アンカー翼です。

  • 三枚後退翼:以前の標準的な撹拌翼形状(最近はツインスター翼)
  • 平面パドル翼:低粘度液体の撹拌に適している
  • アンカー翼:高粘度液体の撹拌に適している
攪拌翼の種類
(出典:コスモスピード

撹拌条件を工場と合わせる

スケールアップにおいて撹拌の取り扱いは最も難しいです。

撹拌条件を合わせるためには、前提としてラボと工場で相似形の反応容器を使います。スケールアップした場合、ラボと工場で回転数を同じにすればよいわけではありません。相似形の設備で同じ回転数にすると、スケールが大きいほうが撹拌しすぎになります。

一般的には、反応容器を相似形にしたうえで、Pv(単位体積あたりの撹拌動力)を一定にしてスケールアップします。単位体積当たりに投入するエネルギーを同じにすれば、同じ撹拌状態になるという考え方です。相似形の設備でPvを一定にした場合、以下の計算式から、ラボは工場より回転数が多くなることがわかります。

Pv = Np * ρ * n3 * d5 / V

(Pv:単位体積あたりの撹拌動力 [W/m3]、Np:動力数と呼ばれる無次元数で、撹拌機の持つ固有値、ρ:密度 [kg/m3]、n:回転数 [rps]、d:翼スパン [m]、V:容積 [m3])

(参考:神鋼環境ソリューション 撹拌を知ろう!撹拌動力

ただし、Pvを一定にしても反応工程(反応速度や収率)や精製工程(製品品質)でラボと工場で差が出てしまうことはあり得ます。その場合はPvを一定にしたデータをもとに、回転数を微調整します。

また、スラリー系では撹拌翼によって固体粒子が粉砕されることがあります。撹拌するスラリー系中の粒子径が製品の品質に影響する場合、Pvではなく翼先端速度をラボと工場で合わせてスケールアップするとうまくいくケースもあります。

加熱時間や冷却時間を工場と合わせる

ラボ実験では、反応工程から後処理工程までの温度を工場と合わせます。60℃で反応させる場合、設定温度を60℃にするのは当然ですが、設定温度に到達するまでの加熱時間も合わせます。一般的に、大スケールの工場では小スケールのラボより加熱時間や冷却時間が長くなります。それに合わせてラボでの加熱時間や冷却時間は長くします。

加熱時間や冷却時間が変わる理由は、例えば、反応器の容積を1,000倍に増やしても、伝熱面積(表面積)は100倍にしか増えないためです。これは「2乗3乗の法則」としても知られています(Wikipedia)。スケールアップすると容積に対する伝熱面積が小さくなるため、加熱と徐熱に長時間かかります。

反応工程では加熱速度が変わると、反応挙動や不純物の生成挙動に差が出る可能性があります。また、徐熱速度が遅くなるということは、中間物や製品で加熱されている時間が長くなるため、分解による収率の低下や不純物の増加の可能性があります。

工場で製造した初めてトラブルに気が付くといったことにならないように、ラボで実験データを取る際には、実際の工場での加熱速度や徐熱速度に合わせて実験するようにします。(ただし、すべての実験で工場の時間に合わせるとラボでデータを取得する効率が低下するため、加熱速度や徐熱速度が製品品質に影響しないことが確認できた場合は、工場の時間に合わせなくてもいいでしょう。)

ラボと工場の加熱速度の違い

工程間の待機時間を工場と合わせる

工場では、大量の原料を仕込んだり大量の溶液を移送したりするため、ラボよりも作業時間がかかり、工程間で待機させることがよくあります。特に、加熱状態や不安定な構造で長時間待機させるような工程がある場合は、ラボでも工場と同じ程度に長時間待機させて、製品品質に影響するかどうか確認します。

ラボでは素早く実験していたところ、工場で製造すると待機時間中に化合物が分解して不純物が増えてしまう、といったトラブルを未然に防ぐために重要です。(ただし、すべての実験で工場の時間に合わせるとラボでデータを取得する効率が低下するため、待機時間が製品品質に影響しないことが確認できた場合は、工場の時間に合わせなくてもいいでしょう。)

けむさん
けむさん

製造部の担当者とよくコミュニケーションをとることは大切です。

各工程の作業方法や作業時間を聞いておきましょう。

原料グレードを工場と合わせる

同じメーカーの同じ化合物でも、試薬グレードと工業用グレードでは純度や不純物量などの品質に差がある場合があります。そのため、ラボでの実験でも工業用グレードを使用します。

工業用グレードを入手する手間を惜しんで、純度や微量不純物が異なるグレードの原料を使用していると、いざスケールアップした際に思わぬ不純物が生成する可能性があります。手間を惜しまず、実際に使用する工業用グレードの原料を使います。

試薬原料と工業用原料

実験の正確性・再現性

プロセス化学では、少し条件を変えて似たような実験をすることがよくあります。実験条件の差が実験結果に反映され、その差を考察します。前提として、実験の正確性・再現性が求められます。

スケールアップ実験に関係する部署

化学メーカーの中でスケールアップ実験に関係する部署は、主に研究生産技術です。



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まとめ

スケールアップのための実験データ取得方法のポイントは、合成スケール以外はすべてを工場の設備や製造条件に合わせて実験することです。

スケールアップのための実験データ取得する際の注意点として、設備の形状、撹拌条件、加熱時間や冷却時間、工程間の待機時間、原料グレードをラボと工場と合わせて実験することの重要性を説明しました。

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