日本では90%以上の歯磨き粉に「フッ素」が入っています。
どうして「フッ素」が入っているの? どんな「フッ素」が入っているの?
わかりやすく説明します。
自然界のフッ素
フッ素は電気陰性度と反応性が非常に高いため、自然界ではほとんどが安定な無機化合物(フッ化物)として存在しています。フッ化物は、土壌、海水、河川水、動植物など自然界のいたるところに存在します。地球の地殻中の元素のうちフッ素は0.08%を占め、13番目に多い元素です[1]。ヒトの身体の中にもフッ化物はあり、体重70kgの人だと3gのフッ素[2]が主に歯や骨の構成成分として存在します。
フッ素の虫歯予防効果の発見
1901年、アメリカのコロラドスプリングスにおいて歯に「コロラドステイン」と呼ばれる白斑や着色がある人が多く、コロラドステインを有する人たちには虫歯が少ないことが発見されました。その後の調査で、1938年にコロラドステインと虫歯の少なさの原因は飲料水中のフッ化物であることが判明しました。
虫歯の仕組み
虫歯は、歯垢中でミュータンス菌などの虫歯原因菌が出す酸が歯のミネラルを溶出させて歯がもろくなり、ついには穴が開いてしまう病気のことです。
私たちの口内では、歯を溶かす脱灰と、修復を行う再石灰化が繰り返されています。
脱灰とは、虫歯菌が出した酸によって、歯の表面のエナメル質からカルシウムやリン酸が溶け出てしまうことです。再石灰化とは、脱灰によって溶け出したカルシウムやリン酸が唾液によって再び歯に取り込まれ、歯が元に戻ることです。脱灰と再石灰化が同じ程度で繰り返されている間は、健康な歯が保たれます。
- 脱灰>再石灰化の場合:虫歯が進行する
- 脱灰<再石灰化の場合:初期虫歯部のミネラルは回復して健全な程度まで戻る
フッ素が虫歯を予防する仕組み
第一は歯に作用し、ヒドロキシアパタイトの結晶性改善、フルオロアパタイトの生成、さらに再石灰化促進により、歯質の強化と耐酸性の向上効果が得られます。第二は口腔内の細菌に作用し、主に歯垢中の細菌の解糖系に対する抗酵素作用により、酸産生を抑制します[3]。
歯磨き粉などに含まれるフッ化物は使用時の作用だけでなく、使用後にも効果があります。フッ化物の一部は使用時に歯垢中に蓄積され、細菌の酸産生により歯垢のpHが酸性に傾くと、フッ化物イオンが解離して、歯や口腔内の細菌に作用します。
ヒドロキシアパタイトの結晶性改善
歯のエナメル質を構成するヒドロキシアパタイト [Ca10(PO4)6(OH)2] はフッ化物によって格子不整が修復され、結晶性が向上します。結晶性の向上によってヒドロキシアパタイトが化学的に安定になり、歯質が強化されます。
フルオロアパタイトの生成
ヒドロキシアパタイト [Ca10(PO4)6(OH)2] に低濃度のフッ化物が作用すると、OH–にF–が置換して、フルオロアパタイト [Ca10(PO4)6F2] ならびに部分フッ素化体であるフルオロヒドロキシアパタイト [Ca10(PO4)6F(OH)] が生成します。これらの生成物は酸に溶けにくい性質をもつため、歯は耐酸性を獲得して虫歯予防になります。具体的には、ヒドロキシアパタイトが約pH5.5以下の酸性環境下で脱灰が再石灰化を上回るのに対し、フルオロアパタイトは約pH4.5までは脱灰が再石灰化を上回りません。
再石灰化促進
初期のむし歯はエナメル質の表層より少し下側から始まるため、ある時期までは表層が残り、一見するとむし歯ではなく白い斑点が生じたように見えます。ところが、その下ではむし歯が進行して空洞が大きくなり、食事などの外圧によって最表層が陥没して穴があくのです。しかし、表層のエナメル質が残っている初期のむし歯のときは、唾液などが作用して、脱灰したカルシウムやリンを元に戻す作用(再石灰化)が期待できます。フッ化物応用によるフッ化物が歯の周囲の唾液などに存在していると、この再石灰化が促進されます。
