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g線、i線フォトレジストのメカニズムと化学構造をわかりやすく説明

フォトレジスト フォトレジスト

g線(436 nm)、i線(365nm)のフォトレジストは、ノボラック樹脂、感光材、添加剤、溶媒の混合物です。これら構成成分について化学的に説明します。

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g線、i線フォトレジストとは?

フォトレジストは半導体製造のリソグラフィーにおいてパターン形成させるために使用する材料です。半導体の高性能化に従い、波長の短い光源でリソグラフィーが行われるようになりました。g線、i線フォトレジストは、レガシー半導体と呼ばれる旧世代の半導体製造に使用されたフォトレジストです。しかし、先端フォトレジストより価格が安いため、2020年台でも微細化がそれほど求められないパターンを形成する際には用いられています。

g線、i線フォト​​レジストのメカニズム

通常フォトレジストは、ベース樹脂、感光材、添加剤、溶媒の混合物です。一般的に使用されているg線、i線フォト​​レジストは、ベース樹脂がノボラック樹脂で、感光材はジアゾナフトキノン化合物が使用されます。リソグラフィーのエッチング工程での耐性を持たせるため、ベース樹脂や感光剤には芳香環を有する化合物が使用されています。

g線、i線レジスト材料の一例

ノボラック樹脂そのものはフェノール性水酸基の影響で現像液(アルカリ水溶液)に可溶です。しかし未露光部では、ノボラック樹脂とジアゾナフトキノン化合物の混合物は強い水素結合で架橋されて現像液への溶解性が低下します(下図A)。さらに現像工程では現像液中の塩基によってジアゾ基とフェノール水酸基が反応して架橋構造を形成し、現像液に不溶となります(下図B)。

一方、露光部では、ジアゾナフトキノン化合物はウルフ転移してケテンとなり(下図C)、さらに現像工程で水と反応してカルボン酸になります(下図D)。露光前のジアゾナフトキノン化合物は現像液(強アルカリ水溶液)に溶解しませんが、カルボン酸になると現像液に溶解するようになります。

このように非露光部は現像液に不溶、露光部は現像液に可溶となり、ノボラック樹脂/ジアゾナフトキノン系レジストはポジ型レジストとなります。

g線、i線レジスト材料の露光工程

g線、i線フォト​​レジストを構成する化合物

g線、i線フォト​​レジストは、ベース樹脂がノボラック樹脂で、感光材はジアゾナフトキノン化合物が使用されます。それぞれの化合物について詳しく説明します。

ベース樹脂(ノボラック樹脂)

ノボラック樹脂の原料モノマー

g線、i線フォト​​レジストのベース樹脂であるノボラック樹脂は、一般にm-クレゾール、p-クレゾールおよびホルムアルデヒドから製造されます。クレゾールは以下の点でg線、i線用ノボラック樹脂原料として優れています。

  • 適度な現像液への溶解性を有している
  • 樹脂の軟化点が高いため、耐熱性に優れている
  • メタパラ比率を変化させることにより特性調整できる

一方、フェノールは以下の問題があり、g線、i線用ノボラック樹脂原料としては通常使用されません。

  • 現像液への溶解性が高く、非露光部でも現像液へ溶解して解像度が低くなる
  • 軟化点が低いため、耐熱性が低い

クレゾール異性体の比率、樹脂の分子量や分子量分布は、解像度に影響を与えます。m-クレゾールはアルデヒドとオルト-オルト位、オルト-パラ位で結合し、ランダムで柔軟な構造となります。そのため、m-クレゾールとホルムアルデヒドからなるノボラック樹脂の水酸基は遊離状態で互いに会合しにくく、現像液へ溶解しやすいです。

p-クレゾールはアルデヒドとオルト-オルト位で結合し、直線状に規則正しく並び、水酸基同士が分子間で会合して現像液への溶解性が低下します。

m-クレゾールを使用したノボラック樹脂でも、ホルムアルデヒドとのオルト-オルト位結合が増えると、水酸基同士が分子間で会合して現像液への溶解性が低下します。

オルト-オルト位結合が増えると、会合によりノボラック樹脂が現像液に溶解しにくくなり、非露光部で現像液への溶解性が下がるため、コントラスト(現像液への溶解度差)が向上します。しかしオルト-オルト位結合が増えすぎると、露光部でも現像液へ溶解しにくくなってしまうため、一定量のm-クレゾールを使用してオルト-パラ位結合を組み合わせる必要があります。

