PETは世界で4番目に多く製造されるプラスチックで、PETをリサイクルすることは循環型社会の実現にとって大きな意義があります。PETは、透明性や高耐久性など様々な特徴を持つ素材で、飲料用容器として身近なところで使用されています。
日本では容器包装リサイクル法や業界の自主設計ガイドラインによってPETをリサイクルする仕組みが整っており、約85%の世界一高いリサイクル率を達成しています。リサイクルされたPETは、飲料用ボトル、シート、繊維などに再生されます。
PETをリサイクルする方法には、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルの3種類があります。それぞれのリサイクル方法の内容や長所と短所を説明します。
PETとは?
PETは、Polyethylene terephthalateの略で、以下の化学式で表されるポリマーです。
PETの製造量
世界で製造されるプラスチックは多いものから順に、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)となり、PETは4番目に製造量の多いプラスチックです。その次はポリウレタン(PUR)、ポリスチレン(PS)の順です。
PETの特徴
PETは、透明性、高耐久性、耐摩耗性、高い引張強度、寸法安定性、ガスバリア性、熱安定性、耐薬品性、耐紫外線性など様々な特徴を持つ素材です。
また、PETは比重にも特徴があります。通常のプラスチックは比重が1より小さいのに対してPETの比重は1より大きいため、水に入れて沈むPETと沈まないほかのプラスチックを分別することができます。単一の素材に選別することはリサイクルにとって重要なため、PETはリサイクルしやすい素材と言えます。
PETの用途
PETの用途で最も多いのは飲料用容器で、全体の70%程度の割合を占めます。
その他にも、食品容器、繊維、自動車部品、電子部品(絶縁材料)、建設資材、医療用チューブなどの用途で使用されています。
日本におけるPETの回収
容器包装リサイクル法
日本では1997年に容器包装リサイクル法(容リ法)が施行され、アルミ缶、スチール缶、ガラスびん、紙パック、段ボール、紙製容器包装、PETボトル、プラスチック製容器包装の8種類はリサイクルが義務付けられました。
対象となる容器である使用済みPETボトルは、消費者、市町村、事業者が役割分担してリサイクルすることになっています。
1 | 消費者 | 使用済みPETボトルの識別表示を確認し、お住まいの市町村のルールにしたがって、指定PETボトルを分別廃棄します。 |
2 | 市町村 | 消費者から排出されたPETボトルを分別収集し、中間処理(異物や汚れがひどいものを選別、圧縮梱包)、保管を行います。 |
3 | 事業者 | 中間処理を行った分別基準適合物を市町村から引き取り、フレークやペレットなどの再生PET原料を製造(再商品化)します。 |
4 | 再商品化製品利用事業者 | 再商品化事業者が製造した再生フレークや再生ペレットを原料として、繊維製品、シート製品、成形品などのリサイクル製品を製造します。 また、高度な処理により、飲料や特定調味料のPETボトル用ポリマーに戻すこともあります。 |
指定PETボトル
資源有効利用促進法により、内容物および内容物のにおいが簡易な水洗浄により除去できるPETボトルは指定PETボトルとされ、指定PETボトルの識別マークを使用することが義務付けられています。一方、PETを使用したボトルであっても、指定PETボトル以外のものは、その他プラスチック製容器包装に区分されます。(出典:PETボトルリサイクル推進協議会 識別表示マーク)
自主設計ガイドライン
PETボトルリサイクル推進協議会は、指定PETボトルをリサイクルしやすいように使用するボトル、ラベル、キャップ等について自主設計ガイドラインを規定しています。(出典:PETボトルリサイクル推進協議会 PETボトル自主設計ガイドライン)
- ボトルは、PET単体(PET主材以外の物質を添加、複合しない)、無着色とする。
- ボトル本体への直接印刷は行わない(微細な表示は除く)。
- 把手は、無着色のPETもしくは比重1.0未満のPE、PPを使用する。
- ラベルやキャップは、PVCやアルミを使用せず、再生処理の比重・風選・洗浄で分離可能な材質・厚さであること。
消費者がPETボトルのリサイクルで気をつけるべきこと