細菌の解糖系に対する抗酵素作用
唾液中のフッ化物濃度は通常0.1ppm以下です。唾液中のフッ化物濃度が5~10ppmくらいになると、細菌が産生する解糖系の酵素エノラーゼの活性をフッ化物が阻害し、酸産生が抑制されます。
フッ素入り歯磨き粉
日本におけるフッ化物配合歯磨剤は、1948年に販売開始し、2010年には市場占有率が90%に上昇しました[4]。
さらに、2017年にフッ化物配合歯磨剤のフッ化物イオン濃度の上限を1,500ppmとする高濃度フッ化物配合歯磨剤の医薬部外品としての市販が、厚生労働省により新たに認められました。欧米諸国もすでにフッ化物配合歯磨剤の上限は1,500ppmです。
フッ化物 | フッ素濃度 | |
日本 | NaF、SnF2、MFP | 1,500ppm以下 |
アメリカ | NaF、SnF2、MFP | 1,500ppm以下 |
欧州 | NaF、SnF2、MFPなど20種類 | 1,500ppm以下 |
フッ素入り歯磨き粉に含まれるフッ化物
日本で承認されているNaF、SnF2、MFPに加えて、世界ではH2SiF6やOlaflurといったフッ化物も使用されています。
フッ化物を使用した虫歯予防の方法
フッ化物を使用した虫歯予防の方法は、3つあります。
- フッ素入り歯磨き粉(家庭で行う方法)
- フッ素洗口(家庭で行う方法)
- フッ化物歯面塗布(歯科医院で行う方法)
フッ素入り歯磨き粉
フッ素入り歯磨き粉を使用した歯磨きは、家庭でできる虫歯予防として普及しています。日本や欧米各国でのフッ素入り歯磨き粉の市場占有率は90%以上です。
クリニカPROは、1450ppmのフッ素を配合していることに加え、クリニカ独自のフッ素が長く留まる高密着フッ素処方を採用し、歯垢を分解・除去する有効成分デキストラナーゼ酵素も配合されています。さらに、口臭予防、歯周病予防、知覚過敏予防、ホワイトニング効果の成分が配合されたオールインワンな歯磨き粉です。
フッ素洗口
フッ化物洗口は、フッ化物を溶かした水でうがいをする方法です。簡単、安価、費用対効果が高いといったメリットがあります。2015年からは市販されるようになりました。
エフコートは第3類医薬品で、大人向けの爽やかなメディカルクールの香味が特徴の、フッ素配合マウスウォッシュ(洗口液)です。1日1回、指定されている量のエフコート口に含み、30秒~1分間ぶくぶくすすぐことで、虫歯予防の効果が期待できます。
フッ化物歯面塗布
フッ化物歯面塗布は、歯のエナメル質表面に直接フッ化物を作用させるほうほうです。年数回の実施で虫歯予防効果があるため、小児にとっては負担の軽いフッ化物応用方法です。ただし、家庭ではできず歯科医院で実施する方法です。
まとめ
無機化合物のフッ素(フッ化物)は自然界のいたるところに存在します。フッ化物濃度の高い水を飲んでいる人たちに虫歯が少ない減少から、フッ素が虫歯予防に効果的であることが発見されました。
フッ素が虫歯を予防する仕組みは、第一は歯に作用し、ヒドロキシアパタイトの結晶性改善、フルオロアパタイトの生成、さらに再石灰化促進により、歯質を強化し、耐酸性を向上させることです。第二は口腔内の細菌に作用し、主に歯垢中の細菌の解糖系に対する抗酵素作用により、酸産生を抑制することです。
日本で販売されている歯磨き粉には、NaF、SnF2、MFPなどが1,500ppmを上限にふくまれています。
関連文献、サイト
- [1] wikipedia 地殻中の元素の存在度
- [2] wikipedia 元素構成比
- [3] 日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会 フッ化物局所応用実施マニュアル
- [4] 厚生労働省 フッ化物洗口マニュアル(2022 年版)