クレゾールの異性体とノボラック樹脂

クレゾールのほかにも、キシレノール、トリメチルフェノールなどの炭素数を増やしたフェノール系モノマーが使用されることがあります。これら炭素数の増えたモノマーを使用すると、樹脂の耐熱性が向上します

ノボラック樹脂の分子量分布

g線、i線レジストの露光部では、ノボラック樹脂の低分子量成分や分解した感光材などの溶解性の高い成分が先に現像液に溶出します。その後、溶出した隙間に現像液が入り込んで、最終的には溶解性の低いノボラック樹脂の高分子量成分も溶解するモデルがする提案されています。このモデルは、石垣がくずれる様子に例えて石垣モデルと呼ばれます。

石垣モデル
(出典:高分子論文集, 1989, 46, 745

石垣モデルによると、ノボラック樹脂の低分子量成分は露光部の現像液への溶解速度を向上させる効果があります。また、低分子量成分は運動性が高いため、非露光部での感光材とのジアゾカップリングの反応性も高いです。そのため、低分子量成分は感度と解像度を高めるために重要な成分です。

耐熱性はノボラック樹脂の軟化点におおむね対応します。つまり、軟化点の高いノボラック樹脂の高分子量成分は耐熱性を向上させ、軟化点の低いノボラック樹脂の低分子量成分は耐熱性を低下させます。このように、高分子成分は耐熱性を高める成分です。

石垣モデルによると、高分子成分と低分子成分からなる、中分子量成分の少ないノボラック樹脂が理想的です。そこで、中分子量成分を除去したノボラック樹脂で、感度、解像度、耐熱性を高めたg線、i線レジストが開発されました。

ノボラック樹脂の合成方法

ノボラック樹脂は、一般的に酸触媒によるm-クレゾール、p-クレゾール、ホルムアルデヒドの縮合によって製造されます。酸触媒には、塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸、シュウ酸がよく使用されます。

フォトレジストに使用されるノボラック樹脂の分子量(Mw)は、一般に1,000~20,000です。現像工程では、ノボラック樹脂は分子量が小さいものから現像液に溶解します。分子量(Mw)が同じでも分子量分布(Mw/Mn)が異なる樹脂は、低分子量成分の量に差があるため現像液への溶解速度が異なります。

ノボラック樹脂の現像液への溶解速度を調整するため、いくつか合成方法が開発されています。ひとつはノボラック樹脂の分子量分布を調整する方法です。例えば、ノボラック樹脂を分別精製して高分子量樹脂を得た後、低分子量樹脂を加えて分子量分布が調整します。これは、石垣モデルに従って中分子量成分を減らすための合成方法です。この方法は、樹脂の分別精製工程の収率が低い欠点があります。

もうひとつはノボラック樹脂のオルトーオルト結合比率を上げてコントラストを高くする方法です。まずp-クレゾールとホルムアルデヒドを縮合させBHMPCとし、次にBHMPCとクレゾールを縮合させます。この2段階重合法で得られたノボラック樹脂は、オルト-オルト結合の割合が高く、分子量分布(Mw/Mn)が狭く、フォトリソグラフィー性能が優れています。クレゾールの反応性はm-クレゾール>p-クレゾールのため、p-クレゾールを優先させて反応させたい場合は2段階にする必要があります。

ノボラック樹脂の二段階合成法

感光材(ジアゾナフトキノン化合物)

一般的に感光材としては複数の水酸基を持つポリヒドロキシ芳香族化合物にジアゾナフトキノンを結合させたものが用いられます。感光材のジアゾナフトキノン部分は分子の結晶性を上げます。レジスト塗膜中に結晶化すると素子欠陥の原因になるため、感光材の結晶性を上げないようにするため、一部のヒドロキシル基のみジアゾナフトキノン化させることもあります。

感光材の例

添加剤

石垣モデルに従い、低分子量の水酸基を持つ低分子化合物が添加剤として使用されることがあります。

低分子添加剤

NHSE添加剤は、疎水性ですがアルカリ現像液に可溶であり、フォトレジストの溶解を促進してフォトリソグラフィーパターンのコントラストを向上させることができます。

NHSE添加剤

界面活性剤を添加すると、フォトレジストのレベリングと膜形成の均一性が向上し、縞模様が防止されます。

UV吸収剤を添加すると、光の反射によって発生する定在波による悪影響を防止できます。



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参考文献

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