■PETボトル本体とキャップ、ラベルは分別廃棄
PETボトル本体とキャップは固着を防ぐため別素材のプラスチックが使用されます。リサイクルしやすくするため、本体は水に沈むPET(密度1.38g/cm2)、キャップは水に浮くポリプロピレンやポリエチレン(密度0.90~0.96g/ cm2)とし、水を使用した比重分離が容易にできるよう、業界の自主設計ガイドラインで定められています。
そうはいってもリサイクルするPETに余計なものが多く入っていると、リサイクル行程中でPETのみに分離選別しきれない可能性がありますので、消費者としては分別廃棄してリサイクルに協力しましょう。
■回収前にPETボトルを軽く水洗いする
内容物が入った状態だと、再生するPETの品質が下がる可能性があります。また、PETボトルにごみなどの異物を入れないようにしましょう。
■リサイクルボックスにPETボトル以外を入れない
自販機横のリサイクルボックスにPETボトル以外のごみが入っていることがありますが、PETボトルが汚れて再生するPETの品質が下がる可能性がありますので、ゴミは入れないようにしましょう。
何でも入れていいゴミ箱と勘違いしている人もいるそうです・・・
■あえてリサイクルしないほうがいいPETがある
着色されているPETボトルや簡易な水洗浄で汚れを落とせないPETボトルをリサイクルに出すと、再生するPETの品質が下がるため、あえてリサイクルせず燃えるごみとした方がいいです。
- 着色されているPETボトル:輸入PETボトル(ウォーターサーバー、ワインボトルなど)
- 簡易な水洗浄で汚れを落とせないPETボトル:食用油の容器(オリーブオイル、一部のドレッシングなど)
日本のPETリサイクルの現状
PETのリサイクル率
日本は容器包装リサイクル法があるためPETボトルの回収率が94.0%(2021年度)とかなり高く、リサイクル率は約85%で世界トップです。
PETのマテリアルフロー
PETのマテリアルフロー(2022年)からは、指定PETボトル販売量(国内製品574千トン+輸入製品9千トン)に対して回収量(市町村330千トン+事業系328千トン、キャップやラベルなどを含む)であり、高い回収率であることがわかります。
安全面や衛生面から、再生品をPETの主用途である飲料用PETボトルにする水平リサイクルは、再生品414千トンに対して169千トンで約40%でした。PETボトルのほかには、シート(卵パック、プリスターパックなど)、繊維(自動車の内装材、カーペット、ユニフォームなど)、その他(結束バンド、ごみ袋、回収ボックスなど)
PETのリサイクルの種類
PETのリサイクルには、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルの3種類あり、それぞれ長所と短所があります。
長所 | 短所 | |
マテリアルリサイクル | ・比較的低コスト | ・石油由来原料と比較して再生品の品質が劣化(技術進化により高品質化している) |
ケミカルリサイクル | ・石油由来原料と同じ品質の製品を製造できる | ・高コスト ・高エネルギー |
サーマルリサイクル | ・汚れているPETてもエネルギーとしてリサイクルできる | ・焼却でPETは失われるため繰り返しのリサイクルはできない |
マテリアルリサイクル
マテリアルリサイクルは、使用後の製品を破砕、分別、洗浄し、同じ製品や異なる製品の原料として再利用する方法です。リサイクルに必要な設備が他の方法に比べて少ないため、製造コストや環境負荷を低く抑えることができます。
一般的にマテリアルリサイクルでは微量の不純物やポリマーの分解の影響により、再生品の品質は低下する傾向があります。そのためマテリアルリサイクルした再生品は石油由来原料と混合して使用されてきました。
しかしマテリアルリサイクルの技術は進化しており、再生品のみで飲料用PETボトルに再使用できるほど高品質な方法も開発されています。
使用済みPETボトルや、工場で出るフィルムやポリマーの生産・加工時の端材がマテリアルリサイクルされます。特に工場で出る端材は不純物を含まないため、マテリアルリサイクルの原料として適しています。
ケミカルリサイクル
ケミカルリサイクルとは、回収したPETボトルなどのPETを化学的な手法でポリマーの原料(モノマー)に戻し、再び重合してポリマーを製造する方法です。一度モノマーに戻して製造するため、石油由来原料と同じ品質の製品を製造できる点がメリットです。ケミカルリサイクルは大型設備が必要なため、リサイクルの中では比較的コストやエネルギーを必要とするデメリットがあります。
PETはエステル結合で重合するポリマーのため、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンよりも化学的にモノマーに戻しやすくケミカルリサイクルしやすい素材です。
サーマルリサイクル
サーマルリサイクルとは、廃棄物を燃やすときに発生する熱エネルギーを発電や給湯、暖房に利用するリサイクル方法です。
落としにくい汚れがあるPETや指定PETボトル以外のPET製品は、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルできず、サーマルリサイクルされます。
サーマルリサイクルはリサイクルではないという意見もありますが、廃棄物を燃やすことで石油を燃やす量を減らすことができるため、十分に意義がある取り組みです
PETのリサイクル関連企業
マテリアルリサイクル関係企業
- エフピコ
- 協栄産業
- ジャパンテック(協栄産業グループ)
- 東京ペットボトルリサイクル(協栄産業グループ)
- フェイス沖縄(協栄産業グループ)
- J&T環境
- 利根川産業
- エコマテリアル
- タッグ
- 大島産業
- 西日本ペットボトルリサイクル
- ウツミリサイクルシステムズ
- トベ商事
- ウィズペットボトルリサイクル
- 北海道ペットボトルリサイクル
- INDORAMA
ケミカルリサイクル関係企業
JEPLAN
JEPLAN(Japan Environment PLANning)は、2007年に設立された日本の企業で、主にPETボトルやポリエステル繊維のケミカルリサイクル技術を活用し、廃棄物を再生して新たな製品に生まれ変わらせる「循環型経済」の実現を目指しています。
JEPLANの技術は、廃ペットボトルや廃ポリエステル繊維から石油由来と同等品質の再生PET樹脂を製造することができ、これによりペットボトルからペットボトル、ポリエステル繊維からポリエステル繊維への水平リサイクルを可能にしています。
JEPLANは、持続可能な社会の実現に向けた取り組みとして、国内外で注目を集めています。
ペットリファインテクノロジー(JEPLANグループ)
ペットリファインテクノロジーは、2008年に設立された日本の企業で、独自のケミカルリサイクル技術を用いて、使用済みペットボトルを石油由来と同等品質のペットボトル原料に再生することを専門としています。
ペットリファインテクノロジーの技術は、不純物を多く含むペットボトルでも化学的に分解し、不純物を取り除くことで高品質な再生PET樹脂を製造することが可能です。この技術により、「ボトルtoボトル」の資源循環を実現し、持続可能な社会の構築に貢献しています。
2018年には、JEPLANのグループ会社となり、グループ全体のミッションである「あらゆるものを循環させる」のもと、使用済みペットボトルの完全循環を目指して事業を展開しています。
revalyu Resources
revalyu Resourcesは、画期的な化学的リサイクル技術を商業化した企業です。この技術により、使用済みのペットボトルを高品質な再生PET樹脂に変換することができます。このプロセスは、従来の機械的リサイクル技術とは異なり、低温グリコリシス法を使用してPETボトルを分解し、持続可能なエステル(モノマー)に変換します。
この技術により、再生PETは従来の石油由来のPETと同等の品質を持ち、ポリエステル繊維やPETボトル、フィルム、持続可能なPET包装など、さまざまな製品の製造に使用できます。revalyu Resourcesは、グローバルに事業を展開し、使用済みペットボトルのリサイクルを推進することで、持続可能な社会の実現に貢献しています。
関連書籍
本書はプラスチックのリサイクル技術を網羅的に解説しています。廃プラスチックリサイクル技術概論から始まり、マテリアルリサイクルとケミカルリサイクル技術の開発動向と応用展開、プラスチック包装材料に関わる国内外の法規制、廃プラスチックリサイクルにおける要素技術の開発動向など、幅広い内容です。個人で購入するには高額な本です。プラスチックのリサイクルに事業として取り組む方におすすめです。